やたらと言う「オッケー」だけど、オッケーポーズをするのは初めてやたらと言う「オッケー」だけど、オッケーポーズをするのは初めて
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は世界で使われる「オッケー」という言葉について語る。

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言語好きとして、「世界中どこでも通じる単語っていったいなんだろう」とふと考えることがあります。個人的に「オッケー」は世界中で通じるランキング上位だと思っています。世界中の映画やインタビュー映像でも聞くし、旅先でお互い必死に意思疎通をしようとするときに必ずといっていいほど出てくる気がします。

初めて「オッケー」を聞く人でも、シンプルな響き+うなずきや笑顔など、ポジティブなボディランゲージの組み合わせのおかげで簡単に意味を推測できるのかもしれない。私の経験と感覚でしかない主観的なデータなので異論は大いに認めますが、市川調べでは「オッケー」という単語はアメリカの一番の輸出品です。

でも、そもそもアメリカ発なのか。アメリカイチの輸出品がオッケーなら、アメリカイチの失点はすぐに自分たちが世界の中心だと思い込むところ。シェイクスピア作品にはオッケーなんて出てこないし、割と新しい言葉なのか。それともOK(「okay」とも書く)は何かの頭文字で、ギリシャ語由来の歴史ある言葉だったりするのか。

こんなに使うのに、何も知らないオッケー。そこで、「オッケーグーグル」とリサーチ開始。イギリスを代表する辞書・オックスフォードとアメリカで一番メジャーなメリアム・ウェブスター辞書で調べた結果、「オッケー」が誕生したのは1830年代と比較的最近だったことがわかりました。

きっかけは、アメリカ・ボストンの勉強好きなインテリ風の若者たちの間で流行した言葉遊び。彼らは、あえて単語のスペルを間違え、さらにそれを略して「わかる人がわかればいい」的な内輪ノリな暗号を考え出しました。

「All Right」(オールライト=よろしい)→「Oll Write」→「OW」や、「No Use」(ノーユース=使い道がない、いらない)→「Know Yuse」→「KY」など、たぶんケタケタ笑いながら、略語を会話と文通に多用していたんでしょう。

オッケーもそのひとつで、「All Correct」(オールコレクト=承知した、間違いない)を「Oll Korrect」とわざと誤り、OKと略したそうです。ボストンのオタクっ子たちの内輪ノリが徐々に広まり、1839年には主な新聞に使用され、マーティン・ビューレン大統領の再選キャンペーンにも大々的に使われたことによって、一般的な言葉になったようです。

たとえると、「w」や「草」「乙」「メシウマ」などのネット用語が、テレビや政界、果ては世界にまで広がるような現象。世界一普及している言葉がオタクサークルのくだらない内輪ノリから始まったなんて、妙に感動します。

日本でもリア充、オワコン、中二病といった言葉が定着したのを考えると、一部のはやり言葉が広がる現象には時代も国も関係ないようですが、広まる過程でニュアンスが少し変わっている気もします。

OKは英語ではニュートラルな言葉で、相手の発言を承知しただけで否定も肯定もしないけど、日本語のオッケーはもう少し肯定的なニュアンスがある気が。スペイン語の「okey」やハンガリーの「oke」など、世界のOKたちにどんなニュアンスがあるのか、いつか調べます。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。日本の「もふもふ」という言葉も世界に広がってほしい。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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