「世界の屋台メシシリーズ」第3弾! 今回ご紹介するのは、治安面でハードルが高かった中米縦断の旅での屋台メシですが、私たち日本人に中米の食文化はあまりなじみがない......?
「そこに屋台メシはあるんか?」
■グアテマラの推しはスペイン語留学と揚げタコス
メキシコの南に位置するグアテマラ。中米でも治安やインフレはマシな方で、高地が多くて温暖な「常春の国」と呼ばれる国。
スペイン語留学の料金が安く長期滞在に向いていることから「格安スペイン語留学の聖地」とも言われ、英語留学で言うところのフィリピンのような感じ。比較的日本人の旅人も多いです。
私が訪れたのはフローレスという港町。ティカル遺跡の拠点で、街中の建物は積み木のようにカラフルで可愛く湖に囲まれのんびり。中米であることを忘れてしまうかのような雰囲気でした。
湖の周りは地元民の憩いの場となっていて、子供達は水遊びをし、その横ではお母さんらしき人たちが屋台メシを販売していました。そこで私がオススメされたのはタコス。しかしそれは見たこともないタコスでした。
タコスといえば、本場メキシコでは基本トウモロコシが原料の丸いトルティーヤに肉や刻んだ野菜が乗った定番のアレ。あとはアメリカ生まれの皮がハードシェルタイプのものでしょう。
しかしグアテマラでは、ロール状の揚げたトルティーヤの中にジャガイモや肉の詰め物がしてあるという、なんだか春巻きのようなスタイルのタコスも一般的です。
トッピングは蒸しキャベツ、トマトソース、チリソース、ワカモレ(アボカドのソース)や粉チーズ。英語で「Guatemalan tacos」と検索すると、レシピもたくさんヒットしました。
ソースがたっぷりかかったそれは、具の内容からかタコスというよりロールキャベツやコロッケのようなグアテマラの家庭料理の味わいでした。メキシコでも「フラウタ(笛)」という呼び名で、同様の料理が親しまれているようです。
■知られざるエルサルバドルの国民食の偉大さ
グアテマラから南下して行くと次にたどり着くのはエルサルバドル。四国よりやや大きい面積で中米最小の国家ですが、人口密度は米州最高。かつて激しい内戦が繰り広げられ多くの人が犠牲になってきた国だけど、国名の意味は「救世主」。
治安はけして良いとは言えず、犯罪集団マラスがはびこるエリアです。ビビりまくりだった私は中米旅では観光らしいことは何もせず(できず)、ただその土地を自分の足で踏みしめ、風を感じるだけでした。
南米を縦断するTICAバスのターミナルには、危険が故か宿が併設されており、私も当然そこに宿泊。勇気を出してそこからほんの1km圏内を散歩した日、SUSHI屋とWendy'sがあることを確認できたくらいで目新しいものは見当たりませんでした。
しかし、そこに一台のキッチンカーが!
これは運が良かった。何もできなかったはずの街中で地元民と並んでご飯できるなんて。旅人にとってこれは収穫です。オススメをお願いすると、出てきたのはエルサルバドルの郷土料理「ププサ」でした。まさか国民のソウルフードにありつけるとは。
ププサはトウモロコシ粉で作った生地の中に具を包み、平たい円形にして鉄板で焼いた惣菜パンのようなもの。一言でいうならば「おやき」かな。
具はフリホーレス(赤インゲン豆)を茹でて潰したペーストや、チチャロン(豚の皮を揚げたもの)、炒めた玉ねぎ、チーズなどで、添え物として「クルティード」と呼ばれる、キャベツやニンジン、タマネギなどを発酵させたピリ辛のキムチのような漬物が定番。トマトソースをかけて手で食べるのが伝統的な食べ方です。
エルサルバドル人の約7割が朝食や夕食にププサを食べるそうで、政府が2005年にププサを「エルサルバドルの国民食」と宣言。11月の「全国ププサ記念日」には、各地で祭が開催され、ププサを含む料理や音楽、ダンスで盛り上がるとか。
国をあげて讃えられる屋台メシって他にはないかも!? 見た目こそ地味ですが、ただの惣菜パンと侮ることなかれ。
■ニカラグアの伝統料理は危険と隣合わせのワンプレート
エルサエルバドルからさらに南下し、殺人発生率世界トップクラスのホンジュラス(ここでは宿の目の前の屋台でフライドチキンのみ購入)をダッシュで抜けてたどり着いたのは、私が中米で2番目に恐れていたニカラグア。
こちらは旅人が巻き込まれるような軽犯罪の体験談が多く、私たちにとってはより身近。特に首都マナグアの治安は最悪で、簡単に言うと突然ボコられて物を盗られても不思議ではないという感じ。
「TICAバスのターミナル付近は危険地帯なので絶対に近づかないように! 特に夜は危険なので出歩かないように!」
中米全域で当然のことですが、私が到着したのはなんと夜! ホンジュラス同様に一歩外へ出るのも躊躇しますが、バス停併設宿の前に唯一あったほったて小屋メシ(失礼)へ。今思えば、それだけでも事件に遭遇する危険性は十分にあったと思うと背筋が凍ります。
ニカラグアの主食はトルティーヤや米、 豆、プラタノ(ポテトのような味の甘くないバナナ)など。食文化としては、大抵の場合、主食、肉、副菜がワンプレートで出てきます。主に昼食がメインでよく食べるのは安価な鶏肉。
てことで私も鶏肉のワンプレートを注文。これがニカラグアの伝統料理で、皿の上にはコスタリカなどでもポピュラーな水と油で炊いたカジョ・ピント(赤飯のような豆ごはん)、揚げたプラタノのチップス、焼いた鶏肉に千切り野菜が盛られています。
中米縦断の旅でも、特に危険国と言われるところではだいぶ行動に制限があったけれど、それぞれの国で郷土料理に触れるチャンスがあったことは唯一、貴重な思い出となっています。
先進国の旅も好きだけど、やっぱり未知のものに触れたい旅人として「そこに屋台メシはあるんか?」は大事なキーワードだとつくづく思うのでした。
★次回更新予定は、8月24日(金)です。
●旅人マリーシャ(旅人まりーしゃ)
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。2014年より『旅人マリーシャの世界一周紀行』を連載。
Twitter【marysha9898】
Instagram【marysha9898】
YouTube『旅人まりーしゃの世界飯 Traveler Marysha』