3月28日、今年も「八幡浜ちゃんぽんの日」がやってきた。「ちゃんぽん」といえば長崎、もしくは九州という認識の日本人がほとんどのはず。しかし、実は四国のとある街でだけ広がり、市民から愛されるちゃんぽんがある。それが「八幡浜ちゃんぽん」なのだ。
「え!? 八幡浜ちゃんぽんの記事なんて作るんですか? 正気ですか!?」
そう驚くのは八幡浜出身のレイザーラモンRGさんだ。
「今までテレビとかでも地元の話は何度もしましたけど、八幡浜ちゃんぽんの話なんて初めてですよ! まさかそんな機会が来るとは思いませんでした。
でもね、いたって普通のちゃんぽんなんですよ。長崎のちゃんぽんとは違って、トンコツでなく鶏ガラの醤油ベースで、カツオやイリコを使っているんです。でも味は普通なんですよ。水をアピールするみたいなもので、どこに注目したらいいのかわからない。土地柄なのか、控え目なんですよね」
トンコツでなく鶏ガラ? 一般的なちゃんぽんと一線を画すちゃんぽんだ。RGさんいわく「おそらく八幡浜ちゃんぽんを食べられるところは市内にしかない」とのこと。なので通販で取り寄せてみた。
作ってみると、まずスープは茶色で、すでに普通のちゃんぽんとは違う。あっさりしているが炒めた野菜と煮込んだからか、普通の醤油ラーメンよりも甘みがあり、優しい味わい。具だくさんな野菜スープといわれても違和感がない。
「トンコツのちゃんぽんを想像していると、まったく別物。小学4年まで熊本に住んでいてトンコツのちゃんぽんが基本だったから、初めて食べたときは衝撃でした。でもこれが当たり前になるから不思議ですよね。
これはわびさびの分かる大人のちゃんぽんなんですよ。こってりしたちゃんぽんや味の濃いラーメンに慣れた人にはこの旨みは分からない。ジャンクな味が好きな人に『へぇ~』って微妙な反応されるのが一番イヤなんですよね」(RGさん)
同じちゃんぽんでありながら、長崎のものとはまったく別物の八幡浜ちゃんぽん。いつ、どうやって生まれたのか? 八幡浜ちゃんぽんをPRする八幡浜市役所の"ちゃんぽん係長"二宮敏史さんに聞いてみると......。
「いや、それがわからないんですよね......。八幡浜市は海に面した"四国の西の玄関口"として古くから海上交易が盛んでした。そうした理由もあって中国から渡ってきた『ちゃんぽん文化』が根付いたのではと言われています。
またこれはおそらくなんですが、鶏ガラを使っているのも、港町として魚介はたくさんあるので、それに合うからトンコツでなく鶏ガラなのかと思います」
現存する最古の店は1948年創業の「丸山ちゃんぽん」。しかし、八幡浜にはもっと前からちゃんぽん文化はあったそうだ。そして市が八幡浜ちゃんぽんのPRプロジェクトを始めた2006年には、50店舗もの店で八幡浜ちゃんぽんが提供されていた。
「当時は港町なので早朝からやっている店もあって24時間どこかで八幡浜ちゃんぽんを食べられました。八幡浜市は昔からラーメン屋がないんですよ。あった時期もあるんですが、それも数点。なので、飲んだ後の締めは八幡浜ちゃんぽんなんです。
かまぼこやじゃこ天を入れるところもあったり、各店で少しずつ具材も味わいも違います。また、家庭でも当たり前に食べられていて、まさにソウルフードですね」(二宮さん)
「『ちゃんぽん亭イーグル』と『ロンドン』の2店にはよく行きました。高校の部活帰りに友達と行ったり。あとうちでは作らなかったので、土曜日の昼にどこか外食行くかっていうとちゃんぽん。
今も帰省して必ず食べるものと言われたら、ちゃんぽんですね。あとこれは絶対伝えたいんですけど、焼き飯とのセットで食べるべき! ちゃんぽんが優しい味なので、それだけだと物足りなさがどうしてもね。でもそこに同じくチャーハンほど濃くない優しい焼き飯がつくことで、いい感じになるんです。八幡浜ちゃんぽんと焼き飯のセットは青春の味ですね」
ただ、八幡浜の食文化として広がった八幡浜ちゃんぽんだが、新型コロナウイルスと高齢化で大きな痛手を負った。
「PRプロジェクトが始まって県内では知られるようになったんですよ。これから四国や全国へとPRしようというところで、新型コロナウイルスによりイベント中止が相次ぎ、県外にPRできていないんです。さらに市内の人口も減ってきましたし、高齢化などによる閉店がここ数年で続き、今や32店舗まで減ってしまいました。
それでも最近ではカップ麺メーカーのヤマダイさんが『ニュータッチ 凄麺 愛媛八幡浜ちゃんぽん』を発売したんです。これは市からの売り込みだったんですが、市内の広まりを伝えたら社長自ら『面白い!』と言ってくれたそうで。皆さんに『八幡浜ちゃんぽん』を知ってもらって、観光の合間に食べにきてほしいです」(二宮さん)
そして、二宮さんが意気込む一方でRGさんは「見つかるべき人に見つかってほしい」という。
「八幡浜は"四国の地中海"なんですよ。松山市から特急で1時間もかかるし、高速も通っていない。チェーン店もなく、個人経営の食堂が並ぶ静かな街。ただフェリーの港があって交通の要所ではあった。だから地中海みたいだなってずっと思ってました。
そこに観光客が押し寄せたら街が変わるし、みんな対応できず批難されて傷つく。そうなってほしくないので、静かに八幡浜を見守っていただき、ちゃんぽんを味わってほしいです」(RGさん)
ちなみに3月28日が「八幡浜ちゃんぽんの日」となった理由は、旧八幡浜市と旧保内町が合併し、混ざった=ちゃんぽんしたことが由来だそう。四国の秘境のような場所で生まれた「八幡浜ちゃんぽん」。気になる人は現地へ行くかお取り寄せでぜひ試してほしい。