「骨の健康」だけではない重要な役割、新型コロナのような感染症を防御する働きなど、知られざるビタミンDの奥深い世界! 「骨の健康」だけではない重要な役割、新型コロナのような感染症を防御する働きなど、知られざるビタミンDの奥深い世界!

「98%の日本人が『ビタミンD不足』に該当」と題した東京慈恵会医科大学の報道発表がメディアで報じられ、今注目を浴びるビタミンD。全日本人が足りない!と言っても過言ではない今回の研究結果から何が見えてきたのか?

「骨の健康」だけではない重要な役割、新型コロナのような感染症を防御する働きなど、知られざるビタミンDの奥深~い世界に迫る!

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■ビタミンDが免疫のバランスを調整する

日本人のほとんどは「ビタミンD」が足りていない!

東京慈恵会医科大学(以下、慈恵医大)の研究チームが、2019年4月から20年3月までの期間に東京都内で健康診断を受けた5518人を対象に調査を行なったところ、全体の98%がビタミンD不足に該当することが明らかになったという。

ビタミンDは、私たちの健康に欠かせない必須栄養素のひとつだ。カルシウムの代謝に関係して働き、これが不足すると「骨粗しょう症」や「くる病」などを引き起こすため、古くから骨の健康に重要な役割を持つ栄養素のひとつとして知られている。

「日本人にビタミンDが足りない人が多いと、ある程度は予想していたのですが、『98%が不足』というのはショッキングな結果でした」

と語るのは、この調査を行なった慈恵医大・臨床検査医学講座の越智小枝(おち・さえ)教授だ。

「高齢者で骨折をした方や骨粗しょう症が見られる方と、そうでない方の血清中のビタミンD濃度を比べると、だいたい30ng(ナノグラム)/ミリリットル未満の人で骨折のリスクや骨粗しょう症になるリスクが高いことが知られています。

そのため、日本代謝内分泌学会、日本整形外科学会が提唱するビタミンDの基準濃度は30ng/ミリリットル以上と定められているのですが、健常者を対象とした今回の大規模調査では男女を問わず、ほとんどの人がこの基準を下回っており、また若い人ほどビタミンD不足の割合が高いことがわかりました」

日本社会の高齢化が進む中、ビタミンDの不足が骨粗しょう症などのリスクを上げるとすれば問題は深刻だ。

しかもこのビタミンD、「骨の健康」だけでなく、私たち人間の免疫や健康に幅広く関係していることが、近年の研究によって次々と明らかになっているという。

慈恵医大の分子疫学研究部・浦島充佳(うらしま・みつよし)教授らの研究グループが参加し、ドイツ、アメリカ、フィンランド、オーストラリア、ニュージーランドなどの研究機関と行なった国際共同研究で10万人分のデータを分析したところ、ビタミンDのサプリメント(以下、サプリ)を毎日取り続けた人はがんの種類に関係なく、がんによる死亡率が12%も減少していたというから驚きだ。

「がんの死亡率が大きく下がっている原因は明らかになっていませんが、ビタミンDには免疫機能のバランスを調整し、過剰な免疫を抑えてくれる役割があると考えられています。それが心筋梗塞、動脈硬化といった心血管疾患のリスクを下げることに関係しているのです。

また、免疫が自分の体を攻撃してしまう関節リウマチや膠原病のような病気に対しても抑制効果があるとされているほか、新型コロナの重症化の要因として考えられている『サイトカインストーム』(免疫暴走)とビタミンDの関係も注目されています」(越智教授)

■ウイルス感染を防ぎアレルギーも改善!

