ちょっとした衝撃でも、精巣にくらったダメージは計り知れないほど ちょっとした衝撃でも、精巣にくらったダメージは計り知れないほど
漫画家のやしろあずき氏が先月、60万人超のTwitterフォロワーに向けて自身の「精巣損傷」を報告した。その後完治したそうだが、理由はなんと「飼い犬のトイプードル(7kg)にキ●タマを踏まれた」ため。「キ●タマ負傷」というインパクトは大きく、一時はYahoo!ニュースのトップに流れる羽目に。とんだ「急所事変」だ。

蹴られた時のあの吐き気をもよおすような激痛は、経験した人も意外といるはず。しかし犬に踏まれて「精巣損傷」、ましてや「完治まで金玉を守らないと精子が死ぬ」とはいったいどういうことなのか......。

??? たしかに犬に踏まれての精巣損傷は珍しいですね。数が多いわけではないですが、精巣損傷はよくある話。でもだいたいは交通事故、スポーツ、喧嘩が原因で、珍しい例だと馬に蹴られたとかもあります。

――え、ど、どなたですか?

??? ああ、すいません。申し遅れました、33年ほど泌尿器科で男性器を診(み)ている内田洋介と申します。一部からは「Dr.チ●チ●」と呼ばれています(笑)。

――いや、小学生みたいなあだ名! 精巣損傷のことも気になりますが、なんでそんなあだ名に!?

内田 医学生の頃に実習でペニスを解剖していて、海綿体を見た瞬間に『泌尿器科医しかない!』とひらめいたんですよ。

思春期のときに性器が変化していくことに不安を覚えたり、勃起(ぼっき)のしくみを不思議に思っていたりと、思い返せば幼い頃からチ●コと真剣に向き合っていたので、これは天啓だ!と思いました。そこから約1万本の男性器を診てきて、現在に至ります。

と、そんなきっかけなど話すうちに付いたあだ名です(笑)。特に30年前は、性病(性感染症)や勃起不全までしっかり極めたいという先生はほぼいませんでしたから、なおさら変わり者扱いでした。

――なるほど、ちょっとスッキリしました。で、本題に戻りますが、ベテラン泌尿器科医から見ても犬に踏まれるのは珍しいパターンなんですね。

内田 そうそう。タマは普段はぶらぶらしているでしょう。ある程度の衝撃を受けても力がうまく逃げるようになっている。ただ、ベッドに寝ている状態だったのが運の尽きでしたね。タマが固定されてしまうので、力を逃せずまともにくらってしまったんでしょう。

■大事な精子が「敵」になる

――キ●タマの何がどうなると「損傷」なんですか?

内田 医学的に、精巣が傷つくことを大きくまとめて「精巣損傷」といいます。そこからタマの状態しだいで、「挫傷」か「破裂」かに分かれます。

精巣は「白膜」という皮に包まれています。柔らか~い果肉が包まれた、ぶどうの薄皮のようなイメージ。この皮の中で、精巣組織が潰れたり傷ついたりしてしまったのが「精巣挫傷」。皮まで破れた場合には「精巣破裂」と呼びます。

――文字面だけで痛い! でもタマに衝撃を受けるとお腹が痛くなったりしますよね? あれはどういう仕組みなんですか?

内田 それは精巣の痛みを感じる神経が胸椎からきているからです。それもかなり過敏で、手術でも他の臓器より強い麻酔を必要とします。

手がしびれるぐらいまで効かさないと、精巣を切るときの痛みが取れないんです。だからちょっとした衝突などでも大きな痛みを感じるわけです。

――キ●タマってそんな繊細な臓器なんですね(汗)。優しく労わってやらないと......。

内田 他の先生の手術で、患者さんの心臓が止まりかけた......という事例を聞いたことがあります。手術中に麻酔が効いてなかったらしいです。それであまりの痛みから、血管迷走神経反射が起きてしまったケースですね。

多くの哺乳類の精巣は体外にある。ただクジラやアシカなど水棲動物の多くは体内に収納されていることも 多くの哺乳類の精巣は体外にある。ただクジラやアシカなど水棲動物の多くは体内に収納されていることも
――血管迷走神経反射とは?

