日本には古来より短歌で恋心を伝える文化があったはずだが、現代では手書きの文字で愛を綴る機会はなかなかない 日本には古来より短歌で恋心を伝える文化があったはずだが、現代では手書きの文字で愛を綴る機会はなかなかない
女優・広末涼子さんの不倫報道により思わぬ形で注目された「ラブレター」。一部のSNSではその内容が「気持ち悪い」と非難を浴びた。だが、果たして本当にそうだろうか? そもそもラブレターに正解はあるのか? そこで、プロから見てどんなラブレターが心に響くのか、"ラブレター代筆屋"の小林慎太郎さんに話を聞いてみた。

小林さんはIT企業に勤めるかたわら、2014年よりラブレター代筆屋としてのキャリアをスタート。「小学生の頃からラブレターで告白をしていたので、妻に告白する際もそれ以外の選択肢はなかった」と話すほど、ラブレター歴は長い。

「ラブレターを書く際、『文章量はどれくらいがいいのか?』『行間は空けたほうがいいのか?』など作法的なことを聞かれることもあるのですが、ラブレターに決まり事や作法は特にないと思っています。強いてあげるとすれば、感情を吐き出して書きたいことをただ書くのではなく、受け手の立場になり相手がうれしいことを書くということくらいでしょう」

小林さんがラブレターを代筆する際、相手への想いはもちろんのこと、ふたりの関係性や相手の性格などを依頼者からヒアリングする。長いときには8時間、聞いたこともあったそう。そのうえで相手の心に引っかかることを意識し、時に具体的なエピソードを織り交ぜながらペンを走らせる。

また小林さんは依頼者からの代筆だけでなく、ラブレターの添削も行なう。その際、チェックするポイントが下記の3つだ。

1.ゴール設定をする
2.熱量を調整する
3.渡す場面を想定する

「好きとは書かれていても、『その先どうなりたいか』『何がしたいか』が書かれていないことが多い。好きな気持ちだけしか書かれていないと相手もどうリアクションすればいいか困惑します。また『まずは食事に行こう』なのか『もう付き合おう』なのか、もしくは『友達から始めてください』なのかで書く内容も変わってくるはずです。

それから熱量が高すぎるパターンもよくあります。以前『コンビニの店員さんに一目惚れしたのでラブレターを渡したい』というご依頼がありました。信頼関係がある間柄であれば問題ないですが、この場合に『愛してる』なんて書いたら、気持ち悪がられてしまいますよね。そこは第三者である私だからこそ、指摘できる部分かもしれません。

あとはラブレターを渡す場面が想定されていない方も多いです。対面で渡すのか、郵送するのかなど。企業のプレゼンでもそうですが、資料を渡すだけなら補足の場がないので、紙にすべてをまとめなくてはいけません。ただ対面であれば、口頭でも補足ができる。紙に想いのすべてを書ききらなくとも、補足前提の文字量でもいいわけです」

小林さんは「私が言う立場ではないのですが......」と前置きしつつ「ラブレターはあくまで、きっかけづくり。直接お伝えできることは、したほうがいい。すべて書こうとすると、熱量も高すぎてしまいますからね」と比較的"あるある"な長文に対しても助言する。

ラブレター代筆の依頼理由は「本気度合いを伝えたい」が圧倒的に多いそう ラブレター代筆の依頼理由は「本気度合いを伝えたい」が圧倒的に多いそう
ただしラブレターは、恋愛の告白に限ったツールではない。恋人や夫婦、友人にも送ってもよろこばれるものだろう。

「恋人や夫婦なら熱量の調整も必要ないでしょう。それこそプロポーズのラブレターの代筆依頼は無条件でうれしいのですが、正直、私に依頼しなくてもいいのでは?と思うくらい。もう何を書いてもいいと思います」

さらに不倫相手に渡すラブレターを依頼されることもあるそうだ。小林さんは「実は不倫ラブレターの多くは、既婚男性からの依頼が圧倒的。自発的ではなく、お相手の独身女性に『手紙がほしい』とせがまれて書かれるパターンです」という。

「最初は複雑な心境でお断りしていました。ただ、しばらく考えて『好きという気持ちを形に残したい』といういじらしい女性の気持ち自体は素敵なこと。だからその方に向けて書こうと気持ちを切り替えました。これは完全に主観ですが、LINEの愛のやり取りは下世話感が出てしまうのに比べ、ラブレターは純愛感が一番伝わりやすいんだと思います」

このように「相手に頼まれたから」という人もいれば、「自分の中にあるモヤモヤを誰かに聞いてほしい」と半ばカウンセリング的な気持ちで依頼する人など、ラブレター代筆屋を求める人は様々だという。

「ラブレターはエンタメでも芸術でもないので、万人に受ける必要はない。良し悪しを他人が語る権利はありません。もらった相手の感情が動けば、それはイコール"いいラブレター"です。それでいうと、まさに広末さんのラブレターは100点です。

言葉遣いや表現が不適切だという声もあるようですが、最初にお話をしたように、ラブレターに作法はありません。依頼者や渡す相手のキャラクター、ふたりの関係性によっては、言葉遣いや『てにをは』がおかしくても直さなくていいと私は思います」

そう語る小林さんだが、本人は奥様に告白の日以来、ラブレターを書いていないそう......。

「子供には『明日も遊ぼうね』などちょっとした書き置きをすることはあります。でも、奥さんにはなかなか......。書いたほうがいいのは、わかってるんですけどね。

みなさんもいきなりラブレターを書こうとは思わず、付箋で一言、感謝の気持ちを伝えるとかでもいいと思います。付箋だと、一気にハードルが低くなりますから。僕もそれなら、できる気がします」

小林さんがいつも食事の用意をしてくれる奥様へ宛てた感謝のメッセージ。心なしか、翌朝の様子がいつもより明るかったそう。最初はこれくらい気軽に「いきなりだいそれた言葉でなく、まずは伝えやすい形や言葉から」始めるのがベターだ 小林さんがいつも食事の用意をしてくれる奥様へ宛てた感謝のメッセージ。心なしか、翌朝の様子がいつもより明るかったそう。最初はこれくらい気軽に「いきなりだいそれた言葉でなく、まずは伝えやすい形や言葉から」始めるのがベターだ
というわけでインタビューの後日、小林さんからは奥様に宛てた付箋の写真が送られてきた。まずは読者のみなさんも、書き置きからでも始めてみてはいかがだろうか?

●小林慎太郎 
1979年生まれ。立教大学卒業。都内IT企業に勤めながら、2014年よりラブレター代筆屋として活動。現在までに約200通のラブレターを代筆。フジテレビ『ザ・ノンフィクション』等のテレビ番組や、新聞やラジオ、WEBなど各種メディアに取り上げられる。著書に『ラブレターを代筆する日々を過ごす「僕」と、依頼をするどこかの「誰か」の話。』(インプレス) 
公式Twitter【@DenshinWorks】 
公式サイト【https://dsworks.jp/