『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回はグーグルマップの『ペグマン』について語る。
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久々の地図パトロール報告、今回はグーグルマップ。昔、待ち時間の読み物として『まっぷる』(昭文社)を持ち歩いていた身としては、スマホにして約10年たっても、世界中の地図が常に手元にある現実に感動します。
ちょっとした待ち時間は、スマホでグーグルマップやグーグルアースに見入ってますが、可能であればパソコン版のほうが望ましい。広範囲が一気に見られるのはもちろん、グーグルらしい遊び心を体験できるのが主な理由。注目すべきは、画面の右下にいる黄色い人のアイコン「ペグマン」。
ペグマンをクリックして地図上にドロップすると、自動的にマップがグーグルストリートビューと連携し、その場所の景観や路上風景が全方位パノラマ画像で閲覧できます。
無意識に使っている方が多いかもしれませんが、私はペグマン氏がもっと評価されるべきだと思っています。先日、ペグマンが表示されなくなったので私はパニックになりましたが、自分の周りはもとより、ネットでもさほど騒がれた痕跡もなく、しれーっと復活した後に記事をふたつほど見つけました。ペグマンの存在感のなさを痛感した午後でした。
ペグマンの魅力のひとつは、その動き。マウスでつかむとペグマンはペロンと持ち上げられ、デロロロロ~ンと揺れながら動きます。地図上で指を離すと、勢いよくボトン、と落ちる。この雑に扱える感じにはちょっとした快感もある上、けなげに耐えるペグマンがいとおしく見えます。
もうひとつの魅力は、その神出鬼没な変身能力。例えば、マップでスコットランドのネス湖を検索し、ペグマンをマップに移動させると、黄色い人型のペグマンがなんとネッシーに変身! たまに変わらないときもあるけど、そういうときはボトッと落とすと、地図のどこかに潜んでいたりします。水から出た、路上のネッシーが見られます。
これと同じように、アメリカの空軍基地・エリア51でもペグマンはいい仕事をしています。宇宙人の秘密研究所があるという都市伝説でおなじみのここにペグマンをかざすと、UFOに乗ったペグマンに変身します。グーグルマップに『月刊ムー』イズムを継ぐ者がいるようで何よりです。
ほかにも、ハワイ、バリ、フロリダ州ではペグマンがマーメイドに変身します。かわいいけど、頭部から雑に持ち上げられてぶらんぶらんする感じがマグロの水揚げのようで申し訳ない気持ちになります。
かつては、バッキンガム宮殿でエリザベス女王に変身したり(飛んでるみたいな姿が愛くるしかったです)、中国ではパンダになったり、その土地土地の特色に合わせたペグマンが現れては消えていきました。ストリートビューのアーカイブ写真にアクセスする際にいた『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のドクもお気に入りでしたが、最近いなくて寂しいです。でもその分、まだ気づいていない新しいペグマンもいるはず......。
ちなみに、探した限り日本では変身スポットはなさそうです。海外アピールを考えると、忍者とか? 個人的には伊能忠敬か、各地のご当地キティを推したいです。大変だけど、キティ姉さんならやってくれるはず。
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。"生涯オタ"の私も昨今よく聞かれる「最近の推し活は?」の返答に困り、適当に「ペグマン」と答えている。公式Instagram【@sayaichikawa.official】