皮膚が緩んでいる眼瞼下垂の場合は、「全体的にではなく目尻の上まぶたが下がる」と話す鹿嶋院長皮膚が緩んでいる眼瞼下垂の場合は、「全体的にではなく目尻の上まぶたが下がる」と話す鹿嶋院長
タレントの和田アキ子さんやキャスターの宮根誠司さんが手術をしたことで話題にもなった「眼瞼下垂(がんけんかすい)」。目の病気であるものの、肩こりや頭痛の原因にもなるらしい。そして40歳以上の人ならほぼ全員が眼瞼下垂の症状が出ているそうだ。眼瞼下垂とはどんな病気なのだろうか?

オキュロフェイシャルクリニックの鹿嶋友敬院長に話を聞いた。

「眼瞼下垂とは、簡単に言えば上のまぶたが下がってきてしまう病気です。まぶたが下がることで、見た目が眠そうに見えたり、視界が悪くなったりします。下がってくる理由としては上まぶたの皮膚が伸びてしまっているケース(※厳密には「眼瞼皮膚弛緩症」)と、挙筋腱膜やミュラー筋といったまぶたを上げる筋肉の緩みによる場合が考えられます」

眼瞼下垂の手術前(上)と手術後。まぶたの開き度合いが変わるだけで、印象も大きく異なる眼瞼下垂の手術前(上)と手術後。まぶたの開き度合いが変わるだけで、印象も大きく異なる
軽度であればあまり気が付かないが、重度になると瞳孔(黒目)の中心までまぶたが下がってきてしまうらしい。

「皮膚のたるみの場合は、目尻が下がり気味で八の字型のまぶたになってきて、強面で怖そうな印象を与える目つきになります。筋肉の緩みでは、まぶた全体が下がり、無気力そうな見た目になることが多いです」(鹿嶋院長)

特に男性であれば、自分のまぶたなどあまり気にしていないはずだが、鹿嶋院長いわく「電車の乗客の見渡すと半分以上の人は眼瞼下垂の可能性がある」そうだ。ちなみに、取材時にライターも編集者も「たぶん眼瞼下垂ですよ」と言われてしまった。

多くの人がなっている可能性の高い眼瞼下垂。鹿嶋院長はその原因をこう話す。

「上まぶたの皮膚が伸びて下がってきてしまうのは、もともと一重で、上まぶたの皮膚や脂肪が多い人の皮膚が加齢によって伸びたと考えられます。筋肉が緩んで下がってきてしまうのは、ハードコンタクトレンズが原因となることが多いです。まぶたの裏にある筋肉が、硬いハードコンタクトレンズで擦れて筋肉が緩んでしまうということです」(鹿嶋院長)

わずかに上まぶたが下がっていると指摘された編集者の目。30代半ばだが「おそらくまぶたの脂肪が多いため下がりやすい」ともわずかに上まぶたが下がっていると指摘された編集者の目。30代半ばだが「おそらくまぶたの脂肪が多いため下がりやすい」とも
もちろん、皮膚の伸びと筋肉の緩み、どちらも併発してるケースもある。もともとの顔のタイプや皮膚の状態など、さまざま原因が組み合わさっているのだ。とはいえ、「怖そう」とか「眠そう」に見えるだけだったらあまり問題はなさそうだが......。

「見た目だけでなく、仕事にも支障をきたすことがあります。視界が数ミリ違うだけで世界が違うので、パソコン操作や運転などの作業を長時間することができなくなることも多いです。

さらに体の不調にも繋がります。眼瞼下垂が原因の肩こりや頭痛はよく見られる症状です。まぶたが下がってきて視界が狭くなってくるので、前頭筋といわれる前頭部から眉の上に広がる筋肉でまぶたを上げようとします。前頭筋は首や肩の筋肉に繋がっているので、前頭筋を酷使してしまうことで首や肩が緊張状態になり、肩こりや頭痛といった症状が出てしまいます。

また、下がってきているまぶたを頑張って開けようとすることで眉が上がり、おでこにシワが寄ってしまうこともあります」(鹿嶋院長)

普段の生活では自然におでこに力を入れてしまうため、気が付きにくい。目を閉じて眉の上を軽く押さえた状態で目を開けたときに、おでこに力が入ったり、目が開きにくかったりする場合は、眼瞼下垂の可能性が考えられる。

「長年悩んでいた肩こりなどが、眼瞼下垂を治したことで解決した患者も多い」と話す鹿嶋院長「長年悩んでいた肩こりなどが、眼瞼下垂を治したことで解決した患者も多い」と話す鹿嶋院長
とはいえ、あくまで激しい痛みや命に関わる病気ではない。いつ治療に踏み切ればいいのだろうか?

「治療のタイミングは、何かを見るときに少しあごを上げなければいけなくなるなど、日常生活を送るうえで不自由さを感じたときです。また、頭痛や肩こりに悩んでいる場合は、眼科を訪ねてみてもよいでしょう。薬や整体でも治らなかった重い肩こりや頭痛が、眼瞼下垂の手術をしたことでピタッとなくなったという人もいます」(鹿嶋院長)

治療は手術になるが、30分~1時間ほどで終わる。手術後は1~2週間の目の周辺が腫れるダウンタイムがあり、1カ月ほどで傷跡もほぼ分からなくなるそうだ。

保険適用と自由診療では金額が異なるだけでなく、できる手術法も変わるわけだが、実は見た目にこだわる男性も少なくないそう。印象を良くしたいなど、美意識の高さゆえかと思いきや、そうでもないらしい。

「男性で多いのは、手術前と印象を変えたくないという要望です。眼瞼下垂の手術は、皮膚を切り取ったり、筋肉を縮めたりするので、手術後はどうしても目がぱっちりと大きくなってしまいます。そのため可愛らしい印象になることも。中高年だとやはり威厳が必要ですから、それは避けたいということですね。印象を変えない術式もあるので、見た目を気にする方は相談して決めます」

眼瞼下垂の治療は手術になってしまうので、できれば避けたいところだが、日頃から防ぐことはできないのか。

「残念ながら具体的な予防策はありません。目の周りだけ加齢を遅くすることはできませんし、筋肉を鍛えるといってもまばたきや眼球の動きで必要以上に筋肉を動かしているので、鍛える必要もないでしょう。むしろ、悩んだり我慢をして不自由な生活をするくらいなら、潔く手術することをおすすめします」

まぶたはじわじわと下がり始めるため、気が付きにくいが40歳以上の人は、多かれ少なかれ眼瞼下垂の症状が出始めていると思った方がよさそう。急を要するような病気ではないが、ただ覚えておくことで、治らない肩こりや頭痛に悩んだ時、役に立つかもしれない。

●オキュロフェイシャルクリニック 鹿嶋友敬院長 
眼瞼疾患や眼窩疾患などの目の周囲に特化した治療を行い、2017年「新前橋かしま眼科形成外科クリニック」、2018年「オキュロフェイシャルクリニック東京」を開設する。米国への臨床留学や海外講演を経て、目の疾患に悩む患者に最先端医療の知識や経験を提供している。主な著書に、『ここからスタート!眼形成手術の基本手技』、『超アトラス 眼瞼手術』(共に全日本病院出版)などがある