ふたり出版社・点滅社の屋良朝哉代表と小室ユウヤさん ふたり出版社・点滅社の屋良朝哉代表と小室ユウヤさん
日本一パンクで破滅的な(!?)ふたり出版社・点滅社をご存知だろうか。

代表の屋良朝哉(トップ写真・左)が友人の小室ユウヤ(トップ写真・右)を誘い、知識・経験ゼロの素人ながらも見切り発車で設立。昨年11月に発売されたロックバンドの詩集を皮切りに、今年5月には主にSNSで活動する歌人の第一歌集を刊行すると、大橋裕之や杉作J太郎らに加えてアマチュア作家が多数参加する漫画選集を続けて発売。出版社を続ける中での苦楽や情熱を素直に綴ったSNSへの共感も相まって、本を刊行するたびに話題となっている。

「もうだめだ」。そう呟きながらも、先月、無事に1周年を迎えた。彼らはいったい何者で、これからどこへ向かうのか......? 今回は、彼らも運営に関わっているという高円寺の書店・そぞろ書房で、本作りにかける真っ直ぐな思いを聞いた。

■素人でも本は作れるんだぜ

――まずは1周年、おめでとうございます。公式noteに公開されている代表挨拶には「勢いだけでこの会社をつくりました」「どうせなら最後にやりたいこと全部やってから死のう」と書かれてあり、普段のSNSを拝見していても、とにかく死に物狂いで本作りに向き合われている印象なのですが、具体的にどのような経緯で出版社を立ち上げられたんですか?

屋良 挨拶からして何だか不穏ですよね、すみません......。もともと僕は、勉強についていけず、就職活動のやる気も持てないまま大学を中退して、勢いで沖縄から上京してきた人間なんです。こんな見た目だからかもしれないですけど、アルバイトの面接も全く通らなくて。学歴もなければ職歴もカスみたいな感じだし、「憂鬱だなぁ、もう死のうかなぁ......」と思ったときに、せめてやりたいことをやってから死んだほうが良いんじゃないかって。

やけくそで、出版社を立ち上げました。「死ぬ」とか、そんなことばかり言っている僕がインタビューを受けるなんて、おこがましいにも程がありますよね......。あっ、このまま話を続けちゃって大丈夫でしょうか......?

――は、はい! 大丈夫です。

屋良 ありがとうございます。出版社を選んだのは、本が好きだからというより、映画や音楽を含めたカルチャー全般への恩返しが目的としてあって、いちばん良いのが出版物だと思ったからです。僕は主にパンクロック、ユウヤさんは映画が大好きで、ふたりとも、そういったカルチャーに支えられながら生きてきたので......。

それに、ちょっと悪口みたいになりますけど、出版社って、高学歴のエリートしか入れないイメージがあるじゃないですか。有名な編集者のプロフィールには、必ずと言って良いほど有名大学の名前が書かれていますよね。まぁ、例外もあるかもしれないけど......。

ラモーンズみたいに、スリーコードだけでも名曲は作れるんだぜ。素人でも本を作れるんだぜって証明がしたいんですよね。特に出版業界は、音楽業界に比べて敷居が高すぎるというか。「学歴がなくても本を作って良いじゃん」って、その壁をぶっ壊したかったんです。はい。僕はそんな感じです。......ユウヤさんは?

小室 いや、長ぇよ! ひとつの質問に対してどれだけ喋っているのよ。しかも、スマホのメモ帳にカンペまで用意して(笑)。

屋良 アハハ。事前にメールでいただいていた質問に対しては、ちゃんと答えないと困るかなと思って......。

小室 俺、この話もう80回くらい隣で聞いているんですよ(笑)。そろそろアドリブで答えられるようになってほしいですよね。落語じゃないんだからさー。しかもオチねぇし。

個性的な屋良さんと、奇を衒(てら)うのが好きじゃない小室さん。ちなみに屋良さんは、頭が寒いため毎日被り物を着用しているそう 個性的な屋良さんと、奇を衒(てら)うのが好きじゃない小室さん。ちなみに屋良さんは、頭が寒いため毎日被り物を着用しているそう
――アハハ。小室さんは、代表の屋良さんに乗っかる形で点滅社を始められたんですか?

