タイルがすてきな、ニュー新橋ビルのエスカレーター タイルがすてきな、ニュー新橋ビルのエスカレーター
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は誰もがお世話になったことがある「エスカレーター」について語る。

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人類が誇る、効率と怠惰の追求の証し、エスカレーター。「別に荷物を持っているわけでもないし、足腰もピンピンしているけど、階段を上るのがなんかダルい」というものぐさな気持ちに応える、誰もがお世話になったことがある大発明です。とびっきり人に優しいエスカレーターもたまに見かけます。

例えば、JR川崎駅の地下街「川崎アゼリア」から商業施設「川崎モアーズ」に抜ける通路にあるエスカレーター。モアーズから階段を5段ほど上り、1、2歩進むと、わずか5段の上りエスカレーターが。高低差1mもない、極短エスカレーターです。

モアーズからアゼリアに向かうお客さんたちは、なんの疑問もなく、自力5段+機械5段を移動していましたが、私は初めて見たとき、この謎すぎる設計が気になって気になって。「調べねば!」と思ったら、答えは目の前の壁のポスターに書かれていました。

どうやらこれは、ギネスブック認定の世界一短いエスカレーター、通称「プチカレーター」。高さ83.4㎝、所要時間は安全面に考慮して速度を落とし、それでもわずか8秒......。

しかし短さより気になるのは、手前に階段があること。階段も使わないとこのプチカレーターを利用できないのに、なぜ、わざわざ造ったのか。これなら全部階段、または全部エスカレーターにするのが自然に思えるし、中途半端なプチカレーターが哀れ。ポスターに答えはありませんでしたが、川崎区のホームページが教えてくれました。

当初はここに下りのエスカレーターを設置しようとしたところ、工事着工後に、床下に太い梁(はり)が一本通っていることが判明。設置自体を断念することも検討したそうですが、お客さんへのサービスのため、短い上りのエスカレーターを造ったそうです。

下から上までフルには運べないけど、みんなのためにできるところまで精いっぱいやるプチカレーター。哀れなやつと言ってごめん、サービス精神旺盛なけなげなコでした。

ほかにも人に優しいエスカレーターといえば、京都の京阪・出町柳駅の動く歩道付きエスカレーター。下り区間が終わったら、そのまましばらく平面区間が続きます。新千歳空港やJR大阪駅などで、途中でフラットになるエスカレーターをたまに見ますが、下り切ってから10mくらい(市川の体感)も送り出してくれる出町柳のエスカレーターは、甘やかしすぎなほど日本一優しいエスカレーターかもしれません。

ちなみに、日本一高いビルである「あべのハルカス」は、なぜか短いエスカレーターの宝庫になっています。タワー館とウイング館のフロアの高さのズレを補い行き来するためのもので、約5秒で終わる7、8段ほどのエスカレーターがたくさん並んでいます。ビルの高さとは面白い対比です。

そして最後にご注意! 学生の頃、秋葉原に2段しかない超絶短いエスカレーターがあるとの噂を聞きました。ワクワクして見に行ったところ、手すりが鏡に反射してそう見えるというだけの、トリックアート的な現象で、がっかりした思い出があります。今でもこのエスカレーターの情報は定期的にSNSに上がってくるらしいので、見かけた方はご用心。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。疲れのあまり、階段の1段目に立って動くのを待っていたことがある。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!