周囲に不快感を振りまくクチャラーは、口呼吸の増加とともに増えている周囲に不快感を振りまくクチャラーは、口呼吸の増加とともに増えている
コロナ禍から続いたマスク生活。しかし、マスク着用が個人の判断となったことで、マスクを外す人々や会食の機会も増えてきた。そこで懸念されるのが、「クチャラー」の存在だ。

クチャラーとは、クチャクチャと咀嚼音(そしゃくおん)を立てて食べる人のこと。これを読んでいるあなたもすでにクチャラーになっているかも......。

そもそもクチャラーになるのはなぜなのか。まず宇宙歯科クリニック(東京・西葛西)の深見隼人医師は、クチャラーになる要因をこう分析する。

「主な起因としては、口呼吸、そして歯の喪失や口腔筋力の衰えがあげられます。口呼吸を行なうことで唇などの締まりがなくなり、口腔筋力の低下を加速させているのです。

特に最近は慣れないマスクで息苦しさを感じ、口呼吸をする人が増えたため、口腔筋力が低下している人も増えているかもしれません」

上の前歯の裏側に舌先が収まり、上あごに全体がくっつくのが正しい舌の位置。低位舌になると下の前歯を舌先で押してしまい、歯並びが崩れる可能性も上の前歯の裏側に舌先が収まり、上あごに全体がくっつくのが正しい舌の位置。低位舌になると下の前歯を舌先で押してしまい、歯並びが崩れる可能性も
口腔筋力とは、舌や唇など口周りの筋肉のこと。そもそも舌には定位置があり、舌の先端が上前歯の裏側に全体が上あごにくっついた状態を指す。しかし、舌の筋力がなくなり下がった状態(低位舌[ていいぜつ])になると、うまくコントロールができなくなる。

すると舌本来の食べ物を運ぶ機能が働かず、無意識にクチャクチャと音が鳴ってしまうことに。さらに口呼吸で口を閉じられないため、その音が外に漏れてしまうというわけだ。

深見医師も「今日いきなりクチャラーになることはない」と話すように、口呼吸や口腔筋力の低下は徐々に起きるもの。いつのまにか「クチャラー」は誕生する。

それゆえ厄介なのが、本人はなかなか自覚を持てない点だ。周囲も気まずくて、指摘してもらえることも少ないだろう。ならば、まずは自身でセルフチェックしてみてほしい。

具体的には以下の通りだ。

1.食事の際に一口で大量の食べ物を取り込みがち
2.食べこぼしが多い
3.口が乾燥する
4.「扁桃腺が大きい」と言われたことがある
5.いびきをかく

「一度にほおばれば、咀嚼している間も自動的に口が開いてしまいます。食べこぼしが出るのは、舌の筋力が落ちていて口の中に物を留めておけない状態。口呼吸で口が開いていると口腔内も乾いてしまいます。

そして扁桃腺が大きい人は、鼻から気道に抜ける上気道が狭く鼻呼吸が苦しくなるため、口呼吸をしている可能性が高いです。また低位舌だと同じように気道が狭くなり、そこを空気が無理やり通るため、振動して音が出る=いびきになります。当然、普段も口呼吸になっている恐れもあります」

こうした点は日常生活でも気が付きやすい。他にもチェックポイントはあると、深見医師は続ける。

舌の筋力が低下すると一定の位置にキープするのが難しくなると話す深見医師舌の筋力が低下すると一定の位置にキープするのが難しくなると話す深見医師
「例えば歯科医で治療中に『舌を傷つけられた』という人がいますが、無意識に動かしてしまっている証拠。舌の筋力が低下しているため、口を開けていると舌を一定の位置に保てないんです。

また口腔筋力の低下や口呼吸の人は、年齢にそぐわないくらい口元にシワができたり、頬が下がりやすいのも特徴です。あとは食事中にレコーダーを回し録音することで、自分がクチャラーか確認してみるのもいいでしょう」

ではもし自分がクチャラーだとわかったら、どうすればよいのだろうか。深見医師は「鼻呼吸を意識するのはシンプルですが、いちばん大事」だと話すが、それ以外には?

「あとは食事中ですね。まず食事の際はしっかり噛むことを意識すること。最近はファスティングなど飲料系で食事を済ませる人も増えています。

それと舌を正しく使い食事すること。唇で物を捕らえる→前歯で噛む→噛んだ物を舌で奥に運ぶ→奥歯で噛み咀嚼して飲み込む。この一連の流れを意識し、舌を強化しましょう。いきなり大きく口を開けてしまうと、食べ物を奥に突っ込んでしまい舌を使わずに済んでしまうのです」

さらに舌・頬・唇・顎などの口周りの細かい筋肉を鍛えることができる「あいうべ体操」を取り入れることも、深見医師は推奨する。

「あいうべ体操」は、極端に大きく「あ~」「い~」「う~」「べ~」と口を動かすというもの。「べ~」の際は、舌を前に突き出すのではなく、どちらかというと下に伸ばすように。一連の流れを10回×3セットほど行なうだけなので、気軽に簡単にできる。

見た目はわずかだが、左の写真は「べ~」の際に舌を前に出してしまっている状態。右の写真のように下唇にしっかりつくように伸ばす見た目はわずかだが、左の写真は「べ~」の際に舌を前に出してしまっている状態。右の写真のように下唇にしっかりつくように伸ばす
さらに「舌を正しい位置に置く」トレーニングも重要だ。正しい位置は前述したように「舌の先端が上顎にくっついた状態」だが、この状態で口を閉じ10秒間鼻呼吸してみてほしい。最初は辛くても、慣れてくるとできるようになるという。正しい位置にないと、発音や滑舌が悪くなったり、歯並びに影響したりと、負のループに陥る。

「舌が正しい位置に保てなくなると、クチャラーになるだけでなく、睡眠時無呼吸症候群になる可能性も。睡眠時に無呼吸すなわち低酸素状態が毎晩のように起きれば、狭心症や脳梗塞といった心臓や脳などの病気に繋がる危険性もあるので注意が必要です」

このように、口腔筋力の低下は、クチャラーのみならずあらゆる負の連鎖を生む。年齢を重ねることで、確実に口腔筋力が衰えていくのは免れない。ただその衰えを緩やかにすることはできる。危機感を持ち今からできることを対策しておくことは決して無駄ではない。

●深見隼人
2014年、神奈川歯科大学歯学部卒業。歯科医師免許を取得する。歯科麻酔学博士号。日本歯科麻酔学会認定医。日本有病者歯科医療学会認定医。日本歯科薬物療法学会専門医。一般歯科診療と並行し歯科麻酔科医として全身麻酔、静脈内鎮静法を用い多様な疾患に対応できる医療の提供を行なう

●宇宙歯科クリニック
口内の健康は、心身の健康への第一歩として"能動的な予防"に注力する歯科クリニック。食事を含めた生活習慣などもアドバイスし、サポートすることで体全体の健康を支える
https://www.uchu-oral.com/