小室 そうですね。最初は屋良くん一人で、1冊目の詩集を出すためだけに立ち上げた感じだったんですけど、開業する直前に「ユウヤさんも、本作りなよ」と声をかけてくれて。

屋良 僕とユウヤさんって、性格は正反対ですけど趣味や感性が近くて、もう7?8年の仲になるんです。もし一緒にやれたら、一人でやる以上に面白い出版社になりそうだなーって。暇そうにしていたところを誘ってみました(笑)。

小室 一応、バイトはしていたんですけどね。逆に言えば、バイトしかしたことがないんですけど......。何だかんだ、基本的な業務は全て屋良くんがやっているので、今も暇ですよ(笑)。僕が企画した本も、権利関係の都合上、具体的な制作はまだ先になりそうなので。

――おふたりとも出版業は未経験なんですよね?

屋良 出版業どころか、ろくな就職経験もないふたりなので、何もかも分からないまま突き進んでいます(笑)。とりあえず「会社の作り方」やら「出版社とは?」みたいな本を10冊ほど読んで、「まぁ、どうにかなるでしょ」って、頭で考えるより無理やり体を動かして、ギリギリ頑張っている感じですね。1年経った今も校正記号は曖昧だし、Wordは使えるけどExcelはまだ分かりません。って、素人丸出しですみませんね......。

ふたりが運営に関わっている「そぞろ書房」の非売品棚には、ふたりの趣味が感じられる本と事業のための本が並んでいる ふたりが運営に関わっている「そぞろ書房」の非売品棚には、ふたりの趣味が感じられる本と事業のための本が並んでいる
――いやいや(笑)。ちなみに「点滅社」という社名は、筋肉少女帯の楽曲が由来なんだとか?

屋良 そうです。僕もユウヤさんも、オーケン(大槻ケンヂ)さんが大好きで。『キラキラと輝くもの』ってアルバムに収録されている「サーチライト」という曲に、オーケンさんの語りがあるんですね。「俺が照らすから お前が行け」って。僕もそういう出版社をやりたいと思ったんです。自分は今にも死にそうだけど、本を通してみんなの未来を静かに照らすから、あとは頑張ってね......、みたいな。あとは、どうしても「滅」って漢字を入れたかったんです。

小室 ふたりとも、アメリカンニューシネマの破滅的なところへの憧れがあるもんね。

屋良 でも、本当に破滅したら終わりなので、なるべく続けて行きたいですけどね。1年目は大赤字だったので......。

■早々に会社を潰しかけました

――最初の刊行物は、1998年結成のロックバンド・ニーネのアルバム未収録作品含む131編の歌詞をまとめた『ニーネ詩集 自分のことができたら』(2022年11月14日発売)でした。先ほど、この詩集を出すために点滅社を立ち上げたようなものだったと仰っていましたが。

タイトル『自分の事ができたら』もニーネの歌詞から拝借している タイトル『自分の事ができたら』もニーネの歌詞から拝借している
屋良 はい。1冊目は絶対にニーネの詩集を出すと決めていました。開業届けを提出する前に、全楽曲の歌詞をWordに写して簡単なレイアウトと企画書を作り、すぐ動き出せるようにしていたほどです。無事に開業した後、ボーカルの大塚(久生)さんに企画書を添付したメールをお送りしたところ、「是非」と連絡が返ってきて。

お優しいですよね。まだひとつも刊行物のない、社名に「滅ぶ」という字が入った素人出版社からの依頼だったにもかかわらず、封印されていた未発表曲まで引っ張り出してくださり、発売にあわせてサブスクまで解禁してくださったんですから。ニーネというバンドをもっといろんな人に知ってもらいたい。その一心で作った本なので、まだまだ多くの読者さんに届いてほしいと思います。

――初めての本作り。大変だったことは?

