ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

気づかないうちにどこかでなにか、強大な負のパワーでも食らってしまったんじゃないか? というくらい、肉体的にも精神的にも不調な日々がしばらく続いていた。これはまずい。だいぶまずい。そう思い、すこし前に縁を感じる出来事があって、近々行きたいと思っていた、西東京市の「田無神社」へ、這うような状態でお参りに行ってみることにした。

田無神社、車で出かけるときなどによく前を通ることはあったが、実際に来たのは初めて。家からそう遠くないのに観光地のようなにぎわいがあり、龍神様をはじめとしたたくさんの神様が園内にいて、なんだか強制的に心身を元気にしてもらえるようなスポットだった。来てよかった。

ひととおりお参りを終えたらなんだか気持ちも上向きになってきて、そういえば腹が減っている。ここ数日、いつなにを食べたかの印象すらぼんやりとした日々だった。なにか食おう! と、神社を出ると、目の前に「たからや」という、いかにも老舗のそば屋がある。どう考えても縁起が良さそうだ。近寄っていくと、店員さんの人の良さが文字からにじみでた手書きのボードに「竹の子天ぷら ※季節限定 穂先竹の子天ぷら入り」の文字。た、食べたい! 久しぶりの純粋食欲。迷わず入店!

「田無神社」「田無神社」

「たからや」「たからや」店頭のボード店頭のボード
昼時は過ぎたころだったけれど、店内は満席。人気店のようだ。まずは「竹の子天ぷら」と「小生ビール」を頼む。

「小生ビール」(350円)「小生ビール」(350円)

さっそく届いたビールをぐいっ。うまい! 昨日もおとといも酒は飲んだけど、なんだかこう、気を紛らわすための酒というか、良くない酒だった。酒に悪い。ところがこのビールは、心の底からうまい! 良かった、うまい酒がまた飲めて。

「竹の子天ぷら」(500円)「竹の子天ぷら」(500円)

続いて竹の子天ぷらが到着。わ~! たったの500円でなんて気前のいい量。なんていい店。添えられた塩をちょんとつけ、がぶりとかぶりつくと、サクじゅわっとした食感の後、新鮮なたけのこならではの、とうもろこしを思わせるような香ばしさが口に広がる。ありがとう大地の恵み。なんだかもう、完全復活の気分だ。

さてメインも頼もうとメニューを見ると、どれもこれも魅力的。特に、小サイズの麺とどんぶりもののセットが、よくばりな自分にぴったりそうだ。メニューにある「ちびそば」っていう響きもかわいい。

魅惑のセットたち魅惑のセットたち
ラインナップは、ちびそば、もしくはうどんの、温かいのか冷たいの。それと、「天丼」「かつ丼」「親子丼」「開化丼」「カレー丼」「塩豚カルビ丼」「豚しょうが焼き丼」「たぬき丼」「きつね丼」「玉子丼」「カレーライス」の組み合わせか。ん? たぬき丼ってのはたぶん、あげだまを使ったメニューのことだよな。うまそう。ただ、それも気になるけど、隣の「きつね丼」ってどんなのだろう? 当然、あぶらあげを使ったメニューということになるんだろう。京都にあぶらあげとねぎを玉子でとじた「衣笠丼」ってメニューがあるけど、それのことかな? あ~無性に気になってきた。さっき神社内のお稲荷様にも参ってきたことだし、縁起もいい。それでいこう!

「きつね丼と温かいそばのセット」(850円)「きつね丼と温かいそばのセット」(850円)

しばらくたけのこ天とビールの幸せに浸っていると、メインが到着。そばつゆのだしの香りと、玉子とじにされたどんぶりもののいい香りが入り混じって立ち上り、もうすでにうまい。まずは、ちびそばといいつつきちんと量のあるそばを、ズズズとすする。わ~! ゆでそばなのにきちんとコシと香りがあって、つゆはだしが効いてキリッとしていて、ものすごくうまいそば! こりゃあ名店と出会っちゃったぞ。しばらく純粋にそばの味を楽しんだあと、まだまだ潤沢にあるたけのこの天ぷらをそばに足してしまうのもまた至福。

ちびそばをちびそばを

たけのこ天そばにたけのこ天そばに
さて気になるきつね丼。野菜はねぎではなく三つ葉のようだけど、やっぱりあぶらあげの玉子とじ丼だ。ごはんと一緒にがっつりとほおばると、とろりとした玉子に包まれたあぶらあげから、じゅわっと甘辛いだしが染み出し、こんなのうまいに決まってる!

具があぶらあげだけなのに具があぶらあげだけなのに

この破壊力!この破壊力!
小ビールは飲み干してしまったので日本酒を追加し、あとはただひたすらに、うまいそば、丼、酒のトライアングルを堪能する。もちろん合間合間に、つけあわせのポテトサラダや漬けものを挟みつつ。

「お酒(金婚一合)」(480円)「お酒(金婚一合)」(480円)

憂鬱な気分だった朝から一転、なんて幸せな昼下がりだろうか。それもこれも、田無神社と、たからやのおかげ。参拝と、そのあとのそば飲みのセット、元気をもらいたくなったらまたやりに来よう。

●パリッコ
1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
公式Twitter【@paricco】

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