ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

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昨年末に閉店してしまった、地元大泉学園の老舗中華チェーン「福しん」跡地が、久しぶりに前を通ったら、新しいラーメン屋になっていた。

「エキトンの店 井の庄」「エキトンの店 井の庄」

「井の庄」といえば、大泉の隣であり、我が家の最寄駅「石神井公園」にあるラーメン屋。濃厚な豚骨スープの上に、激辛だけど旨味もすごい「辛魚粉」という粉がたっぷりかかった「辛辛魚らーめん」が名物で、全国にその名をとどろかす有名店。僕も何度か行ったことがあり、その美味しさは本物だ。

また、近年は系列店舗も増えており、練馬「濃菜麺 井の庄」、保谷「INOSHOW」、荻窪「濃菜麺 井の庄 荻窪」、光が丘「光が丘 井の庄」、立川「麺処 井の庄」、さらに東京の西側を飛び出し、名古屋にまで「麺処 井の庄」を出店するほどの人気。店舗ごとにテーマがあり、出すラーメンにそれぞれの個性があることも特徴だ。

その最新店舗が、大泉に新しくできた「エキトンの店 井の庄」というわけらしい。気づいてしまったからにはどうしたって気になるけれど、今までにない店名。「エキトン」って一体どういうものなんだろう。とんこつラーメンであることは間違いなさそうだけど。

はっきりと書いてあるしはっきりと書いてあるし
というわけで、あまり前情報はないままに、とりあえず入店。入り口横の券売機には、定番らしき「エキトン」の他、「マッカッカなエキトン」(辛いっぽい)、「あこがれのエキトン」(全部のせっぽい)など、いくつかのメニューがある。が、初めてなので、まずは「エキトン」(850円)を購入。それからもちろん生ビール(600円)も。

また、その他のトッピングが文字だけなのに対し、「ジロベジ」「カラベジ」の2種だけは写真つきでどーんと紹介されており、見た目と名前から察するに「ラーメン二郎インスパイア系トッピング野菜」らしい。どちらも150円と手頃なこともあり、これも追加してみる。

エキトン&ジロベジエキトン&ジロベジ

注文の品はスピーディーにやってきた。真っ先に目がいくのは、どんぶりを覆いつくさんばかりに巨大な2枚のチャーシュー。そのせいで麺やその他の具材がよく見えない。そこで1枚ずつ折りたたみ、まずはスープをひと口。おー、うまい! けっこう王道的クリーミーなとんこつスープで、ものすごく濃厚な味わいなんだけど、嫌なくさみは一切ない。きっと誰もが喜ぶ味だ。

あまりに深みがありすぎ、魚介系のだしとかもいろいろ入っている? とも一瞬思ったけど、違ったら恥ずかしいので聞かなかったことにしてください。とにかくそのくらい、深うまい! あと、麺を覆っていた2枚のチャーシューが、厚さは薄めなんだけどそのぶんでっかく、とろりと柔らかくてたまらない。ラーメン本体は、けっこう王道的クリーミーなとんこつスープで、ものすごく濃厚な味わいなんだけど、嫌なくさみは一切ない。

続いて麺を引き出してみる。すると意外。いや、意外でもないのか。いわゆる王道のとんこつラーメンらしい超極細ストレート麺だった。井の庄の麺を知っているだけに、あ、こういう攻めかたでくるのね、とちょっぴり驚く。勢いよくずずずーっとすすると、ハリのあるぱつぱつの麺が濃厚スープをよく吸い上げ、たまらなくうまい。

ていねいな一杯だていねいな一杯だ

そしてこの野菜そしてこの野菜
ジロベジのほうは、やはり二郎っぽさのあるにんにく背脂醤油系のタレがかかった、大盛りのキャベツ&もやし。ゆでか蒸しか、絶妙に甘みが引き立ち、かつシャキシャキ感は健在で、このままでもビールのつまみに最高。

けれどもちろん、途中からはラーメンに投入してしまう。

とんこつミーツ二郎系野菜とんこつミーツ二郎系野菜

そもそもがハイクオリティなとんこつラーメンだったが、ここでぐっと個性が増した。ぷりんぷりん活きの良い麺に、しゃっきしゃきの野菜の歯ごたえ。さらには、甘みと、にんにく背脂醤油によるブースト感。一気に、他のどこでも味わえない「エキトン」ならではの味わいへと進化した感じ。さすが井の庄。

卓上調味料も豊富卓上調味料も豊富

卓上にあった辛子高菜や紅しょうがの意味も、今ならわかる。このラーメンにはやっぱり、高菜と紅しょうがが似合う。終盤、それらを加えてラスト味変をし、最後までぞんぶんにエキトンの味を楽しんだ。

シメはとんこつラーメンらしくシメはとんこつラーメンらしく

本家のぶっとい麺と違って食べやすい細麺なので、途中までは150円の替え玉をする気満々でいた。また、「インドの替え玉」なる、スパイスを使ったらしき追加麺の存在も気になりすぎる。けれどもけっきょく、頼んだ一式を食べ終えるころには満腹。次回はもうちょっと計画的に訪れて、インド替え玉を楽しむことを目標としたい。

思えば地元で気軽に、こんなにも美味しく、かつ本格的なとんこつラーメンを食べられる店はなかったかもしれず、とてもありがたい。

ただ、いまさらながら「エキトン」ってどういう意味なんだろう? 本場九州ではそう呼ばれるとんこつラーメンのジャンルがあるんだろうか? と思い、今調べてみたところ、「エキサイティング・トンコツ」の略の造語なんだとか。うん、確かに、我が地元にとって大変エキサイティングな店であることは間違いない。

●パリッコ
1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
公式Twitter【@paricco】

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