屋良 本を作るスケジュール感も何も分かっていなかったので、制作過程はとにかくメチャクチャでした。デザイナーの平野(拓也)さんの助けがなかったら、今頃どうなっていたか......。入稿が終わった日がいちばん達成感がありましたね。「俺にもできたぜー」って。

大変というか、目に見える失敗としては、「あとがき」以降のページが2段組になっていて、字が小さく読みづらい構成になっちゃったんですよね。何でかというと、全て1段組で構成すると本の高さが3.6cmくらいになるんですけど、3cm以内に抑えないと書店への配送料が爆上がりしてしまうことに、入稿の直前に気が付きまして......。

内容を変更するわけにもいかず無理やり詰め込んだ結果です。立ち上げから5ヶ月も経っていないのに、危うく配送料だけで早々に会社を潰してしまうところでしたよ......。

――読ませていただいたとき、いきなり級数(文字のサイズ)が下がってビックリしました(笑)。そんなハプニングがあったんですね。

屋良 そもそも、装丁に力を入れすぎたわりに定価を税込2200円と低めに設定してしまったので、全部売り切らないととんでもない大赤字です(笑)。どうせ死ぬんだし、制作費にお金を惜しみたくなかったんですよね。それにしてもって感じですけど......。

もう少し原価計算ができていれば売り上げに繋げられたかもしれませんが、後悔はしていません。あまりに定価が高すぎると、既存のニーネファンのためのコレクターズアイテムになってしまいかねない。ニーネという世間的にはマイナーなバンドを一人でも多くの人に知ってもらいたくてこの本を作ったので、ファンが手に取るだけではだめだったんです。

――最初に書店でこの本をお見かけしたとき、ロックバンドの歌詞集だとは思わなかったです。むしろ表紙だけでは何の本か分からず、その未知さが逆に存在感を放っていたからこそ、思わず手に取ってしまったというか。

屋良 ありがとうございます。知る機会がなかっただけで、ニーネの歌や言葉を必要としている人はもっといるはず。そういう人に届けたくて、あえて情報を載せない表紙にしたので、そう言ってもらえてうれしいです。

スピードワゴンの小沢(一敬)さん、大橋裕之さん、今泉力哉さん、しまおまほさんというスゴい人たちから推薦文をいただいたのですが、すべて裏帯に載せているんですよね。当たり前ですけど、いろんな方から「表に載せたほうが良いよ」と言われました。でも、僕が立ち上げた出版社から出すんだし、なるべくこだわりは貫きたいなぁって......。書店営業に行っても、なかなか理解してもらえず大変でしたけどね。

■続けられるなら一生本を作っていたい

――5月21日には『漫画選集ザジ VOL.1』が発売。これまた前衛的な表紙で、発売前からSNSで話題になっていましたよね。

表紙イラストとロゴデザインは大橋裕之さん 表紙イラストとロゴデザインは大橋裕之さん
屋良 出版社を立ち上げたからには、『(月刊漫画)ガロ』(青林堂)っぽい漫画選集を作りたかったんです。昨年の大晦日に思い立って、勢いで企画書を仕上げ、大橋裕之さんや杉作J太郎さん、いましろたかしさん、ウィスット・ポンニミットさんなど、好きな作家さんに片っ端からメールを送らせていただきました。他にもお願いさせてもらった作家さんはいましたが、だいたい断られましたね。まぁ、そりゃそうだよなって感じですけど......。

表紙は、ニーネのときと似たようなこだわりで、作家陣の名前はすべて裏表紙に書いてあります。分かりやすい帯が嫌いとか、そういうんじゃないんですけど、シンプルなほうがカッコいい気がして......。ただ、売るためのこだわりも考えたほうが良いのは事実です。点滅社が潰れては、元も子もないですからね。

――名だたる作家さんに並び、無名の作家さんによる作品も掲載されています(プロアマ含め合計23名の作家が参加)。

屋良 はい。アマチュアの方にも声をかけさせてもらいました。実は、ユウヤさんにも漫画を描いてもらったんですよね。

小室 "ゴム製のユウヤ"というペンネームで「底抜けクラゲ食い」という作品を描かせてもらいました。以前から、落書き程度のイラストはよく描いていたんですけど、ちゃんと漫画として完成させたのは初めてでしたね。