一方、新型コロナなどの感染症を防御する上で重要な粘膜の免疫にも、ビタミンDの役割が欠かせないと指摘するのは、『ウイルスに強くなる「粘膜免疫力」』などの著書がある、みぞぐちクリニックの溝口徹院長だ。

「新型コロナは口や鼻、喉などの上気道にウイルスが感染するのですが、そこでウイルスを体内に入れないようにする最初の砦(とりで)が粘膜免疫です。

ウイルスや細菌など、体に悪さをしそうなものをネバネバとした粘膜細胞がからめとってガードするのですが、その粘膜細胞同士を強く結びつけ、防御の網の目を密にする『接着タンパク』という物質がビタミンDの働きで作られることがわかっています。

また、私たちの細胞には細菌やウイルスを殺す『抗菌タンパク』を作る仕組みがあるのですが、これを粘膜レベルでやっているのもビタミンDの働きです」

溝口氏によれば、新型コロナでは「ビタミンDの血中濃度が高い人はコロナの陽性率が低い」というエビデンスが示されており、インフルエンザでも同様だという。

「花粉症などでもビタミンDを適正に摂取することで、症状が改善する方が多い。ウイルスや細菌だけではなく、アレルギーへの初期防御にもビタミンDが大きく関係していると考えていいと思います」

なるほど。ビタミンA、B、Cと比べて、あまりなじみのないビタミンDだが、実は私たちの健康にとって非常に重要な栄養素だということはよくわかった。

ならば、冒頭の「98%がビタミンD不足」という状況は、かなりマズイことなのでは? というか、足りてる人は全体のわずか2%って、いったいいつからそんなことになってしまったのだろう?

「はるか昔、私たちの遠い祖先が『服を着たとき』から、人類のビタミンD不足は始まったのかもしれません」

と語るのは前出の越智教授だ。

「本来は人間が体で作れないものをビタミンと総称しているのですが、ビタミンDはちょっと特殊で、日光を浴びると皮膚で作ることができるんですね。

もちろん、食べてビタミンDを吸収することもできるのですが、おそらく太古の人間は、日中、外で狩猟などをしているだけで十分な日光を浴びることになり、皮膚が必要量のビタミンDを合成できていたのかもしれません。

ところが、その後、人類が服を着て家の中で生活するようになってからは十分なビタミンDを作ることができなくなった可能性があります」

■日本人だけじゃない。「ビタミンD欠乏パンデミック」問題

ちなみに、前出の溝口氏によれば、現代でも赤道直下で裸に近い姿で狩猟生活をしている人たちを対象に、ある研究者が血清中のビタミンD濃度を計測したところ、平均が50ng/ミリリットルと、十分なビタミンDの値を示した研究報告があるという。

「おそらく、それくらいの値が人間にとって最適なビタミンDの濃度なのではないかと思うのですが、そう考えると、30ng/ミリリットルという今の基準値でも足りないかもしれない。

黄色人種や黒人は、白人よりもビタミンD血中濃度が低いといわれていて、われわれ黄色人種が日本の緯度に暮らしながら、この基準を目指そうとすれば、全裸で過ごさなければならないかもしれない。もっと緯度の高い北米に住んでいる黒人が一年中、洋服を着て過ごせばビタミンD欠乏症になる可能性もある。

実際、ビタミンDに関する研究は高緯度に移住した黒人に、くる病など骨の異常が増えたことがきっかけで始まったのです」

食生活の変化も影響している。食物を通して摂取するビタミンDには、サケやイワシなどの魚に多く含まれるビタミンD3と、干しシイタケやキクラゲなどに多く含まれるビタミンD2の2種類があるが、日本人の食生活が変わり、魚や干しシイタケの消費量は大きく減少。

これが日本人、特に若い世代のビタミンD不足に影響を与えているという部分もありそうだ。

また前出の越智教授は、次のように話す。

「実は日本人だけが足りていないというわけではなくて、『ビタミンD欠乏パンデミック』という言葉が生まれるぐらいに世界中でビタミンD不足は問題になっています。

すでにヨーロッパでは、ほとんどの乳製品にビタミンDが添加されるようになっていて、それでなんとか基準値を満たしているというのが実情です」 

そのビタミンDを摂取する方法について、前出の溝口氏は「サプリが最も現実的」だと指摘する。

「私のクリニックでは初診時からほぼ全員の患者さんのビタミンDの血中濃度を測っているのですが、サプリを飲んでなくて50ng/ミリリットル以上あった人は、これまでひとりだけで、その方はとにかくお魚が大好きで、毎日、刺し身やシラス、イワシなどを食べているといいます。

