「神保町 黒須」の店主・黒須太一さん
東京ミシュランガイドのビブグルマンに３年連続選出、食べログTOKYO百名店など、2016年の創業以来、数々の賞を受賞してきたラーメン店「神保町 黒須」。連日行列が絶えない人気店として知られているが、今年2月20日に店主の黒須太一さんが自身のTwitterアカウントにて、「4月30日（日）での閉店」を突如発表。ラーメンファンに衝撃を与えた。
集英社ビルのすぐ隣の店舗ということもあり、週プレはたびたび同店にお世話になってきた。そうしたご縁から、週プレNEWSでは黒須さんの独占取材に成功。これだけ多くの人に愛されているのに、どうして閉店しちゃうんですか!?
「行列が長くなりすぎて近隣からクレームが来たからとか、もっと広い店舗に移転するためだとか、そういった理由ではありません。閉店を決めたのは、和食の勉強をするため、京都の日本料理店へ修業に行くからです。『これだけの店になったのに惜しい』と言ってくださる方もいらっしゃいますが、自分なりに悩み抜いた末の結論です」
残念なことに移転の予定はなく、黒須さんが作るラーメンは閉店によって食べられなくなってしまうとのこと。しかし、ミシュラン掲載店にまでなったのに、なぜラーメンとは違うジャンルに挑戦を？
「実はかなり前から、『このままでいいのだろうか......』と思っていたんです。これは僕自身の問題ですが、日々のラーメン作りに追われて、味の追求に費やす時間を十分に持てなくなっていた。もっと試したいこと、挑戦してみたいことがあっても、その時間がない。体力の限界まで働いても、まったく余裕がない。そういう状況が続いていました。
普通のラーメン店なら、誰か作業を任せられる人を雇って、徐々に仕事を分担していくのだと思います。でも、僕はこだわりが強い人間で、自分以外の人に仕込みも調理も任せることができなかった。そして自分は儲け優先というよりも、料理でお客さんに喜んでもらいたいという気持ちが強い。そういう意味では結局、僕は職人気質が強すぎて、経営者としては不器用だったのかもしれません」
黒須さんのラーメンを食べれば、その"こだわり"の強さはすぐにわかる。「純粋主義的料理」を掲げ、必要以上に手を加えず、素材本来の旨味を引き出すことに徹したからこそ、唯一無二の味として多くのファンを獲得した。
黒須で１番人気の「塩蕎麦」は、岩塩や海塩など７種類の塩を絶妙なバランスで配合した一杯。トリュフとカキのペーストを混ぜていくことで味の変化も楽しめる
だが、それは「毎朝4時30分からの仕込み」「麺は自身で製麺」という激務のうえで成り立つ味であり、しかも同じ味の再現を続けることをよしとせず、定番の「塩」や「醤油」すらも細かいアップデートを続けた。その日々は元陸上自衛官という異色の経歴を持つ黒須さんをして、「これをずっと続けていくことはできない」と思わせるほど大変なものだったという。
「そんな中、今年１月にケガ（肘の靭帯損傷）で休業することになりました。開業してから初めて長期のお休みをいただいて、自分の人生についてじっくり考えてみたんです。このままラーメン店を続けても、自分が納得できる料理を追い求めることは難しい。もっと料理人として成長したいと思うなら、基礎から勉強し直すべきではないかと思いました。
僕はラーメンがイヤになったとかではないんです。ラーメンには日本を代表する料理としての可能性がまだまだあるとも思っています。ただ、自分は独学でラーメン店を始めた人間であり、その可能性を追求する技術も経験も足りていない。だから思い切って、以前から興味があった和食の勉強をすることに決めたのです」
ということは、修業を経て一段と進化した黒須さんのラーメンが食べられる日も来る？
「それはわかりません。とりあえず３年は京都のお店で修業する約束です。何かコネがあったとかではなく、本当に一番下っ端からやり直します。それを終えたときに、『やっぱりラーメンを作りたい』となるのかもしれませんし、和食の料理人として別の道に進むのかもしれません。先のことは何も決めていないですね」
あくまでも一人の料理人として理想を追求したい思いが強いがゆえに決めたという突然の閉店。取材中、何度も「今の自分の料理に満足はしてない」「もっと成長したい」と語った黒須さんだったが、これまで店を支えてくれたお客さんへの感謝も、同じくらい口にしていた。
「僕が７年前にお店を始めたときは、まさかこれほど行列ができるようになるとは想像もしていませんでした。それはすべて、これまで通ってくださったお客様のおかげです。閉店を発表してからいろいろな声を頂戴していますが、『自分はこういう人間なので、すみません』としか言えないですね......。とにかく、今まで本当にありがとうございました」
自分のこだわりにすべてを捧げた男のラーメンが食べられる機会は、あとわずか！
※後日、ラーメンや今後の人生に対する思いのすべてを語ったインタビュー完全版を公開予定。
■神保町 黒須
東京都千代田区神田神保町3-1-19
4月30日（日）をもって閉店。30日までの営業情報などは公式Twitterをチェック！