近年は若者にも増加中という「ED(勃起不全)」。カラダは健康なのに、いざという際に思ったように勃たない......。そんな悩みを抱え、ED治療薬を服用する人も珍しくはなくなっている。
しかし、ED治療薬に関してはネット上に誤った情報が多く、間違った飲み方をしたり、個人輸入で失敗するケースなども後を絶たない。
そこでED治療薬の正しい知識について、ED治療専門の浜松町第一クリニック院長・竹越昭彦氏に聞いた。
■もはやEDは中高年の病ではない
――最新の集計データによると、EDについて深刻な悩みを抱えている成人男性は全国推計で約952万人。20~30代の若い世代も5人に1人がEDに悩まされているという驚きの結果が出ています(※)。
竹越 実際、若い男性で相談にいらっしゃる方は増えています。当院は2004年からED治療専門のクリニックとしてやっていますが、最近はED治療薬が中高年だけでなく、若い世代にとっても身近なものになってきているのを感じます。
例えば、当院の調査では世代別にED治療薬の服用経験の有無についても質問しているのですが、実は「ED治療薬を服用したことがある」という人は、20代が16.6%で最も多く、次いで60代(15.6%)、50代(14.4%)という結果になりました。しかも、この割合は25~29歳に限定すれば19.1%とさらに高くなります。
若い人の相談が増えたとはいえ、当院でED治療薬を処方する患者さんは50代が一番多いことから、その使用率も50代が一番多いと思っていただけに、とても意外な結果でした。
中高年の場合は、男性ホルモンの減少により、性欲そのものが湧きにくくなることもありますが、若い世代だと身体的な原因のほうが圧倒的に少ないものです。つまり、性欲があるのに、男性器がうまく反応してくれないというケースが多くなっています。
※本文の統計は「インフォグラフィックで見る!ED(勃起不全)有病者数調査2022」より(浜松町第一クリニック監修。全国の20~79歳男性6000名を対象にインターネット調査を実施)
■治療薬を持ち歩くだけで改善する人も
――その原因は何が多いのでしょうか?
竹越 ひとつは「膣内射精障害」です。挿入してから萎えてしまい、射精にまで至らないといった悩みです。これは刺激の強い自慰行為が原因となっていることが多いですね。
自慰行為は男性器にかかる圧力を自分でコントロールできるため、それに慣れてしまうと女性の膣内の刺激では物足りなくなってしまうことがあります。極端な場合、自慰行為でも局部を床に擦り付るほどの強い刺激でないとイケなくなる人もいるほどです。
この解決策としては、自慰行為の回数や刺激を減らしていくことがあげられます。
――「そもそも勃たない」といったこともある?
竹越 若い世代でもあります。ただ、20~30代の初診は増えているのに、継続して治療する再診数は増加傾向にはありません。これを踏まえると、この世代はちょっとしたきっかけで改善する「心因性ED」がほとんどであると言えます。
クリニックの診察を受けてED治療薬を服用し、数回満足のいく性行為ができれば、その後はED治療薬を服用しなくても自然な勃起ができるようになる。これは当院の集計データからも証明されています。
――薬を飲んで自分の男性器がきちんと機能しているとわかれば、それが自信につながるわけですか。
竹越 そうですね。治療薬を飲まなくても、いざというときのために持ち歩いているだけでも症状が改善する方もいます。これさえあれば大丈夫と安心するんですね。
■「やりたくてもやれない」を解決する薬
――薬を飲まなくてもEDが治ることがあるんですか。
竹越 心因性の場合はそうですね。若い世代で男性器の機能自体に問題がある人は少ないですから、EDも「心の問題」だということです。だから、パートナーが変わったら治ったという人もいます。
あと最近の若い世代の患者さんに多いのは、繊細な性格が原因でEDが深刻化してしまうケースです。うまく勃起できなかったらパートナーに申し訳ないという考えがプレッシャーになり、ますますEDになってしまう。そういう相談が増えています。
そういった方は身体的には問題がないからこそ、一度ED治療薬を試して勃起することがわかれば、その後は治療の必要がなくなることがほとんどです。なので、あまり真剣に悩みすぎず、気軽にクリニックへ相談していただきたいですね。
――「性欲自体がない」という人にもED治療薬は効くのでしょうか?
竹越 勘違いしている方が多いですが、ED治療薬は性欲亢進剤ではありません。「やりたくてもやれない」という問題を解決するためのものであって、これを飲むとみるみるやる気が出るといったものではないのです。
ED治療薬とは、服用後に適切な刺激があったら即座に性器が反応するようにするためのものです。まれに「性欲が湧く」という効果を謳った薬の広告を見ることがありますが、本当にそんな薬が存在するとしても、国内で認可されたものではありません。
服用は完全に自己責任であり、どんな副作用があるかもわからないので、医師としては絶対に避けたほうがいいとお伝えしたいですね。
ただ、ED治療薬は早漏には効果があります。硬度増加によって陰茎内の神経に摩擦の刺激が伝わりづらくなることから遅漏気味になるのです。しかし、患者さんの中には「硬くなりすぎて射精できない」という人もいらっしゃるので、クリニックと相談のうえ、ご自身に合った治療薬を選ぶことが大切です。
●竹越昭彦(たけこし・あきひこ)
1966年生まれ。1991年に日本医科大学卒業。その後は、日本医科大学付属病院、東戸塚記念病院の勤務を経て、2004年10月に浜松町第一クリニック開院。以降、同医院の院長を務める。著書に『40代からの心と体に効く[生涯SEX]のすすめ』(扶桑社新書)がある。