ED治療専門の浜松町第一クリニックで院長を務める竹越昭彦氏
ED（勃起不全）に悩む人々の中には、「病院で相談するのは恥ずかしい」といった理由で、バイアグラやレビトラといった治療薬のジェネリック品をネット通販で個人輸入するケースが増えている。
しかし、個人輸入は割安な代わりに、偽物をつかまされるなどトラブルも多い。そのため、きちんとしたクリニックで医師の診察を受けることが推奨されているのだが、最近はなんと、このクリニックの中にも危険な「海外製ジェネリック薬」を処方しているところがあるという。ED治療専門の浜松町第一クリニック院長・竹越昭彦氏に聞いた。
■割安なネット通販は危ない
――近年はED治療薬がますます身近なものとなっています。
竹越 最近はコロナ禍の影響も大きいですね。日本でもオンライン処方が初診から許可されたことで、ED治療でも気軽にクリニックへ相談する方が増えました。当院でも全国から問い合わせが来ています。
――20代、30代の若い世代ではネット通販で購入する人も多いとか。
竹越 こちらも増えています。とはいえ、若い人だけでなく、どの世代でも個人輸入代行業者の利用は増え続けていますね。むしろ、若い人ほど病院のオンライン診療をうまく活用し、偽物をつかまされないように工夫しているように感じます。
ED治療薬を服用している人の入手先の割合。20代だけに限ればオンライン診療での利用率は３割を超える（提供／浜松町第一クリニック）
――ネットのリテラシーがED治療薬の購入にも影響しているわけですか。
竹越 ED治療薬は保険適用外（※不妊治療目的以外）ですから、少しでも安いものを求めたくなる心理は理解できます。しかし、人気がある薬はそれだけ偽物も多い。ブランド品と一緒です。
ED治療薬も「安かろう、悪かろう」と思っていただいたほうがいい。ネット通販が手軽にできるようになったからこそ、患者さんにも消費者としての目利きが求められています。
――基本的にネット通販はおすすめしない？
竹越 そもそも国内で認可を受けていない「海外製ジェネリック薬」はたしかに安いですが、副作用があった場合の救済措置がありません。しかも、それを個人輸入したとなれば完全な自己責任です。
「代金を支払ったのに品物が届かなかった」「偽物をつかまされた」といったトラブルならまだマシで、「飲んだら体調が悪化した」といった健康被害もあります。保険をかけないで車に乗り、事故に遭うようなものですから、医師としてはまったくおすすめできません。
■書類送検されたクリニックも
――やはりクリニックで処方を受けることが大切ですか。
竹越 ところがですね、最近は街のクリニックでも、粗悪な「海外製ジェネリック薬」を処方する医師が増えているのです。
これはインドやタイ、フィリピンなどの国で製造されているED治療薬で、非常に劣悪な環境で製造されています。違法薬物を製造しているところが、同じ場所でED治療薬も作っているケースもあるのです。細菌が混じっていたり、他の薬物の成分が混じっていることもあります。とてもまともな治療薬ではありません。
――専門の医師に相談したのに、悪い品質のものをつかまされる？
竹越 そうです。ネットで検索してみてほしいですが、国内で未承認のED治療薬を不法に輸入して捕まったり、クリニックで処方して書類送検されたりした事件が実際に起っています。
――危ないクリニックを見分ける方法はありますか？
竹越 クリニックのホームページで、取り扱っている薬の写真を出していないところはまず疑ったほうがいいでしょう。クリニックで扱いがあれば、きちんと写真を出して、「これを処方しています」と説明できるからです。
これと同様に、写真があっても、具体的な製薬メーカーの名前がないとか、どこ製とかいった説明がないクリニックも危ないですね。特に抽象的に「海外製ジェネリック薬」とだけ書いてあるクリニックはまずい。本当に安全性が確保されているなら、インド製だろうが堂々と製造国名を書いていいはずだからです。
――後ろ暗いところがあるからぼやかした表現になっていると。
竹越 まさにそうです。もちろん、クリニックの中にはネット対応が弱いところもあり、単にホームページに情報が充実していないといったこともあります。こうしたクリニックを受診されるときは、直接電話して、どういった薬を扱っているか聞いてみてください。きちんとしたクリニックであれば、必ず答えてくれます。
■早漏防止薬にも注意が必要
――実際、いくつかED治療のクリニックを検索してみると、ものすごく安い価格で「海外製ジェネリック薬」を提供しているところもあります。
竹越 相場より極端に安いクリニックも避けたほうがいいでしょう。当院は製薬メーカーさんと長年の付き合いがありますが、それでもバイアグラジェネリックなら一錠あたり500円前後です。しかし、世の中には400円以下の価格を謳っているクリニックもある。これもホームページをよく見てみると、製造国不明の「海外製ジェネリック薬」であることがほとんどです。
ただ、ED治療薬は保険適用外の薬なので、販売価格が一定しておらず、そこだけでは判断が難しいこともあります。やはりホームページを見たり、クリニックに直接問い合わせたりして、本当に厚労省認可の国内正規品であるかどうかをたしかめてください。
――薬の名前や製薬メーカーなどがしっかり説明されているかどうか。
竹越 そこです。これは余談ですが、怪しいクリニックでは「早漏防止薬」を扱っていることもありますが、実は、その多くは抗うつ薬を転用したものです。
この薬は「SSRI」（選択的セロトニン再取り込み阻害剤）というもので、脳内のセロトニン分泌を活発化させることで抗うつ作用を発揮するのですが、その際に射精できなくなるといった副作用が見られたことから、早漏防止にも転用されています。
しかし、例外の国はありますが日本では全く認可されておらず、今もうつ病以外の患者さんへの処方には慎重な対応が必要であるとされています。こうした薬のリスクに関する説明がしっかりされているか。そこを見てもクリニックに対する信用度は判断できるかと思います。
●竹越昭彦（たけこし・あきひこ）
1966年生まれ。1991年に日本医科大学卒業。その後は、日本医科大学付属病院、東戸塚記念病院の勤務を経て、2004年10月に浜松町第一クリニック開院。以降、同医院の院長を務める。著書に『40代からの心と体に効く[生涯SEX]のすすめ』(扶桑社新書)がある。