毎日、熱中症に関するニュースが流れているこの時期。その対策として水分補給は大事なことだが、間違えた水分の摂り方によっては「水毒(すいどく)」という状態になることもあるらしい。かなり認知度は低いが、水毒とはいったい何なのだろうか。
「水毒とは東洋医学の概念なのですが、体内で水分が溜まっている箇所もあれば、水分が足りない箇所もあるという、体内の水分量のアンバランスが生じることです。主な症状は、むくみやだるさの他に、便が緩くなったり、変な吐き気が出てきたり、頭痛が起こるケースもあります」
そう話すのは、東洋医学と西洋医学を組み合わせた診察を行なう「代官山パークサイドクリニック」の岡宮裕院長。
体のだるさや吐き気、頭痛は熱中症にも起きる症状。熱中症かと勘違いして、水分補給をしてしまうと、より体内の水分バランスが崩れてしまう可能性もある。熱中症と水毒の見分け方はあるのか。
「水毒の要因は、その人がもともと持っている体質が大きいので難しいところですが、冷え症や胃腸が弱い人は注意が必要です。冷え性は女性の病気だと思っている人も多いと思いますが、意外と男性にもいたりします」
男性であっても普段の運動不足やストレスなど、自律神経を狂わす環境にあることも多い。そうした要因で"隠れ冷え性"になっている男性も少なくないのだ。
そして、岡宮院長は「日常の身体の変化」も水毒タイプであるかの判断になるという。
「あとは日頃から最初に言った症状が出ているかどうか。健康な人が風邪でもないのに月に何回も頭痛が起こることはありません。また、体重変化も目安になります。水毒の人は体内の水分量が一定ではないので、体重の変化が激しい。1~2日間と短期的に2kg以上違うのは水毒の症状が出ている場合が多いです」
もしかしたら、日頃のだるさは水毒のせいなのかもしれない。水毒自体が、命に関わるようなレベルの病気を引き起こすケースはほぼないようだが、水毒を起こすと生活の質が下がるようだ。予防できるなら症状が出る前に抑えたいところだが......。
「水毒を予防するには、まずは体、特にお腹を冷やさないことです。冷たい物を飲まない、生野菜を控える、消化に良いものを食べるといった、お腹を刺激するものはなるべく控えるようにしましょう。そして、これから暑くなりエアコンが必要な季節がやってきますが、体を冷やしすぎないこと。無理な薄着をしないことはもちろんですが、冷えるところに長時間いる場合は上着などで調節するようにしましょう」
できれば予防したいが、もし水毒の症状が出てしまったときはどうすればよいのだろうか。
「水毒の予防には正しい食事、睡眠、運動のサイクルを守り、丁寧に生活をすることが大前提。不摂生な生活は水毒を誘発しやすいです。それこそ今の時期は、暑さにまだ慣れていない状況でもあるから危険な時期ではありますね。
夏はシャワーしか浴びない人が多いので、きちんと湯船に入って入浴することです。温まり方が自宅のお風呂とは格段に違うので、行ける人は銭湯や温泉で大きなお風呂にゆっくり浸かるのもおすすめです。リラックス効果も期待できので、精神的にも癒されるはずです」
これから熱中症予防として、水分の摂取に気を遣う季節が到来するが、摂り方に注意することがあるのだろうか。
「水分は基本的には欲する量を摂ればよく、熱中症予防だからと必要以上に水分を摂る必要はありません。1Lくらいの水分を一気に飲む人がいますが、一度に多くの量を取り入れることも避けるべき。水分は、喉が渇いたときにちょくちょく摂るようにしましょう。
また、塩分も摂ったほうがいいと言われていますが、それは真夏の炎天下の下で労働をして、大量に汗をかくような人たちに必要なことです。普通に生活をしている範囲では、食事に含まれている塩分でまかなえます」
サラリーマンなど、長時間、外に出ることの少ない人は意識的に塩分を摂らなくてもいいそう。むしろ、清涼飲料水の飲みすぎは糖分を摂取しすぎてしまうので、基本的には水で水分摂取して、汗をかいたときにスポーツドリンクなどを飲むくらいで十分だ。
さらに体調が悪いからと、精力のつきそうな食べ物を摂るのも間違った対処法らしい。
「体調が良くないから、焼肉やニンニクたっぷりのラーメンを食べるというのは最悪の解決法です。体に余力があるときに良い方法かもしれませんが、体調が良くないときは胃腸に負担がかかり、水毒を誘発してしまう一因に。元気になった気がするだけで、体調は悪化する可能性の方が高いです」
夏は暑く湿度も高い日本の気候では、水毒を起こしている人は多いそう。命に関わることはないが、だるさや頭痛が続くだけで、仕事の効率も大きく変わってくる。これからの時期は熱中症予防のこともあり、適度な水分&塩分補給が大切だが、間違った認識や摂取の仕方には注意が必要だ。
●岡宮裕
代官山パークサイドクリニック院長。杏林大学医学部卒業。慶應義塾大学腎臓内分泌代謝内科に入局。腎臓病・高血圧・糖尿病などの診療に従事した後、横浜市立市民病院・静岡赤十字病院・練馬総合病院などに勤務し、血液内科やアレルギー疾患など幅広い医療に従事。2009年8月に代官山パークサイドクリニックを開業。「体に負担の少ない、一人一人に最適な治療」をモットーに、患者の症状やニーズにじっくりと耳を傾けながら診療を行なっている