偶然持っていた、モールス信号っぽいデザインのピンク・フロイドツアーTシャツを着て偶然持っていた、モールス信号っぽいデザインのピンク・フロイドツアーTシャツを着て
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は音楽の中に潜む「モールス信号」について語る。

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前回、画家でありながらモールス信号を発明したサミュエル・モールスを取り上げました。科学者として歴史に名を残したモールスは、生前は売れっ子の人物画家だったという意外性にフォーカスしましたが、その後、厨二病の一環として覚えたモールス信号をほとんど忘れている悔しさに駆られ、モールス信号そのものにのめり込んでしまいました。

中学時代に親友Rと市川の間で大ブームになった「隠れたモールス信号探し」も思い出しました。きっかけは、イギリスのパンクバンド、ザ・クラッシュの『London Calling』。第2次世界大戦時にBBCが放送で使用していた「This is London calling(こちらロンドンです)」から取った曲名ですが、核戦争による終末を思わせる歌詞が特徴です。

当時のスリーマイル島原発事故やテムズ川の氾濫、バンドメンバー自身の薬物依存などに言及した風刺的な内容と、レゲエチックな裏打ちに短調なメロディでおなじみな名曲の最後に、ピピピ ピーピーピー ピピピという音。間違いなく、モールス信号でのSOS。ギターのミック・ジョーンズが(おそらく)ピックアップを使って出した音ですが、気づいたときは妙に興奮しました。

ほかにも音楽に潜むモールス信号を探すべく、ザ・ビートルズの『Strawberry Fields Forever』を注聴。歌い出しのフレーズの終わり(0:16~)でわずかに、ピピピピー ピピピーピーという音が。国際モールス信号でVW......フォルクスワーゲン? なぜ? 聴き方によってはピピーピーピー ピピーピピに聴こえる(ときも)。これはJL。ジョン・レノンの頭文字! 「だから何!?」というツッコミはやめてください。

デュラン・デュランの『Union Of The Snake』の最後のサビの前にも高音でSOSが流れます。曲のテーマとの関連性を調べましたが、キーボードのニック・ローズが「面白い」と思ってなんとなく入れてみただけのようです。ちょっとがっかりなので、「助けてほしい」というローズの心の叫びだったことにしときます。

続いてピンク・フロイドの『Astronomy Domine』。0:20からモールス信号のような音があるけど、解析してもわからない。ZSHKRasdijk......。何かすごい意味があるのでしょうか。

私のこじつけではない、確実にモールス信号が使用されているのは、クラフトワークの『Radioactivity』。曲中で何度か、曲のタイトルをモールス信号で発信。放射能汚染がテーマの曲で「放射能」と唱えているという仕掛けですが、ビートとしてもカッコいい。

ほかにはラッシュの『YYZ』も有名な例。『YYZ』はトロント空港の空港コード。当時、パイロットのトレーニング中だったギターのアレックス・ライフソンが、メンバーの前でYYZと信号を出した際、そのリズムのカッコよさに取りつかれたメンバーが採用。曲全体にYYZのモールス信号がテンポや楽器を変えながら響き渡っていてクセになります。

芸術→科学→音楽で巡るモールス信号、そそられます。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。厨二病の一環で、『Strawberry Fields Forever』のポール・マッカートニー死亡説のヒントも探しまくった。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

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