親の家を片づけて処分する「実家じまい」。まだ先のことだと思っている人も多いだろう。しかし、親が生きているうちから始めておかないと後でかなりの苦労をすることになる。そこで、前回配信した【空き家になった実家の管理編】に続き専門家に超基本を聞いた!
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■99%を捨てて1%を残すのが遺品整理!
遺品整理ファシリテーターで『親ともめずにできる これがリアルな実家の片づけです。』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などの著書がある「遺品整理の埼玉中央」代表の内藤 久氏に実家の家財整理のコツを聞いた。
「家財整理には『生前整理』と『遺品整理』のふたつがあり、私たちへの依頼の95%以上は遺品整理です。
というのも、お年寄りは家にあるモノに対して思い出がたくさん詰まっていますし、家の中にモノが多くても現在の生活に不自由は感じていません。それを自分の子供からでも『捨てろ』『家財を整理しろ』と言われるのは迷惑な話です。場合によっては、けんかになるかもしれません。
生前整理は介護施設に長期入所するとか、子供と同居するなど特別な場合を除いて、なかなか難しいと思います。ですから、親が亡くなったときに速やかに遺品整理できるようにしておくことが重要になってきます。
といっても、実際に親が亡くなって、その遺品整理をする段階になると、今まで不要だと思っていた親の家財の見え方が違ってきます。
例えば『これは自分が小学校の卒業式のときに母が着ていた着物だ』『これは両親の銀婚式に私が贈ったお皿だ』などと思い出すと、躊躇(ちゅうちょ)せずに捨てることができなくなるのです。
そして、持ち家の場合は遺品整理がなかなか進まず、家の中にそのまま家財が放置されるケースが割と多い。そこで、どうすればいいかというと、親が生きている間に親からその家財の思い出を聞き出しておくことです。
例えば、アルバムが100冊あったら『この中で一番好きな写真のあるアルバムはどれ?』と聞いておく。すると、その1冊だけ残しておくことで、ほかの99冊の判断がしやすくなります。実家の遺品整理は〝形見分け〟です。99%を捨てて1%を残すことだと思ってください。
家具も、例えば『このソファ高そうだね』『いやいや、これは家を建てたときにソファがあるといいなと思って、安売りで手に入れたものなんだよ』というやりとりがあれば、迷わずに捨てることができるはずです」
親とコミュニケーションをとって思い出を聞き出しておくのは家財だけではない。家自体についても聞いておくと、その後の判断が楽になる。
「例えば『この家は父さんが建てたもので地元にしがらみがあるわけではないから、おまえたちの好きなように処分してもらって構わないよ』というような話を聞いておけば、仮に家を売ることになっても罪悪感は減るはずです」
そして、一番重要なのは財産に関することだ。
「親がどれだけの財産をどこに持っているかは、子供にとって聞きづらいものです。それに本人自身が忘れている場合もあるでしょう。しかし、親が亡くなったときに一番重要になってくるのは、この財産に関することです。
そこで、財産の保管場所を聞き出す魔法の言葉があります。それは『今、うちでは預金通帳は書斎の引き出しの中、印鑑は台所に置いてあるんだけど大丈夫かな? 父さんはどうしてる?』と相談すると『うちは銀行の貸金庫に預けているよ』と話してくれるかもしれません。『父さん、預金通帳はどこに置いてるの?』と直接的に聞くと反感を買うかもしれないので、相談するように聞くのがいいでしょう」
実家に帰ったときに親といろいろな話をすることが、遺品整理を早く終わらせるコツなのだ。では、実際に遺品整理をするとなったら、どんな手順がいいのか?
「親が亡くなると、葬儀や遺産の相続、納骨の手配などやることがたくさんあって、実家の遺品整理は最後になることが多いでしょう。
しばらく空き家になった家は近所から注目されているので、まずはご近所にきちんと挨拶をしておくことをオススメします。
そして、実際の実家の遺品整理は、まず玄関から始めてください。玄関にあるモノは処分するのに躊躇することは少ないはずです。
次に廊下。これは動線を確保するためです。奥の部屋から荷物を出す場合に廊下が片づいていないと効率が悪いですし、タンスなどの大きな家具を動かす場合に廊下にモノが置いてあると転倒の危険があります。
廊下の次は、自分の部屋です。自分が使っていたモノは捨てるかどうかの判断が簡単です。そして、部屋をひとつ空けたら、そのスペースを使って、ほかの部屋にあるモノを出して広げて、処分するか残しておくかを判断していくのです」
自分や親族にとって必要な1%の遺品が決まったら、あとは遺品整理業者に処分をお願いすることになる。業者を選ぶときに注意することは何か?
「遺品をただ捨てるだけの業者なのか、それとも遺品の中に預金通帳などが残っていないかなどすべてチェックしてくれる業者なのか判断することです。
例えば、3LDKの家で遺品整理する場合、捨てるだけなら1日で終わらせることが可能です。しかし、すべての中身をチェックするとなると数日かかったりします。すると料金は倍以上になることもあります。その、どちらを選ぶかです。
また、良心的な業者は過去にあったトラブルを教えてくれます。例えば『このようなマンションは、世帯数に比べてエレベーターの数が少ないので、過去に遺品を外に持ち出すときに住人から苦情がありました。自治会に連絡をしておいたほうがいいかもしれません』などと見積もりのときに教えてくれるのです。
ですから、逆に『過去に似たようなマンションでどんなトラブルがありましたか?』と聞いて、丁寧に教えてくれる業者は経験が豊富で信用できるかもしれませんね」
親が亡くなったときに考えるのでは遅い実家じまい。もしもの時に備えて、次に実家に帰ったときは、うざいと思わずに親の思い出話のひとつでも聞いておいたほうがいいかもしれない。