10年に一度の「花粉イヤー」で、結局マスクは外せない!10年に一度の「花粉イヤー」で、結局マスクは外せない!

3月13日、ついに国民がマスクから解放され......なかった!? 今年の花粉がいつもよりツラいのは、"粉砕花粉"とやらが原因らしい!

「それって危ないの?」「何か対策法はあるの?」そんな花粉の新常識を専門家に聞いてきました! もう花粉症の人も、まだの人も必見です!

■日本のスギは青年期真っただ中!

もはや生活の一部となっていたマスクの着用がついに原則不要に。やっと息苦しさから解放される......と思ったのに。今年の花粉がキツすぎて、外せないんですけど!

そんな花粉の最新事情を聞きに、花粉症原因物質研究の第一人者、埼玉大学工学部教授の王 青躍(せいよう)氏に直撃!

――今年、花粉がマジでヤバくないですか?

 昨年はあまりひどくなかった花粉ですが、今年は例年の10倍以上は飛んでいます。例年、3月中旬頃に飛び始めるスギ花粉が2月末と早い時期から飛び始めた。この立ち上がりもあって、どんどん増えていきました。今年は間違いなく10年に一度のピークを迎えています。

――なんと、10年に一度の花粉イヤーだったのか!

 そもそも、花粉の量は年々増加傾向にありました。その原因は日本にあるスギの年齢。多くが高度経済成長期に植えられたため、40歳から50歳くらい。これは人間でいうと20代の青年くらいの若さで、多くのスギは子孫を残そうと、花粉を大量に作るんです。

その上、スギの青年期はここからさらに100年以上続くと考えられています。皆さんの孫の代までは確実に続きます。

――花粉が増えているなら、花粉症患者も増えている?

 当然、急増しています。20年前は国民の2割だった花粉症患者が、今では国民の4割に増えたという統計もある。ちなみに都市部ではよりひどく、5割が花粉症患者だといわれています。将来的には、日本人全員が花粉症になることもありえるかもしれない。ただ、今年の花粉量はかなり特殊なくらい多いです。

――それはなんで?

 原因は昨年の気候です。昨年の7月は気温が高く、日射量も多かったので、スギの雄花の成長に好条件だったんです。今年は、これまで花粉症とは無縁だったという人も続々と発症しているほど。実は発症者が増えた以外に、近年は症状にも変化が起きています。

埼玉大学大学院理工学研究科教授・王 青躍先生埼玉大学大学院理工学研究科教授・王 青躍先生

――花粉症といえば、鼻水が止まらなかったり、目がかゆくなったりするイメージです。

 目や鼻の症状のほかに、おなかが緩くなるとか、体がだるくなることも。目や鼻に症状がないから自分は花粉症じゃない、と思っている人も、実は花粉の影響を受けている可能性があるんです。

特に最近は、子供を中心に「花粉ぜんそく」が増えています。息苦しくなったり、咳(せき)が止まらなくなったり、新型コロナウイルスやインフルエンザにも似た症状なのですが、コロナやインフルの薬はもちろん効きません。あくまで花粉が引き起こすアレルギー症状なので。

あるとき、耳鼻咽喉科の先生方に「花粉ぜんそく」の話をしたら、後日連絡が来て、「長い間、ぜんそくの薬を投与してもなかなか快復しなかったぜんそく患者に、花粉症の薬を出したらすぐに治っちゃった!」って。

年配の方で、相当苦しめられていたらしいんです。そういった症例もあるので、花粉は命に関わると言っても過言ではなくなってきました。

■花粉が破裂し、中身が肺を襲う

――花粉症の症状が重くなっているのはなぜですか?

 本来は花粉の中に閉じ込められているはずのアレルゲン物質が、空気中で飛散しまくっているからなんです。花粉本体の大きさをサッカーボールにたとえると、アレルゲン物質はBB弾ぐらい。PM2.5よりも小さく、ウイルスであるコロナとほぼ同等のサイズの微粒子で、それが花粉の中に詰まっているイメージです。

花粉本体は比較的大きいので、鼻の粘膜でキャッチされます。それが従来の鼻水やくしゃみなどの症状を引き起こしていました。一方で、アレルゲン物質は非常に小さいため、鼻をすり抜けて呼吸器の奥まで入り込んでアレルギー反応を起こしちゃう。そのため、ぜんそくなどの症状も出るようになったのだと考えられます。

――今年の花粉はもろくて壊れているってことですか?

 先ほど申し上げたように、昨年の気候はスギにとって好条件だったので、今年の花粉の多くは健康的で頑丈なはずなんです。頑丈な花粉は、掃除機でかき回しても、足で踏みつけても壊れません。それこそサッカーボールのようなイメージ。何度踏もうが壊れませんよね。

――ではなぜその中からアレルゲン物質が出ちゃっているの?