ただ現実的に考えて、多くの方がそういう食生活をするのは難しいので、ビタミンDの理想的な血中濃度を維持しようと考えたら、やっぱりサプリで取ったほうが手軽で確実だと思います。

その場合、気をつけなければいけないのは、ビタミンDを過剰に摂取すると、高カルシウム血症などを引き起こす危険があることです。

ただし、ドラッグストアなどで売っている非活性型のビタミンDのサプリを、毎日240粒ぐらい飲まない限り血中のカルシウム濃度は上がりませんから、常識的なサプリの使い方をしていれば、その心配はないでしょう。

また、肝油(かんゆ)ドロップなども、手軽にビタミンDを取るには有効で、昔は子供のおやつ代わりに肝油ドロップを食べさせていましたが、今思えば、あれはビタミンDを補給する良いサプリだったのだと思います」

■「ビタミンDだけを取ればいい」わけではない

それでもサプリではなく、食事でビタミンDを摂取したいと考える人もいるだろう。普段の食生活を工夫すれば、必要なビタミンDを摂取することはできそうだ。

先日、現役引退を表明したフィギュアスケートの髙橋大輔氏をはじめ、アスリートの栄養指導を手がけている管理栄養士の石川三知(いしかわ・みち)氏もビタミンDの持つ力に注目し、アスリートの食事指導に生かしているという。

「最近、注目される機会が増えているビタミンDですが、私がまず強調しておきたいのは単純に『ビタミンDだけを取ればいい』というわけではないということ。栄養素はそれぞれ相関関係があって、チームワークで働きます。

ビタミンDも、ほかの栄養素と共に体内に存在することで、初めてその効果を発揮させることができます。メディアで『ビタミンDが体にいい』などと聞いて、食生活全体を考えず、そればかりの摂取を増やすことは間違いなのです」

その上で、サプリではなく日々の食事でビタミンDを摂取することは、それほど難しくないという。

「魚ならやはりサケがいいですね。また、丸ごと食べるイワシやシラスにもビタミンDが豊富に含まれています。塩分の取りすぎに注意は必要ですが、サケなら一日ひと切れ食べれば十分なビタミンDが摂取できると思います。

魚以外でも、鶏卵やきのこ類、特に天日干しの干しシイタケはビタミンDが豊富なので、焼きサケ、卵料理、干しシイタケやいりこを入れた具だくさんの味噌汁を食べれば、一日に必要なビタミンDを取ることはできると思います。思い切って、朝ごはんを和定食にしてみるというのはどうでしょう?

もちろん、魚を食べたり、干しシイタケでだしを取ったりするのが難しいという人は、サプリメントでビタミンDを補給しても構いません。

実際、私が栄養担当しているアスリートでも、動物性の食事を取らないビーガンの選手にはサプリメントを併用してもらっています」(石川氏)

ビタミンDを豊富に含む食材の代表格は、日本人の朝ごはんの定番「サケ」と「天日干しのシイタケ」。天日干しでないとビタミンDは多く含まれていないから注意しよう! ビタミンDを豊富に含む食材の代表格は、日本人の朝ごはんの定番「サケ」と「天日干しのシイタケ」。天日干しでないとビタミンDは多く含まれていないから注意しよう!

最新の研究でさまざまな働きが明らかになりつつあるビタミンDだが、その効能として古くから知られているのは健康な骨を保つこと。良質な骨こそすべての人の健康を支える背骨といえよう。

サプリでも食事でもいいから「一億総ビタミンD不足」を解決する「骨太の生活改善」が必要なようだ。