言ってしまえば、不倫は人ごとなのに......言ってしまえば、不倫は人ごとなのに......

最近また有名人の不倫報道が増えている。でも、犯罪をしているワケではないし、ましてほかの家庭の事情なのに、どうして怒ってしまうのだろうか!? その理由などを冷静に分析してみた!

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■他人の不倫に怒る理由とは!?

相次ぐ有名人の不倫のニュース。なんかまあモヤモヤはするけど、言ってしまえば、他人の家庭の事情。怒る必要は本来ないはず。

ただ、20代から50代の男性800人にアンケートを取ったところ「怒りを感じたケースがある」と答えたのが、およそ3人に1人もいることが判明した。この結果にコメントしてくれたのは、20年以上にわたり一般人の不倫を取材してきた『人はなぜ不倫をするのか』(SB新書)の著者でフリーライターの亀山早苗氏。

「有名人の不貞行為には怒るのに、不倫ドラマは流行するし、恋多き女性だった瀬戸内寂聴さんに惹(ひ)かれる人もいるという〝人間の矛盾〟を感じます。

昔は不倫にも、もっと寛容だったように思いますが、いつからか人の多面性を見ようとしなくなり、大声で正義を振りかざしたもの勝ちみたいになってしまった。見える部分だけを叩く風潮は確かにあると思います」

では、いったいみんなは何を理由に怒っているのかを聞いたところ、1位は配偶者や子供がかわいそうという答え。2位に模範的行動を取るべき。3位に不貞行為は慎むべき。と続いた。この答えを分析してくれたのは、明星大学心理学部心理学科教授で臨床心理士の藤井靖氏。

「不倫となれば子供を含めた家族に対する裏切りになりますし、すぐに丸く収まることはありませんから配偶者や子供への影響を考えるのは自然なことだと思います。

一方で、人は誰しも自由でありたいという欲求があります。恋愛も自由にしたいと心の奥底では思っている。実際、既婚者のおおむね3割は不倫(浮気)経験があるというデータもあります。

心理学で『投影同一化』という言葉がありますが、これは自分の嫌なところや後ろめたいところを他人の中に見て、その人に対して怒ることによって自分と向き合うことを避ける行為です。

有名人が不倫で炎上しているのを見て、自分への不快な感情を怒りに転化してごまかそうとしている面もあるのではないでしょうか。『模範的行動を』『不貞行為は慎むべき』というのは、不倫経験者の自分への戒め的な感情も含まれていそうです」

中には、ランク外だったが、「成功している人間が落ちていくのが面白いから怒っておく」という正直すぎる(?)回答もあった。藤井氏が分析してくれた。

「いわゆる『シャーデンフロイデ(人の不幸は蜜の味)』ですね。自分が直接手を下すことなく、人が不幸になっているのを見たときの快感(=ドーパミンの放出)は性行為と同等またはそれを超えるという研究もあります。

また、幸せホルモンといわれるオキシトシンは集団の結束が強くなったり、絆が強まる状況で分泌が高まります。『自分より成功している=レベルが高い人』が落ちるというのは、社会の平準化につながり、それが幸せや安心となるという本質的な心理はあるでしょう。

不倫に関してではなくても、一般に〝人の失敗談〟は注目されがちですし、それを聞いて親近感を覚えることも多いと思います。集団や社会を守ろうとする人間の本能ともいえます」

■謹慎すべきと考える理由は?

続いては、不倫をした有名人はどうするべきかという質問。世間に向けて謝罪すべきと答えたのは、約25%とおよそ4人に1人。謹慎すべきと答えたのは約37%と4割近くに上った。藤井氏が続ける。

「倫理的にマズいことをした人は罰せられるべきだという固定化された処罰感情はあるということです。加えてその背景には、人間の生存本能もあると考えられます。

実は、不倫は『自分の容姿に自信がある』恋愛強者が多く経験しているというデータがあります。有名人となればイケメンや美女がほとんどで、そういう人に好き勝手されると統制された社会が乱され、結果的に自分の子孫繁栄や生存にリスクが生じると本能的に感じてしまう。なので、半ば無意識的に『謹慎しておとなしくしてほしい』と思う場合もあるのでしょう。

ただ、それは『仕事を休め』というよりは『恋愛の肉食行動を控えて反省しろ』という意味合いが強いのではないかと考えられます」

■報じられ方で怒りは変わる!?

次は、不倫をした有名人のキャラクターや立場、そしてメディアの報じられ方で怒りは変わるのかという問題。

キャラクターや立場によって変わると思うと答えたのはおよそ36%で、報道のされ方に差を感じ、疑問を抱いたことがあると答えたのはおよそ63%に上った。藤井氏が分析する。

「とにかく人は『ウソ』と『ズル』が嫌い。つまり、不倫しそうな人やそういうイメージを芸にしている人は実際それが現実化しても想定内だけど、ベストマザー賞などを受賞したり、清楚(せいそ)っぽい役が多い俳優だったりすると『ウソをつかれた! そんな人じゃないと思っていたのに! そんな感じで仕事をして大金を稼いでズルいじゃないか!』となるわけです。

ただ、その『本当』や『ウソ』は各自が勝手に決めているだけであって、本当の意味での『ウソ』ではありません。メディアでどう発信されるかによって、その対象の『本当』は作られるのです。

例えば、記者会見で事細かにさらせば、それはかなり『本当』っぽく聞こえる(実際どうかはわかりませんが)。直筆の手紙などが出てくれば、『本当』の気持ちっぽく見える。すると『ウソ』はなさそうだ。と、どこかで留飲を下げる部分はあるのでしょう。

でも、どこかに怒りや不快感はぶつけたいから、それを報じたメディアに対して矛先が向けられる。『あることないことを報じて〝ウソ〟も言ってるんじゃないか』『自分の顔は隠しておきながら、有名人のプライベートを暴いて〝ズルい〟じゃないか』という感情に移っているのではないでしょうか。

いずれにせよ、大衆はそれほど真剣にゴシップについて考え込んで判断するわけではないので、そのときそのときで『どっちかっていうとコッチだな』という感じで『ウソ側、本当側』『良い側、悪い側』を無意識に決めてしまっています。そういう意味でも『どの情報に触れるのか』は人の判断に大きく影響を及ぼすと言わざるをえません」

最後に、前出の亀山氏が不倫を全肯定するわけではないという前提で締めくくってくれた。

「長年の不倫取材でわかったのは、人間誰でも恋に落ちる可能性はあるということです。私的調査ですが、『絶対に世間にも家族にも知人にもバレないという条件で、とても好みの人と出会ったら性行為を含んだ恋愛をしますか?』と聞いたところ、男女ともに『それでもしない』と言う人はいませんでした。

あまり目くじらを立てて不倫をした有名人を叩きすぎず、『人間、そういうこともあるよね』くらいの寛容さがあってもいいのではと個人的には思います」