内田 強いストレスや痛みなどによって、脳幹血管運動中枢が刺激され,心拍数低下や血圧低下などが起きる生理的反応です。先ほどの心肺停止寸前は最悪のケースですけど、例えば蹴られた痛みで失神してもおかしくはないです。

――まさに"血の気の引く"痛み......吐き気がするのもそれが原因なんですね。というか今も聞いているだけで気持ち悪いんですけど、これも強いストレスなのか......。

でも、そんな簡単に病院へ行くほどの損傷になるものなんですか? それこそ不意にぶつけたりとかでも?

内田 ああ、子供なんかいきなり駆け寄ってきたりするから、ぶつかって悶絶したりしますよね。彼らはチ●コにとって大敵ですから(笑)。まぁ、シチュエーションによるのでなんとも言えないんですが、ちょっとした衝突なら普通は大丈夫です。

――そのちょっとした衝突でも、この世の終わりのような絶望感なんですけど!

内田 気持ちはわかります(笑)。でも痛みがすぐ引いていくなら問題ありません。ただし、これが10分経っても痛みが引かないときは、内出血して細胞が圧迫されている可能性もあります。なので、できるだけ早く泌尿器科を受診すること。チ●チ●のプロが患者さんを待ってます!

――そのまま放置していたら、やしろ氏が宣告されていたように「精子が死ぬ」んですか? というか、そもそも「精子が死ぬ」というのは?

内田 おそらくですが、治療中にまた受傷してしまうと、今後の造精機能に問題が出てしまうよ、ということでしょうね。

――詳しくお願いします!

内田 精巣の中には200μm程度の太さの精細管が詰まっています。この精細管にある精祖細胞が分裂して精子は作られるわけです。なので、精細管の構造そのものが破壊されてしまうと精子もできなくなってしまうんです。

――片タマを負傷しても、もうひとつがあるから大丈夫では?

内田 それがね、そうもいかないんですよ。精巣がケガをして血液中に精子が入り込んでしまうと、「抗精子抗体(こうせいしこうたい)」というものが体内で作られることがあるんです。

これは自分の精子を「異物」だと体が思い込み、精子の動きを邪魔する抗体のこと。この抗体が働くと、精子は生殖目的を果たせず、不妊の原因となります。だからたとえ片タマだけの傷でも、生殖機能が失われてしまうことがある。抗精子抗体のしくみについては、まだ研究中の部分が多いんです。

■タマは触っておこう

――ええっ! 自分の細胞なのにそんなことになるんですか!? ちなみに精巣損傷は痛みで自覚できるけど、無自覚のうちに精子が死ぬ、なんてことはありませんよね?

内田 「精子が死ぬ」という表現に直結する病気ではないけど、20?40代に多い「精巣がん」は、初めは痛みもなく無自覚なまま進行する場合も多いので注意が必要。

自分のキ●タマを週1回くらいは触ってみて、変なしこりが出来ていないか確かめてみてください。がんなので転移する可能性があります。だからとにかく早期発見が重要。お風呂に入ったときにでも、キ●タマをよ?く触って観察してください。

――普段から自分のキ●タマを触っておくことが重要、と。

内田 めちゃくちゃ大事です! 男性不妊なんかはほとんど原因不明だったりと、男性器や精子の世界はまだまだナゾだらけ。でも病気に対して対処できることも多くあります。

なので、異変を感じたり、少しでも心配になったらすぐに泌尿器科を訪れてください。皆さん、キ●タマはくれぐれも大切に!

――わかりました! サオばっかりいじってないで、タマも毎日チェックします!

●内田洋介(うちだ・ようすけ)
鹿児島県鹿児島市にある「キラメキテラスヘルスケアホスピタル」泌尿器科科長。男性生殖器疾患全般、性感染症、性機能障害、トランスジェンダー医療が専門