ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

池袋の老舗立ち食いそば屋「君塚」が閉店してしまった。そのことを知ったのは、閉店の2日前。飲み友達のスズキナオさんから、「パリッコさん、立ち食いそば好きで、池袋にも縁がありましたよね? 友人から聞いたんですが、『君塚』が今月いっぱいで閉店してしまうそうです」と、メールをもらった。

ただ、それを知ったのが5月30日。「すぐ行かねば!」と返信しつつ、よく考えると、その日は仕事の都合で行くことが叶わず、その翌日、つまり最終日は、僕よりも本気のファンで、僕よりもきちんと別れを惜しみたい方々がたくさん訪れるだろうから、その人たちに譲るべきだろう。結果、池袋で会社員をしていた数年前まではしばしば行っていた君塚に、最後の別れを告げにいくことはできなかった。

その数日後、池袋へ行く用事があって、ついでになんとなく、閉店してしまった君塚の前まで行ってみる。

池袋「君塚」跡地池袋「君塚」跡地

当然のことながら店は閉店し、撤収作業が始まっていた。切ない。店の前にちょうど立ち飲みカウンターくらいの高さの箱が置いてあって、別れを惜しんでのことだろう。そこで何者かが外飲みをした形跡があり、なんとも池袋らしいなと、なんだかほほえましかった。いいことではないんだけど、空き缶を片づけないところまで含め。

空き缶は片づけましょう空き缶は片づけましょう

このすぐ近くには、みっちりとしたボリュームのいかげそ天のうまい立ち食いそば屋「大黒屋」もあったが、そちらもすでに閉店してしまったらしい。その他、十数年前は池袋の街全体にいくらでもあった個人経営の立ち食いそば屋は、軒並み閉店してしまったようだ。時代の流れではあるけれど、寂しい。

それはそうと、ちょうど昼どきだから、なにかメシを食って帰りたい。心はだいぶ立ち食いそばモードだけど、なんだかチェーンの立ち食いそばで済ますと言う気分でもない。よし、気持ちを切り替えよう。久々に街を徘徊し、気になる店に入ってみよう。と、しばらく歩いていたら、こんな店が目に入る。肉問屋直営 食肉市場「とんちゃん焼肉 大王」。

「とんちゃん焼肉 大王」「とんちゃん焼肉 大王」
新しめの大衆的焼肉店のようだが、ランチがずいぶんとお得だ。なんと、6種類の肉が食べ放題で980円。かつ、600円か900円、2コースの飲み放題もあるらしい。ホルモン焼肉食べ放題。そして飲み放題。切なさを経て、なんとなく自暴自棄気味な今のテンションにぴったりな気がして、入ってみることにする。

だいぶお得に感じるランチだいぶお得に感じるランチ1階のカウンター席へ1階のカウンター席へ
席に着き、ケチって生ビールなし600円の飲み放題と、食べ放題のランチを注文。ドリンクメニューを見ると、多数のサワーにハイボール、焼酎も甲類、芋、麦、米、黒糖、泡盛など種類豊富で、リーズナブルな値段に見合わぬ充実したラインナップだ。1杯目はレモンサワーを注文。

「レモンサワー」「レモンサワー」

さらに、食べ放題のホルモン類から「レバ」「とりにく」「シロコロ」を頼んでみる。

「レバ」「とり肉」「シロコロ」「レバ」「とり肉」「シロコロ」

たった数分前には想像もしていなかった、大量のホルモンを網焼きしているという今の状況がおもしろい。肉たちはジュージューと威勢のいい音、煙をあげ、どんどん焼けてゆく。いざ、欲望のままに食らってやろう!

どんどん焼ける肉どんどん焼ける肉

とり肉とり肉レバレバシロコロシロコロ
鶏肉はジューシーかつぷりぷりで申し分なくうまく、角の立ったレバーも新鮮で甘い。シロコロは、いわゆる厚木名物のシロコロホルモンのような脂たっぷりタイプじゃなくて、もつ焼き屋のシロのような感じかな。下処理のおかげかくさみなく、たれをたっぷりとつけて食べると、これまたいいつまみだ。

よし、調子が出てきたぞ。ここでチューハイをおかわり。

「酎ハイ」「酎ハイ」

こうなればホルモン焼き全種制覇を目指そう。次は「ハツ」と「つなぎ」をお願いします。それと、ごはんももらおう。

ガンガンやいていくガンガンやいていく

オンザライスでオンザライスで
ハツは厚みと弾力があり、赤み肉っぽい美味しさがある。つなぎという部位は、僕はよく知らなかったんだけど、シャキシャキとした食感ながら、とろっとした柔らかさもあり、ものすごくうまい肉だ。あとから調べてみたところ、どうやら、タンからハツなどのホルモンまでがひととおりつながった状態のことをつなぎとこと呼ぶらしく、その一部だろうか。「キンツル」と呼ばれるまた別の部位のことをそう呼ぶこともあるらしく、定かではないけど、うまかったからまぁいいか。

「半分で」とお願いしたわりに、かなりしっかりした量で出てきた「ライス」に、それらさまざまな味、食感のホルモンたちをのせてはガツガツと食らってゆく。やっぱり肉は元気が出るな!

「チレ」「チレ」

なんとかいけそうだったので、ラスト1種類「チレ」も注文。こいつは豚の脾臓のことで、もつ焼き屋でも好きな部位だ。

ずっと楽しいずっと楽しい

サクサク、クニュクニュとした食感が楽しい肉で、味は上品なレバーのようでもある。こいつをつまみに、最近自分のなかで数年ぶりのリバイバルブームが来ているしそ焼酎「鍛高譚」で締め。

「鍛高譚」「鍛高譚」

もう完全に満腹。どの肉もきちんと美味しかったし、酒はレモンサワー、チューハイ×2、鍛高譚と、合計4杯も飲んで、値段は税込みで1738円。ちょっとお得すぎるんじゃないだろうか、この店。

友達と昼飲みするのにも重宝しそうだし、食べ放題ではない和牛肉のランチなどもあるようだったから、また来てみることにしよう。

【『パリッコ連載 今週のハマりメシ』は毎週金曜日更新!】