品薄で価格が高騰中の今だからこそ、おいしい卵を選びたい! 良い食べ方を知っておきたい! "卵博士"と呼ばれる研究者に卵の真実を聞いてきました。
* * *
■日本人は世界2位の卵好きだった!
鶏卵の値段が高騰している。2023年3月の東京地区のMサイズの卵の1㎏当たりの卸売価格は約350円で、2022年3月の約190円と比べると2倍近くになっている(JA全農たまご)。
卵の高騰はいつまで続くのか? どんな卵を選べばいいのか? 卵の一番いい食べ方は? など、素朴な疑問を「鶏と卵の研究所」所長で、京都女子大学教授の八田 一(はつた・はじめ)氏に聞いた。
――「物価の優等生」といわれていて、これまで値段があまり変わらなかった卵が、なぜ今、高騰しているんでしょうか?
八田 鶏のエサは主にトウモロコシですが、日本の飼料用トウモロコシの自給率は0%なので、輸入に頼らざるをえません。それが、ロシアのウクライナ侵攻によって手に入れにくくなり、価格が約2倍以上に跳ね上がっています。さらに円安の影響もあります。
もうひとつは、高病原性鳥インフルエンザの流行です。今シーズン処分された鶏は約1500万羽以上と過去最高です。日本で卵を産ませるために飼っている鶏は1億5000万羽ほどなので、約10%も減ってしまいました。こうなると卵が高くなるのは当然です。
――ということは、卵の価格高騰はまだまだ続く?
八田 高病原性鳥インフルエンザで殺処分した養鶏場は、最低半年は浄化しなければいけませんし、また発生すると困るので羽数を抑えます。ヒヨコが卵を産むまで成長する時間も必要ですし、ウクライナ侵攻も終わりそうにありません。1年後でもまだ高い可能性は十分にあります。
――日本人は、いつ頃から卵を食べ始めたのでしょうか?
八田 日本には仏教の教えの「殺生禁断」があったので、長い間、卵を食べていませんでした。しかし、フランシスコ・ザビエルが来日して(1549年)、カステラなどの卵を使った菓子を紹介してから広まり始め、江戸時代後期には多くの日本人が卵を食べるようになりました。
でも、当時の卵の値段は今の価格で1個300円くらいと高く、病気のお見舞いや男の人が吉原で生卵を何個か買って飲むという使われ方をしていたようです。
――栄養ドリンクみたいな感じですね。「卵は完全栄養食」と聞きますが、本当ですか?
八田 卵のタンパク質の栄養価は母乳に匹敵します。体をつくるために必要なタンパク質、脂質、ビタミン、ミネラルがバランスよく入っています。卵に入っていないのは、ビタミンCと食物繊維くらいです。
――卵の食べ方は、生卵とかゆで卵とかありますが、火を通すと栄養価は変わったりするんですか?
八田 もちろん変わります。卵を食べたときにタンパク質がどのくらい吸収されるかという「タンパク質消化吸収率」というのがあります。
卵の卵白は90%が水分で10%がタンパク質です。卵黄は約50%が水分で30%が脂質、20%がタンパク質です。
生卵だと卵白のタンパク質の消化吸収率は50%くらいで、あまり消化吸収されません。しかし、加熱してゆで卵にするとタンパク質が変性して、消化吸収しやすくなり約95%まで上がる。
卵黄はヒヨコの体をつくる成分が入っているので、加熱するとビタミンなどが壊れるし、タンパク質も変性するので生のほうがいい。
ですから、理想的な食べ方は、卵白は加熱して固めて、卵黄は生のままにする。京都の「瓢亭」という料亭で出している名物料理の「瓢亭玉子」はまさにそれで、卵白は固まっていて、卵黄はトロッとしています。
――半熟卵でもいいんですか?
八田 半熟卵でもいいです。最近はラーメン屋さんなどで、卵白が固まっていて、卵黄がトロッとしている味つけ卵を出している店が多くなってきたように思います。おいしいというだけでなく、栄養価も優れているということを知ってもらえるとうれしいですね。
あと、卵かけご飯も生卵をかけるのではなく、目玉焼きにして卵白を固めて、卵黄が固まっていない状態でご飯にのせて食べるのが栄養価的には理想の食べ方です。
――ところで、卵は一日に何個まで食べていいんですか?
