安くて、うまくて栄養価が高い、庶民の味方「もつ」安くて、うまくて栄養価が高い、庶民の味方「もつ」

「もつ」といえば、大衆酒場の定番メニューだ。しかし、もつは、ただ安くてうまいだけではない! 長い歴史と庶民の健康を担う高い栄養価、「もつ焼きの日」にあらためて知っておこう!

■もつはウナギと遜色ない栄養価

7月13日は「もつ焼きの日」だ。

「もつ焼きの"もつ"は、臓物を短縮した業界用語です。臓物は内臓なので、『7(な)1(い)3(ぞう)=内臓』ということで制定しました」

そう語るのは、日本畜産副産物協会の米澤学(よねざわ・まなぶ)氏だ。

もつが、牛や豚の内臓ということは、なんとなくわかるが、似たような言葉に「ホルモン」がある。何が違うのか?

「昔は、内臓を関東では『もつ』、関西では『ホルモン』と呼ぶことが多かったんです。しかし、現在はどちらの呼び方も全国的に広がっているので、もつとホルモンも違いは特にありません。ただ、関西では豚よりも牛のほうが人気で、牛の内臓のことをホルモンという場合もあるようです」(米澤氏)

フードジャーナリストのはんつ遠藤氏がつけ加える。

「戦後の食糧難の時代に、それまで捨てていた牛の内臓を食べるようになったから、という説があります。大阪弁で『捨てるもの』は『放るもん』というので、それが『ホルモン』に変化したというのです。しかし、これはちょっと怪しいです。

内臓を使った料理は戦前からあるので、捨てられていたわけではありません。誰かが思いついた冗談が面白かったので、それが広まったのではないでしょうか。

有力なのは、ドイツ語の『Hormon(ホルモン)』から来たという説です。ホルモンは、動物の活動を調整する内分泌物質のことで、栄養豊富な内臓を食べると元気が出ることから、内臓をホルモンと呼ぶようになったようです」

ということで、もつもホルモンも同じで、栄養豊富な元気が出る食べ物なのだ。

では、もつにはどんな栄養があるのだろうか。

栄養士でグラビアアイドルの絃花(いとか)みき氏が説明する。

「もつには、タンパク質、カルシウム、鉄分、亜鉛、ビタミン、コラーゲンなどさまざまな栄養素が含まれています。そのため、夏バテ防止や免疫力アップに役立ちます。

主な部位について、詳しく説明していきましょう。

まず、一番人気の高いタンは、ビタミンB群が豊富です。糖質をエネルギーに変えるビタミンB1や、脂質をエネルギーに変えるビタミンB2が多く含まれていて、疲労回復に効果があります。また、動脈硬化や脳卒中の予防になるビタミンB12や肝機能を強化したり、血圧の上昇を抑えるタウリンも多く含まれています。

豚タン(舌)豚タン(舌)

もつの中でも特に栄養が豊富なのはレバーです。レバーに含まれる鉄分は全食品の中でもトップクラスです。鉄分は貧血予防だけでなく、鉄分を取ることで血液中の酸素が効率的に運ばれるため、息切れなどがしにくくなります。

また、レバーにはビタミンAも多く含まれています。ビタミンAは目や皮膚の粘膜を健康に保ち、免疫力を高める作用があります。

シマチョウは、低カロリーでビタミンがバランスよく含まれています。ビタミンB1、B2のほかに抗酸化作用のあるビタミンCやビタミンEなどが含まれているので、血管の老化などを防ぎます。また、コラーゲンも豊富なので、皮膚や毛髪にハリやコシを出します」

牛シマチョウ(大腸)牛シマチョウ(大腸)

このほかにも、もつのさまざまな部位には、多くの栄養素が入っているため、夏バテの防止になるという。

夏バテ防止の食べ物といったらウナギだが(ちなみに今年の土用の丑[うし]の日は7月30日)、ウナギと比べても遜色ない栄養素がもつにはある。高価なウナギを食べるのもいいが、今年はもつで安くすませるという判断もありかもしれない。

■"レモホル"がブームになっている

実は、安くて、うまくて、栄養価が高いもつ(ホルモン)が、今また注目されているという。

はんつ遠藤氏が語る。

「もつ鍋や串に刺して焼いたものではなく、今は焼き肉みたいに炭火やガスコンロでそのまま焼くお店が増えています。特にテーブルにレモンサワーのサーバーがついていて、サワーが飲み放題、ホルモンが食べ放題などの"レモホル"店が人気です。

理由は値段が安いから。1時間の飲み放題&食べ放題で2000円ぐらいからと、とにかくリーズナブルなんです。これはホルモンの値段が、普通の肉と比べて安いからできる芸当です(農林水産省の農林水産物輸出入統計から算出すると、2022年の輸入豚臓器の1㎏当たりの価格は約471円)。

また、炭火やガスコンロなどでお客さんが自分で焼くスタイルは、お店側は串打ちなどの仕込みがいりませんし、ホルモンを提供するだけなので、料理などの手間がかかりません。お客さんのほうも、自分で焼くというエンタメ要素があるので楽しめます。

今、新しくオープンする焼き肉系のお店は、ホルモン焼きが圧倒的に多いんです」

一方で、串打ち系のホルモン専門店も進化を遂げている。遠藤氏が続ける。

「上質なもつ焼きやもつ煮を出すお店もできています。例えば、もつ煮を麻辣(マーラー)味にした『麻辣味噌』や、煮干しが効いたスープの『特製塩煮干し』など、最近の流行を取り入れたメニューを出したりしています。

さらに、カスタマイズできる店もあります。普通、もつ焼きというと塩かタレを選ぶことが多いと思いますが、それ以外にステーキでいう『ウエルダン(よくやき)』や『レア(わか)』を選べたり、塩やタレでなく、お酢をかけたりすることができます。その場合は『素焼き』を頼みます。

ですから、通い慣れている人は『シロ、素焼き、よくやき、お酢』という呪文のような注文の仕方になるのです」

さまざまな方向に進化しているもつ(ホルモン)焼き店だが、いい店の見分け方はあるのだろうか。

「おいしいもつ焼き屋さんには、ふっくらとしていて白子やフォアグラのような味の『しびれ(胸腺)』や、クリーミーでコクがある『おっぱい(乳房)』があります。こうした希少部位があるのは一頭買いしているからです。ないからダメというわけではありませんが、お店を見分けるひとつの選択肢になると思います」

もつ焼きの日に、あらためてもつの素晴らしさを感じてほしい。

栄養士・グラビアアイドル 絃花みき。1995年生まれ。栄養士の資格を持つグラビアアイドル。実は現役のOLでもある。公式Twitterは【@0814mikik】、公式Instagramは【@kumasan0814】栄養士・グラビアアイドル 絃花みき。1995年生まれ。栄養士の資格を持つグラビアアイドル。実は現役のOLでもある。公式Twitterは【@0814mikik】、公式Instagramは【@kumasan0814】