 これには排気ガスなどによる大気汚染が関係していると考えられます。空気に含まれる窒素酸化物や硫黄酸化物由来の微粒子が弱塩基性の花粉にダメージを与えているんです。最近飛んでいる黄砂もそう。

加えて、もろくなった花粉は表面から水分を吸って膨張すると破裂するんです。つまり一番の敵は雨。特に5㎜以下の小雨は花粉を洗い流すこともできず破裂だけさせるので、最も危険なんです。

スギ花粉本体、大きさは20~30μ程度。表面に付着している粒は表面ユービッシュ小体といい、アレルゲン物質が多く含まれているスギ花粉本体、大きさは20~30μ程度。表面に付着している粒は表面ユービッシュ小体といい、アレルゲン物質が多く含まれている

破裂した後のスギ花粉本体。破裂は大気汚染にも影響を受けて引き起こされるため、人間の活動が多い都市部のほうが起こりやすい破裂した後のスギ花粉本体。破裂は大気汚染にも影響を受けて引き起こされるため、人間の活動が多い都市部のほうが起こりやすい

――雨が降った翌日は花粉症がひどくなるんですが、そういう理由があったんですね。

 実際にそれを示すデータもあります。私が、花粉本体とアレルゲン物質の飛散量を調査したところ、花粉本体の飛散量が多い日には、アレルゲン物質も当然多かった。

これはごくごく自然ですが、一方で、小雨が降った翌日に計測したら、花粉本体の量は減ったにもかかわらず、アレルゲン物質を含む微粒子は爆発的に増加したのです。

さらに、微粒子のアレルゲン物質は飛散量が一度増えるとなかなか減らないことも観測できました。花粉本体が地面に落ちても、アレルゲン物質は非常に小さいため、大気中を長く漂い続けるんです。この破裂した「粉砕花粉」は、スギ以外にヒノキやブタクサなどでも同様です。

■「粉砕花粉」との付き合い方とは?

――王先生にズバリ質問させてください。医療は進歩していますが、花粉症って完治できないんですか?

 完治は無理です無理です。諦めてください(笑)。ただ、工夫して緩和することは可能です。先ほどお話ししたように、花粉もあと100年は増え続けます。きちんと対策をして、適切な付き合い方をしていくしか道はないんですよ。

――ちなみに、王先生は花粉症なんですか?

 私は春のスギ、夏秋のブタクサとヨモギも症状が出ます。年中超重症です。

――花粉のスペシャリストである王先生は、どのような対策をされているんですか?

 まずは、なるべく花粉に触れないように心がけます。理想はもう家に引きこもることですよね。そうすれば花粉と関わらなくていい。でも、完全に引きこもるのは難しいじゃないですか。

だから、重視すべきはできるだけ家に入ってくる量を減らすこと。多くの人は一日8時間以上、家にいますからね。いかに家をきれいに保つかが大切です。

私は外から帰ったらすぐに服を脱いで、そのままシャワーで体を洗います。もちろん窓は常に閉め切って、すべての部屋の空気清浄機は24時間稼働させています。

王先生がエステー株式会社と共同開発した花粉対策商品。トドマツの香り成分で、アレルゲン物質の濃度を抑えるという王先生がエステー株式会社と共同開発した花粉対策商品。トドマツの香り成分で、アレルゲン物質の濃度を抑えるという

――ほかには?

 それでも花粉は家に入ってしまうので、重要なのは部屋の湿度。部屋の空気はきれいでも、舞い込んできた花粉は、すでに屋外でダメージを受けている状態がほとんどです。

そこで湿度が高いと、花粉が室内で破裂してしまう。逆に乾燥させすぎても、表面のアレルゲン物質が剥離して、室内に飛散しやすくなるので、花粉対策には、部屋の湿度は50%ぐらいが最適です。

部屋の床掃除をするときにもポイントがあります。掃除機をかける前、水拭きとから拭きで二重拭きすべき。先に掃除機をかけると、床に落ちた花粉をむしろ舞い上げる可能性がある。

それを防ぐために、まず水拭きでつかまえる。ただ、濡れた花粉はそのうち破裂する可能性が高く、掃除機で吸い込んでも掃除機内で破裂してよりいっそうアレルゲン物質をまく場合もある。そのため、水拭きの後にから拭きをして、その後に掃除機をかけるべきなんです。

――そこまでしないと花粉から逃れられない日本では、マスクをしばらく手放せそうにありませんね!

●王 青躍(オウ・セイヨウ)
埼玉大学大学院理工学研究科教授。環境科学研究者。近年、都市部木本類と草本類の花粉とそれらのアレルゲン物質の飛散挙動、PM2.5などの大気汚染による花粉症への影響、花粉症や大気汚染対策についての研究で注目を集めている