屋良 こんなふうに、プロとアマチュアがごちゃごちゃになっている一冊にしたかったんです。最初にお話しした内容と被りますが、漫画誌に作品が掲載されるまでのハードルって、結構高いじゃないですか。狭き門なのも分かるんですけど、もう少しハードルの低い漫画誌があっても良いんじゃないかなーって思ったんですよね。

根本的に、素人とかアマチュアとか、そういう部分へのこだわりが強いんです。漫画だけに限らず、カルチャーの世界では、優秀な人もいれば、僕みたいなよく分からない人間もいたほうが、絶対に面白いじゃないですか。

あ、ちなみに『ザジ』というタイトルも、「サーチライト」と同じアルバムに収録されている筋少の「ザジ、あんまり殺しちゃダメだよ」って曲からとりました。全部、筋少のパクリ......いや、拝借なんですよね。


――ニーネの詩集にしろ、『ザジ』にしろ、既存の出版社では難しそうな企画を見事にカタチにされていますよね。一貫して「素人でもやればできる」という権威への反発を感じます。パンクだなぁ?。1周年を迎え3冊もの刊行物が揃った今、立ち上げ当初の気持ちから何か変化はありますか?

屋良 ますます何が何だか分からなくなってきましたね(笑)。点滅社が潰れないためにはどうしたら良いのか......。ニーネの詩集を作っているときは、何の迷いもなく、スピード感を持って進められたんですけど、やけくそだけではどうにもならない現実問題がありますよね。そもそも僕は、成功者でも何でもないですし、調子の落差が激しくて、頑張れる日もあれば、おうちで寝ているだけの日もあるので......。

でも、仕事は楽しいです。続けられるなら一生本を作っていたいくらい。本を作るたびに、出版界に立ちはだかる大きな壁をハンマーで叩いている感覚があるんですよ。その感覚が気持ち良くて、もっとほしくて、2冊、3冊と続けられたところはありますね。そこには「苦しい」も伴いますが、その大きな壁をぶっ壊せる日まで、ハンマーを振り下ろし続けたいと思います。


●点滅社(てんめつしゃ) 
「日々を静かにおもしろく照らす本を」をスローガンとするふたり出版社。2023年7月時点で、本記事で紹介した『ニーネ詩集 自分の事ができたら』、『漫画選集ザジVol.1』のほか、展翅零(てんしれい)第一歌集『incomplete album』の計3冊を刊行している。
公式Twitter& Instagram【@tenmetsusya
公式note【https://note.com/tenmetsusya/

■『ニーネ詩集 自分のことができたら』 ¥2,200(税込) 
今年結成25周年を迎えたニーネの活動を時期ごとに細かく分類し、アルバムに収録されている全楽曲に加え未発表曲の歌詞をも掲載。ニーネファンの方はもちろん、ニーネをまだ知らない方にも、入門としておすすめの一冊です。サブスクも解禁済みなので、試しに是非!

■『漫画選集ザジ VOL.1』 ¥1,320(税込) 
『月刊漫画ガロ』(青林堂)や『アックス』(青林工藝舎)のような、自分の描きたい漫画を自由に描いて気軽に発表できる場所を目指し創刊。参加作家は以下。
大橋裕之、亜蘭トーチカ、杉作J太郎、日野健太郎、うみにく、森井暁正、松本剛、ヤシ、森井崇正、ゴム製のユウヤ、ウィスット・ポンニミット、Orion、terayama、三本美治、沖永和架奈、yozorart、ゐ忌レ、能町みね子、輝輔、すいそう、HOSHI368、いましろたかし(敬称略)


■そぞろ書房 
ZINE、雑貨、新刊、古本の販売、展示、イベント、一箱本屋など、色々やる書店。点滅社と(点滅社の書籍の校正などを担当した)小窓社で共同運営中。
住所:〒166-0003東京都杉並区高円寺南3丁目49-12 セブンハウス202号室
営業時間:水・金・土・日の14時~20時
公式Twitter&Instagram【@sozoroshobou
公式note【https://note.com/sozoroshobou/