いくらかかる? 何から手をつける? 永代供養の墓にする? いくらかかる? 何から手をつける? 永代供養の墓にする?

遠くにあるので行きづらい、親や先祖が眠る実家のお墓。継ぐ人がいない場合はどうすればいいのか? 自宅の近くに移すにはどうすればいいのか? そんな「墓じまい」のポイントを専門家に教えてもらった!

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■墓じまいに必要な3点セットとは?

連休で遠方の実家に帰ったとき、祖父母や親のお墓参りに行くこともあるだろう。そして、両親がともに亡くなったら、「自分たちが、このお墓を継がなくてはいけないのか」と考えることもあるはずだ。

実は今「墓じまい」をする人が増えている。2009年に約7万件だった墓じまい(改葬)は、19年には約12万件になっているのだ(厚生労働省「衛生行政報告例」より)。

その主な理由は「お墓が遠くて行くのが大変だから」「お墓を継ぐ人がいないから」。

では、実際に墓じまいをするとなったら、どんなことに注意すればいいのか。墓じまいに詳しい行政書士の明石久美(あかし・ひさみ)さんに聞いた。

――墓じまいは何から始めればいいのですか?

「まず、お墓というのはその敷地を買っているのではなく、敷地の永代(えいたい)使用権を買っているんです。ですから、そのお墓を継ぐ人(祭祀承継者)がいなくなったら更地にして返さなければいけません。つまり、墓じまいが必要になるのです。

そして、皆さんよく勘違いされていることが多いのですが『お墓を継ぐのは子供』ではなく前の祭祀承継者から『3親等以内の親族』であれば基本的には大丈夫なので、親戚でも継げるわけです。

ちなみに、お墓を継ぐ人は何をするかというと、墓地管理者に年間管理料を支払ったり、お墓の管理をしたり、法要を営んだりします。

お墓の掃除やお参りなどもするのなら、やはりお墓の近くに住んでいるほうが便利ですよね。ですから、墓じまいを考える前に、まずは法事などで集まったとき親戚に『自分は遠くに住んでいて、なかなかこちらに来られないのでお墓を継いでもらえませんか?』と相談したほうがいいと思います。

というか、親戚の了解を得ないと『勝手に墓じまいをしちゃって』『相談なしに墓を移すなんて』と後でトラブルになりかねないので、ぜひ話し合いをしてください。

そして親戚全員がお墓を継ぐのは無理となれば『では、仕方がないので墓じまいをさせていただきます』『お墓は自分の家の近くに移してもいいですか?』と話を進めます」

――親戚への確認が終わったら、次は何を?

「次はお寺との話し合いです。墓じまいは、お寺の協力がなくては進みません。墓地は、主に『寺院墓地』『公営の霊園』『民営の霊園』と大きく3通りに分かれますが、霊園の場合は、墓じまいが比較的楽なんです。

というのは、お寺のように檀家(寺院の信徒や門徒になり経済的支援をする)になっていないからです。一方、お寺の場合、墓じまいをするということは檀家をやめるということになります。

お寺は檀家が少なくなるとお布施などが減るので、経営が成り立たなくなります。ですから、できるだけ檀家でいてほしいんです。

また、お墓から遺骨を取り出したり、お墓を解体し更地にするのは石材店です。石材店はお寺とのお付き合いがあるので、お寺が納得していない状態で遺骨を取り出したり、お墓を解体することは、出入り禁止になる可能性もあるのでなかなかできません。

さらに、別の墓地に遺骨を移す場合には、今お墓がある墓地の管理者から『埋蔵証明書』などを発行してもらう必要もあります。

ですから、お寺にはこちらの事情をきちんと説明して、これまでお墓を供養してくれたことなどへの感謝の気持ちを示して、墓じまいすることを理解してもらったほうがいいんです。そして、そのときに『親戚にもお墓を継ぐ人がおらず、仕方なく墓じまいをする』と言うことが大事になってきます」

――ちなみに、離檀料っていくらなんでしょうか?