八田 卵は、かつてはコレステロールが多いので一日に1個までといわれていましたが、2000年くらいから卵のコレステロールは体に悪くないという研究結果が世界中で発表されました。
そのため、日本では2015年に厚生労働省の食事摂取基準が改定されて、卵は一日に何個食べても良いことになりましたが、私は「卵ニコニコ運動」というのを応援しているので、一日に2個くらいがいいのではないでしょうか。ただし、コレステロール値の高い方はお医者さんの判断に従ってください。
――日本人は卵好きな国民なんですか?
八田 日本人は世界で第2位の卵好きな国民です(国際鶏卵委員会による2021年度調査)。年間でひとり当たり約340個食べています。
家で食べられているのは、そのうちの約50%。約30%はレストランなどのお店で使用されるもの。残りの20%はマヨネーズの原料などに加工されています。
■LLよりMのほうが全体のバランスがいい
――そんな、卵大好きな日本人ですが、おいしい卵の見極め方を教えてください。まず、白い卵と茶色い卵はどちらがおいしいんでしょうか?
八田 茶色い卵は「赤玉」と呼ばれていますが、卵の殻の色はおいしさにも栄養価にも違いはありません。卵の殻の色は鶏の種類によって違うんです。一部例外はありますが、鶏の羽毛の色と卵の殻の色が同じだと思ってください。
――では、黄身の濃いものと薄いもので違いはありますか?
八田 卵黄の色は餌によって決まります。トウモロコシの中にあるゼアキサンチンやルテインなどのカロテノイド(黄色や赤色の色素)が卵黄に移るんです。日本人は濃い色の卵が好きだから、赤いパプリカを餌に混ぜておくと黄色がさらに濃くなって赤色に近くなります。
逆にトウモロコシが入ってこなくなって、鶏にお米をたべさせるようになると薄い黄色になります。これを加熱してゆで卵にすると全体に白っぽいゆで卵ができます。
――じゃあ、MサイズとLサイズでは、Lサイズのほうがおいしい?
八田 基本的に卵の卵黄は18~20gです。これは、大きさによって変わりません。卵黄はヒヨコになる成分なので必要最小限です。ですから、卵のサイズは卵白の量で決まります。LLサイズは卵白がたくさん入っていて、Sサイズは卵白が少ない。ですから、ゆで卵にするならMかSがいいんじゃないですか。
ただ、Sサイズはあまりスーパーでは見ませんよね。SやSSサイズの卵は喫茶店のモーニングのゆで卵で出てきたり、加工用に回されたりしています。
ですから、卵黄と卵白のバランスを考えたら、LLよりMサイズのほうがいいんじゃないでしょうか。
――値段の高い高級卵がありますが、やっぱりおいしいんでしょうか?
八田 基本の餌は同じだと思うので、そこに何を混ぜて値段が高くなっているかによると思います。例えば、コレステロール値を下げたり、中性脂肪を下げたりする効果が期待される「オメガ3卵」というのがありますが、これは卵にオメガ3脂肪酸が移るように魚油を混ぜたりしています。
そのようにきちんと根拠があるものならいいのですが、ブランド卵には根拠がなくイメージだけで高く売っているものも多くあります。例えば、平飼い(鶏を地面に放して飼う養鶏法)の鶏の卵と普通のケージ飼いの鶏の卵は、同じ餌であれば栄養学的には同じなんですよ。
――では、新鮮な卵の見分け方は?
八田 一番簡単な方法は、賞味期限を確認して、長く設定されているものを選ぶことです。確実な方法は、やはり卵を割って平らな皿の上で卵白と卵黄の状態を確認すること。卵黄と卵黄の周りの卵白が盛り上がっているのが新鮮な卵です。
――最後に卵の価格が高騰していますが、卵の代わりになるものはあるのでしょうか?
八田 動物性タンパク質を取るための飼料効率の観点から考えると、ないと思います。
牛肉を1㎏つくるためには餌が約10㎏必要です。豚肉を1㎏つくるためには約5㎏。鶏肉のブロイラーの場合は約2.5㎏。これに対して卵は約2㎏です。そして栄養価も高い。本当に〝効率のいい完全栄養食〟なんです。
* * *
卵の素晴らしさはわかったが、卵の高騰はまだまだ続きそうだ。せめて、これ以上、卵の値段が上がらないことを祈りたい。