唯一(?)、確信を持って言えるのは、一生「シーズー推し」唯一(?)、確信を持って言えるのは、一生「シーズー推し」
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は市川紗椰が「推し活」について考える。

 * * *

猫もしゃくしも「推し活」な昨今。アイドルファンの間で、自分が特に応援するメンバーのことを「推しメン」と呼ぶ文化が一般に広まり、気づけばどんなジャンルでも「推し」という表現が使われるようになりました。俳優、スポーツ選手、VTuber、ゲーム、動物......。まさに時代は十人十推し。

以前は「オタク女子」的な企画を打ち出していた媒体も、今は「推し活」特集。ありがたいことに私も企画に呼んでいただいたりしますが、実は毎回少し戸惑っています。私は好きなものを愛してやまない「オタク」ではあるかもしれませんが、「推し活」をしているのかよくわかりません。そこで最近の「推し活」について考えてみました。

単に好きなメンバーを指す「推しメン」という言葉が、「推し」という、より能動的な表現に変化したのは、コロナ禍の影響が大きいと思います。アーティストやアイドル好きは、ライブやイベントに行けない代わりに生配信やSNSの投稿をよりいっそう噛み締め、推しが投稿した内容をしっかり把握。表舞台で見る機会が少なくなった分、裏側や推しの素顔に触れる機会が増えました。

完成された姿だけでなく、努力している姿や抜け感を今まで以上に知ることができたし、推しと仲間がわちゃわちゃする姿で平和まで感じられた。卓球が趣味だった友人は張本智和選手推しになり、張本選手と丹羽孝希(こうき)選手のわちゃわちゃをSNSにアップ。アニオタの友人はアニメ『TIGER & BUNNY』のワイルドタイガー推しになり、髪の毛に緑色のハイライトを入れました。

じゃあ私は、「推しは誰ですか?」「最近の推し活は?」と聞かれたときに、なんて答えればいいか。アニメはいまだに広く好きで、ひとつの作品やその中のひとりを「推し」に絞ることなんて無理。

強いて言えば、制作会社のP.A.WORKSかサンライズ推し? アニメーターなら金田伊功(かなだ・よしのり)推し? 監督だと幾原邦彦推し? 富野由悠季(よしゆき)推し? 作品が好きでも、その人の誕生日とか好きな食べ物とか知らないで推しと言っていいのか? 関取だと豊昇龍や照ノ富士を応援しているけど、力士になってくれた時点で全員好き。「鉄道推し」は広すぎますよね? 絞るなら名鉄推し? でも西鉄も好きだし東京メトロも好き。車も乗るし。

「推し」という言葉は、必然的に優劣をつけるように感じられて、しっくりこないのかもしれません。

「推し活」という言葉に内包される積極性も合わないのかも。私は熱心なオタのつもりだけど、たしなみ方は考察や情報収集。もちろん自分が好きなもののファンを増やしたいけど、何より自分が対象物をもっと理解したい。

これって、良くも悪くも個人で完結している。つまり、推してない。推しのためになるようなことを何もしていない私は、推し活はしてないのだろう。

ということをモヤモヤと考えていましたが、考えすぎと言われます。「唯一の推し」のための「活動」という言葉にとらわれずに、「好きなものがあること」という解釈でいいんじゃないかとも言われますが......。オタ活・推し活の定義に引っかかっている時点で、自分がいかに古いタイプのオタなのかを痛感します。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。「鉄道推し」という言葉の違和感に混乱し、推しを「日本の鉄道の父・井上勝」と答えてしまったことがある。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!