「5万~20万円くらいが相場といわれています。また、墓じまいするときには『閉眼供養(へいがんくよう)』といって、お墓の魂抜きをしてもらってから石材店に遺骨を取り出してもらうのですが、閉眼供養のお布施は2万~5万円程度、遺骨の取り出しは遺骨1柱当たり1万~5万円程度が相場です。

そして、お墓の解体や更地にしてもらう費用が区画の広さなどにもよりますが、30万~100万円程度かかります」

――けっこうなお金がかかりますね。自分たちで遺骨を取り出せば、少しは安くなりそうですが......。

「テレビドラマなどの影響なのか、皆さんお墓には白いきれいな骨壷(こつつぼ)が入っていると思いがちなんです。

でも、年月がたっている場合、壺の中には水や泥、植物の葉などが入っていたり、カビが生えていたり、虫や細菌が繁殖していたりします。

納骨室を開けてそのような状態だったら取り出すのは大変です。また、お寺の許可なく勝手に遺骨を持っていくと墳墓発掘罪などに問われる場合もあります」

――墓荒らしになっちゃいますね。では、お寺が墓じまいを了承してくれたら、次はどうすればいいんですか?

「引っ越し先のお墓を探します。別の墓地に移す場合は、引っ越し先の墓地管理者から『受入証明書』をもらい、お寺から受け取った『埋蔵証明書』と今お墓がある自治体で入手した『改葬許可申請書』の3点セットを提出して『改葬許可証』を取得します。

この『改葬許可証』を引っ越し先の墓地管理者に提出して、新しいお墓への『納骨供養』と『開眼供養』(魂入れ)をしてもらいます。費用の相場は5万~20万円程度です」

■海への散骨。その実態は?

――遺骨を自宅の近くに引っ越しさせる場合、どんなお墓を買う人が多いんですか? 最近は散骨する人も増えているみたいですけど......。

「墓じまいをする理由は『お墓を継ぐ人がいない』ということが多いので、そうなると永代供養してもらえるお墓を選ぶ人が多いんです。

永代供養してもらえるお墓というと合葬墓(がっそうぼ)をイメージしがちですが、昔ながらのお墓、納骨堂、樹木葬などもあります。ただ、こうした永代供養のお墓には7年とか13年とか期間が決められていて、その期間が過ぎたら合祀(ごうし)されるものがほとんどです。

安価だからと合葬墓を選んだ人が、合祀された後に『遺骨を返してほしい』と言っても、ほかの人の遺骨と一緒になっているので、特定の遺骨だけを取り出すのはほぼ不可能です。そのことだけは注意しておいてください。

また、納骨堂にはいろいろなタイプがあって、例えば、コインロッカーのようなロッカー内に骨壷を入れるタイプ、カードをかざすと参拝室に遺骨が自動的に運ばれてくるタイプなどさまざまです」

――故・石原慎太郎さんのケースがそうでしたが、海への散骨はどうでしょうか?

「以前よりは増えていると聞きますが、先ほど言ったように遺骨は基本的にきれいじゃないものもあるんです。散骨するにはパウダー状にしなければなりませんし、どこにでもまいていいわけではないので、専門業者に依頼して行なう必要があります。

それに皆さんがイメージしている海への散骨は、青空の下で青い海にまくというものでしょうが、実際にやってみたら空はどんより曇っているし、海はグレーだし、イメージしているものと全然違っていたという場合も少なくありません。

親戚からも『海にまかれたらお参りする場所がなくなる』という声もあるそうです」

――ちなみに、海への散骨の費用はいくらくらいですか?

「1柱の場合なら、5万~40万円程度です。5万円のは遺骨を業者に預けてまいてもらうタイプです。また、山への散骨は6万~20万円程度、遺灰を粉末状にしてバルーンに入れて成層圏まで上げて散骨するものは30万円程度、ロケットを使った宇宙葬は50万~100万円程度ですね。複数の遺骨の場合はもっと費用がかかります」

――いろいろな散骨があるんですね。

「あとは遺骨の一部を手元に置いておく『手元供養』もあります。例えば、遺骨のひとかけらをお地蔵さんが手を合わせているようなオブジェのおなかのあたりに入れるものとか、遺骨を加工してネックレスや指輪、数珠にするとかです。ただ、墓じまいで手元供養を選択する人はあまり多くない印象です」

――最後に、そのほかの注意点はありますか?

「墓じまいをして、お墓の引っ越しをしても、できるだけお参りに行ってください。特に永代供養のお墓に入っていると『供養などをやってくれてるから行かなくてもいいや』と思いがちですが、遺骨を処分したわけではなくて、そこには自分の血縁者が眠っているわけですから、できるだけ足を運んでほしいと思います」

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お金も時間もかかる墓じまいだが、無縁墓にしないためにも、自分の子供たちに手間をかけないためにも、そして、自分はどうしたいのかも含めて、一度ゆっくり考えてみるのもいいかもしれない。