初めまして。記憶の扉のドアボーイ・山下メロです。この連載では平成時代に忘れられ、記憶の底に埋没しがちなレトロ遺産を、皆さんと一緒に掘り返していきます。
初回のテーマはMD(ミニディスク)でも『たまごっち』でもなく、いきなりのポケットティッシュ。昭和の頃はキャラクターがプリントされ、香りまでついたポケットティッシュをファンシーショップで買っていましたが、平成になると無料でもらう機会が増えました。それが広告付きポケットティッシュです。
これらは1990年代後半には重要な広告メディアになりました。ティッシュなので紙媒体といえるかもしれません。そして、日割りで給料のもらえるティッシュ配りは、平成中期の定番アルバイトにまでなっていました。
そんな広告ティッシュで特に多かったのが、消費者金融のものです。バブル崩壊後の不景気の中、自動契約機が登場し、テレビCMも盛んに放送され、その象徴的な存在だったのが武富士。
例の音楽でレオタード姿の女性が踊るCMが有名でしたが、広告ティッシュでは謙虚に菜の花畑オンリー。広告部分を裏側だけにし、表面全部が菜の花畑。
一時期は、その裏側スペースの半分以上使って弘前支店の強盗放火殺人事件の容疑者の似顔絵を掲載し捜査に協力していた時期もあります。
競合他社がデザインを頻繁に変える中、武富士は一貫してずっと菜の花畑デザインで配布し続けました。そのため、今でも誰もが思い出せる広告ティッシュとなったのです。
そして、なぜティッシュが貴重かというと、そもそも日常的に消費されるものなので現存率が低い。そして無料配布だったことからリサイクルショップやオークションサイトでは値づけ対象になりません。なので、これらを保護するのはかなり困難なのです。
その一方で、無料配布されたものにこそ刻まれる歴史や、その時代の空気感があります。さあ、皆さんも自分の部屋や帰省した実家で、平成遺産を探してみましょう。もしかしたら容疑者の似顔絵入りなど、レアなティッシュが見つかるかもしれません。
●山下メロ
1981年生まれ、広島県出身、埼玉県加須市育ち。平成が終わる前に「平成レトロ」を提唱し、『マツコの知らない世界』ほかメディア出演多数。著書に『平成レトロの世界』『ファンシー絵みやげ大百科』がある