リモートワーク、マスク、スマホ......。現代の生活は「目」に大きな負担をかけている。実際に、ここ数年で目が悪くなったと感じている人も多いはず! でも、安心してください!実は「目」は臓器の中でも、最新技術が最も取り入れやすい医療分野なんです!
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■ほぼ全員、白内障になる人生100年時代
コロナ禍によってリモート会議などが普及し、これまで以上にパソコンの画面を見る時間が増えたという人も多いはず。また、マスクによって自分の呼気が目に当たって乾燥してしまい、ドライアイになる人も増えているという。
NTTドコモ モバイル社会研究所の調査によれば、約2割の人が、新型コロナウイルス感染拡大前と比べて、目の不調(疲れ、かすみ目、視力低下など)が悪化したと回答。特に、世界の「近視」人口は、2010年には20億人弱だったのが急増中。2050年には、50億人近くにまで増えるという試算もある。
「実は、近視はアジア人に多いんです。日本を含めたアジア諸国での近視人口が大きくなっています」
そう話すのは二本松眼科病院副院長の平松類医師だ。
「私が診ている患者に最も多いのが緑内障なのですが、緑内障も近視の人がかかりやすい病気。40歳以上の20人にひとりがなるといわれていて、日本人の視覚障害の原因疾患としても最も多いのです」
緑内障は、眼圧(眼球内の圧力)が上昇し視神経が損傷する疾患。視野の狭窄(きょうさく)や視力低下が主な症状だ。
「しかし、病気を発症する〝確率〟が一番高いのは緑内障ではなく、白内障。白内障は80歳を超えると99.9%がなりますから」
白内障とは、水晶体が濁る疾患。症状には、視界のかすみやぼやけ、光がまぶしく感じることなどがある。99.9%って、全員じゃん!
「つまり、目の病気にならない人間はほぼいないということ。人生100年時代とはいいますが、人間の体のつくりはそんな長生きするようにはできていないんです」
■目の中にコンタクト。ICL手術とは?
平松医師によると、最近では、災害時の不安もあり、コンタクトやメガネがいらなくなる近視の治療に踏み切る人も多いという。
「一般的によく知られているのはレーシック手術だと思いますが、最近ではICLといって眼球の中にコンタクトレンズを入れる手術が主流になっています」
そのふたつはどう違うの?
「まず、レーシックが日本に導入されたのが2000年なのに対し、ICLは10年と比較的新しい技術なんです。レーシックは眼球の表面にある角膜をレーザーで削り、角膜の形状を調整することで、近視だけでなく遠視や乱視も矯正できる屈折矯正手術。機械で行なわれるため、非常に高い精度での調整が可能なことが特長です。
細かい調整が必要な患者にはレーシックをオススメしています。ただ、削るのには限度があるため、角膜の厚みが薄い場合には施術できないことも。また、デメリットとして、角膜を削るためにやり直しがきかないこともあります」
一方で、ICLは?
「ICLは簡単に言うと、眼球の中にコンタクトレンズを入れるという施術方法。この手術はレーシックとは違い、既製品のレンズを用いるため、細かい調節はできません。
ただ、その大きな特長は〝なかったことにできる〟こと。レンズを入れたけど調子が悪いとなればレンズを取り出すこともできますし、度数を調整して再びトライすることも可能です。
しかし、ボタンひとつでできるレーシックに対して、人の手で行なわれるため、術者の腕が重要になります。とはいっても、特別難しい手術ではないので、白内障手術をやっているような眼科医であればできるはず。
ICLが主流なのもレンズとナイフさえあればできるためです。レーシックは高額な機械を導入する必要があり、施術できる医院が限られているんです」
痛みは?
「どちらの手術も点眼麻酔をするため、痛みを感じる患者はほとんどいません。レーシックの際は、フラップと呼ばれるふたのようなものを角膜の表面に作っておくことで、手術後の傷を保護するし、ICLでは眼球にレンズを入れるための切り込みを入れますが、眼圧が傷を閉じるように圧をかけてくれるんです。
その後は細胞が自然治癒して傷口がふさがるので、目の手術は縫合する必要がないんです。どちらの手術も10分程度で終わるため、入院しない日帰り手術ですし、多くの場合、手術した翌日には目も慣れて見やすくなるので、手術から1週間で職場に復帰する人もいます」
ちなみに、ICLは老眼の治療に使えないの?
「ICLを使った治療もありますが、老眼治療は中の水晶体を吸い出して、代わりに人工のレンズを入れる方法が一般的。これは白内障の手術と同じです。今は多焦点眼内レンズといって、遠くも近くも見えるレンズがあるので、それを入れれば老眼も近眼も改善できます」
■最先端の技術は眼科医療と好相性
平松医師は「眼科医療は医療業界の中でも最先端の技術が使われやすい分野」だと話す。そのひとつがAIだ。
「目は臓器の中で唯一、透明なんです。MRIやCTなどで撮影しなければ見えないほかの臓器と比べて、目は簡単に撮影できるため、データが集まりやすい。また、MRIやCTは病気の臓器を主に撮影するため、正常な状態のデータが少ないんです。
その一方で、目は検診のたびに撮れるため正常データも多く、AIのビッグデータとして活用しやすいワケです」
2018年に米FDA(食品医薬品局)は、AIが患部画像を自動分析して診断する医療機器を初めて認可した。患者の網膜画像から、特に糖尿病性網膜症にかかっているかどうか判定する。その正確性は90%近いという。また、意外な領域にも期待されている。
「アルツハイマー病や軽度認知障害のある患者は、アミロイドβという脳内で作られるタンパク質が増加する傾向があるんですが、網膜を健常者のものと比べたところ、人の目にはわからない微細な差をAIが突き止めたそうなんです。
まだ実用化には至っていませんが、これによって、目を診察すれば潜在的な認知症を早期に発見できるかもしれません」
眼科医療は遺伝子治療も進んでいる。
「人工的に作られたアデノウイルスを目に注射し、遺伝子を変えることで遺伝病、特に網膜色素変性症という病気を治す治療法がアメリカでは承認されています」
網膜色素変性症は、4000~8000人にひとりが発症する疾患で、遺伝子の変異により起こるとされている。
「また、人の角膜を培養した細胞で作る技術も出てきています。これまで角膜は亡くなった人から移植していたのですが、『自家培養角膜上皮ネピック』は自分の細胞から角膜を培養することを可能にしました」
世界で初めてiPS細胞を用いた治療が行なわれたのも目の病気だった。培養の技術が目に使われるのにも目特有の理由がある。
「培養技術が恐れているのは、その培養した細胞ががん細胞になることなんです。しかし、目であれば外から見えるため、がんになってもすぐにわかる。また、培養細胞で立体臓器はまだイマイチ作れていないんです。だから腎臓や肝臓などは作れない。
一方で、目は角膜や網膜、つまり〝膜〟で構成されているので、培養した細胞でも作りやすい。眼科医療はこうした最先端技術と相性がいいんです」
眼科医療は医療業界の先頭を走る!