『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は市川紗椰が進化をする「ピザ」について語る。
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19世紀のイタリアから移民とともにアメリカに渡ってきた料理、ピザ。程なく米全土に広まり、イタリアのものとは違う「アメリカンピザ」へと進化しました。水に含まれるミネラルの多さなどから独特の食感を持つニューヨークピザ、自動車工場に使われていたアルミトレイを流用した四角いデトロイトピザ、酪農文化のおかげで濃いチーズとパリパリ生地が特徴のセントルイスピザ。
こうした風土や文化に合わせて生まれたもの以外に、テクノロジーによって進化したものも多々あります。今回は、そんな愛すべきピザイノベーションについて。
再生紙で作られた地球に優しいピザの箱が増えてる中、とびきりエコなピザ箱があります。ブルックリンにある Vinnie's Pizzeriaでは、デリバリー注文されたピザをさらに大きな四角いピザに包んで配達。
この四角いピザ箱を模したピザ生地の底には、トマトソースやチーズも敷かれていて、天才なのかあほうなのかわからんくなる発想。食べるときはパカッと生地のふたを開けて、ピザマトリョーシカのごとく味わいます。天才派に一票入れたいですが、ほかのお店には広まっていません。
同じく発想の転換で生まれたのが、ピザinチーズ。アイデアのベースは、モッツァレラチーズの中にチーズと生クリームを入れた、日本でも人気のブラータチーズ。先日NYで食べたピザinチーズは、モッツァレラのチーズ袋の中にピザの具材を入れたものでした。
真っ白なチーズにナイフを入れると、トマトソースやペパロニがトロトロなチーズとともにあふれてきて感動してしまいました。ピザの耳にチーズを入れた商品はあるけど、チーズにピザを入れたのは「やられた!」と思いました。こちらもなぜか広まっていません......。
より真面目なイノベーションは、生地の進化でしょう。カリフラワーなどを使用した小麦粉なしのピザ生地は、アメリカではレストランはもちろん、スーパーの冷凍コーナーでもたくさん見られます。日本ではまだ見かける機会が少ないので、今後に期待。
ピザイノベーション・テック部門は、スウェーデンのTobii社とアメリカのピザハットが共同開発した、潜在意識ピザスカウター。画面に表示された具材を客が見ると、目の細かい動きを解析し、客が今一番食べたいピザを作るというシステムです。SF小説に出てきそうな、全然望んでないはずなのに実は欲していたディストピアピザ(ディストピザ!)に期待。
ちなみにピザテックのパイオニアは米ドミノ・ピザ。高機能な配達袋や、リアルタイムでピザの調理工程が確認できるピザトラッキングアプリ。今やタクシーなどでも見る、車の屋根の上に設置する3D看板もドミノが発祥だとか。2021年からは自動運転の無人デリバリーカーを発表し、テキサス州などの一部で運用しています。
私の一番のお気に入りは、ソースを1秒でも早くきれいに塗るために開発されたSpoodle。spoon(スプーン)とladle(おたま)を組み合わせた調理器具。「いらないだろ」と思って使ったら、あまりの塗りやすさに感激しました。
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。日本のピザイノベーションは、ピザにコーンをのせたこと。公式Instagram【@sayaichikawa.official】