親の家を片づけて処分する「実家じまい」。まだ先のことだと思っている人も多いだろう。しかし、親が生きているうちから始めておかないと後でかなりの苦労をすることになる。そこで専門家に超基本を聞いた!
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■空き家になった実家の管理は意外と大変!
親の家を処分する「実家じまい」は「親が亡くなってからの話でしょ」と思う人が多いかもしれない。
しかし、ひとり親が高齢になり介護施設などに長期入所する場合や、健康上の不安から自分の家の近くに呼び寄せたり、同居する場合も実家は空き家となり、さまざまな問題が発生するのだ。
NPO法人空家・空地管理センターの伊藤雅一氏が解説する。
「実家じまいの相談は、2018年に約2000件でしたが、22年には約3万8000件と4年間で約19倍に増えました。
その内容は、『お母さんが実家にひとりで住んでいて、70代後半の後期高齢者だけど、まだまだ元気だなと思っていたら、ある日、認知症になってしまった。それで介護施設に入るのだけど、実家が空き家になってしまうのでどうしたらいいでしょうか』というような相談がとても多いんです。
この背景のひとつに、団塊の世代(1947~49年生まれ)の持ち家率の高さがあります。内閣府の『高齢社会白書』(2012年版)によると86.2%です。
そして、団塊の世代は2025年には、全員が75歳以上の後期高齢者となります。今後、実家の空き家は確実に増えていくでしょう。
一方で、団塊の世代の子供である団塊ジュニア世代(1971~74年生まれ)は現在40代後半から50代前半です。
親から離れて仕事をしていたり、結婚していたり、自分たちの生活がすでに確立しているので、空き家になった実家に住むことは現実的には難しい。しかも、結婚していれば自分だけでなく相手の親の実家の問題も出てきます」
では、実家が空き家になるとどんなことが起こるのか。
「庭付き一軒家の場合、庭の植木や雑草がどんどん伸びます。そして、隣の家にまではみ出して迷惑がかかることがあります。だから、定期的に実家まで植木を切りに行かなければいけません。また、空き家だとわかると庭にゴミを捨てられることも多いので注意が必要です。不審者に侵入されることもあります。
それに、屋根などが傷んでくると、台風や突風などで瓦が飛んで隣の家を傷つけてしまうケースもあります。
実際に空き家になった実家の屋根瓦が飛んで、隣の家の車を傷つけてしまったという方がいました。遠方からすぐに駆けつけ、隣人に謝り、修理代を弁償し、屋根に上って瓦が飛ばないようにネットを張ったりするなど、とても苦労したそうです」
空き家になった実家の維持費については?
「東京都内の分譲一戸建てのケースでは、固定資産税や光熱費、年2回の植木の手入れ、火災保険の加入などを含めて、年間25万円から30万円くらいでしょうか。
ただ、雨漏りなどがあった場合は、その修理が必要になりますし、近所から『ゴミが捨てられていて臭い』『美観を損なう』などと言われたら、そのゴミを処分しなければいけません。そうした空き家を管理するための費用が別にかかってきます。
また、空き家だとわかると、空き巣や放火などのターゲットにされる場合も多いので、日頃から掃除などをして『この家は家主がいて、きちんと管理している』という印象を与える必要があります。維持にはそれだけのお金と手間がかかります」
実は適正に管理されていない空き家があまりにも多いので、15年に「空家等対策特別措置法」が全面施行された。
「空き家で不適切な状態にあると自治体から『特定空家』に指定されます。特定空家に指定されると、それまで建物がある土地だから適用されていた固定資産税の軽減措置などがなくなり、税額が最大6倍になります。
また、自治体が何度改善要求をしても適正な管理が行なわれず、植木が道路にはみ出ていたり、ゴミが放置されていたり、倒壊の恐れがあるような空き家は『行政代執行』といって、自治体が強制的に必要な対策を取ります。この費用は所有者に請求されます」
空き家となった実家を長期間管理するのは、意外と大変なようだ。となると、早めに「貸す」か「売る」という選択をしなければいけない。
「私たちが最初に聞くのは、『この資産(空き家)を持ち続けたいのか、手放したいのか』ということです。将来、自分が住もうと思っているならば、なるべく早く人に貸して、住んでもらったほうがいい。
空き家になって半年以上たつと修繕費が高くなります。日本は湿度が高いので、頻繁に空気の入れ替えをしないとカビが生えたり、壁紙が剥がれたり、床が傷んだりします。
また、内装をきれいにするとなると、天井、壁、和室の修理だけでも100万円くらいはかかりますし、お風呂や給湯器やガスコンロなども壊れていると、300万円以上かかる場合もある。
一戸建てだと、200万円から300万円が貸し出しを検討する際の修繕費の上限だといわれています。これは、月10万円の家賃で2、3年で回収できる金額です。修繕費がそれ以上かかると赤字になるケースが多いようです。
逆に言うと、月10万円以上で貸し出せるクオリティの家かどうかということが、貸す場合の基準になるかもしれません。
しかし、これは都市部の話で、地方になると『月10万円以上の家賃を払うなら家を購入する』と考える人が多いのも現実です」
貸せないとなると、売るしかない?
「手放したいということであっても、空き家になって数ヵ月の家と、数年たった家とでは中古戸建てとしての売買価格が大きく変わってきます。ですから、売る場合も早いほうがいい。
また『家を売るときは、家付きがいいのか更地がいいのか』という相談も受けますが、古い建物であっても、それを直して使いたいというニーズがあるので、雨漏りがひどいなどよほど壊れた家でない限り、家は壊さないほうがいいと思います。
さらに、家付きの土地と更地では、固定資産税が大きく変わってきます。家付きの土地は住宅用地の特例があり評価額の6分の1に軽減されています。ですから、家付きで売るほうが節税にもなります。
ただ、更地で買いたい人もいるでしょうから、例えば『建物はこちらで更地にすることも可能です』という売り出し方もあります。そのときも固定資産税は1月1日の状態でかかってくるので、壊すタイミングは年内ではなく、年が明けた1月に入ってからがいいと思います」
ちなみに、更地にする費用はいくらくらい?
「3LDKくらいの一般的な戸建てだと150万円から200万円くらいでしょうか。それに細かい話ですが、売り主には隣家との境界を明確にするための測量が必要だったり、売却の手数料や諸費用がかかってきたりもします」
空き家になった実家は、貸すにしろ売るにしろ大変だ。さらに、この後には実家の家財整理も待っている。