多くの人が悩んでいるのに、なかなか病院に行く踏ん切りがつかない"痔"。今はどんな治療が行なわれているの!? その最新事情を痔治療のスペシャリストに聞いた!
■もはや国民病。痔の最新事情
成人の3人に1人が悩んでいるという痔。しかし、「治療が痛そう」「恥ずかしい」などの理由から、病院の受診を決断するまでに平均で7年もかかっているそうだ。さらに、コロナの影響もあって、患者も増えているらしい。いったいなぜ? そして、病院に行ったらどんな治療が受けられる? はたまた放置しちゃったらどうなる? そんなさまざまな疑問に答えるべく、痔の最新治療事情についてエキスパート医師たちの話を聞いた。
――そもそも痔とはどういう病気なんでしょう?
答えてくれたのは、平田肛門科医院院長の平田雅彦先生。
「痔は、肛門の病気全般を指す病名です。その中で代表的なのがいわゆる『いぼ痔』『切れ痔』『痔ろう』です。
『いぼ痔』は、痔の中で最も多く見られる症状で、肛門の周囲にできる動静脈瘤(どうじょうみゃくりゅう)の一種。放っておくと大きくなって出血などが起こるようになり、さらに症状が進行すると排便時に肛門から脱出するようになります。
『切れ痔』は、便が通過する肛門管にある歯状線より外側の肛門上皮が切れて裂け、激しく痛んだり出血したりするもの。
『痔ろう』は、肛門腺が化膿してうみがたまり、そのうみが圧力の少ない部分を浸食していきながら、うみのトンネルのようなものを形成してしまう状態を指します。激しい痛みや、時に発熱を伴うこともあります」
「『いぼ痔』の場合は、腫れて痛い、血が止まらない、脱肛したままになり歩けないなどがあります。『切れ痔』は、排便時に強い痛みを感じる。一番怖いのは『痔ろう』で、放っておくと、がん化するリスクもあります。痔ろうと診断されたら、手術を第一に検討します」
――そもそも痔の原因ってなんなんでしょう?
「下痢や便秘、免疫力の低下などによる肛門へのダメージが直接的な原因ですが、それらは食生活の偏りや大量の飲酒、運動不足などによって引き起こされます。また、座りっぱなしだと肛門に強い圧がかかり、それも大きな要因となります。近年のコロナ禍の影響での巣ごもりや長時間同じ姿勢でいなければならないリモート会議などで、痔の患者さんが増えているのも事実です」
――なんとなく、自分は痔かもと思ったらどうすればいいでしょう?
「出血や痛みなどの症状に気づいてから早めに来院すれば、生活習慣を見直すだけで手術は不要という場合がほとんどです。
逆に、痔が治っても生活習慣を変えなければ必ず再発します。規則正しい生活を送り、無理なく健康的に便を出すことが一番。きちんと睡眠をとる。食生活を見直す。座りっぱなしをやめて適度に運動をする。正しい排便の仕方を身につけるなどが大事ですね」
――下痢や便秘などが痔の鍵になることはわかりました。では、自然に排便するための具体的な方法ってどんなものでしょう?
「まず、食事。食物繊維が多く含まれているものを積極的に食べてください。豆類、納豆、昆布、わかめ、ところてん、寒天、こんにゃくいもなどが代表的です。今の季節だと、豆や寒天の入っているあんみつが最高です。
生活面では、しっかり朝食を食べ、冷たい牛乳を飲むなどして朝から腸を動かす。リラックスした状態でおなかをさするなどして自律神経を整える。そうすると自然に排便できるようになると思います。
注意してほしいのが、排便時にいきまないこと。便座に座った時点で肛門にはかなりの圧がかかっているので、本来ならばそのままストンと便を落とせるはずなのですが、3分間座って便が出なければいったん諦め、次の便意が来るのを待ちましょう。
なお、直腸は真っすぐではなく"くの字"になっているので、ロダン作の彫刻"考える人"のように前傾姿勢をとると便が出やすくなります」
「下剤は腸の神経の正常なルートを通さず、薬の力によって便を排出します。腸の働きを弱め、下剤がないと排便できない体にしてしまうため、オススメできません」
■痔の手術は痛くない!? 最新治療の話
――生活習慣改善ではどうにもならない、手術が必要なレベルの痔になったらどういう流れになるのでしょう?
「手術の際に肛門括約筋を傷つけてしまうと、高齢者になったときに便が漏れ出てしまう恐れがあります。医師によってさまざまな考え方がありますが、僕としてはなるべく肛門括約筋を傷つけない手術法がいいと思います。
『いぼ痔』は、肛門の粘膜を切って剥がし、中の内痔核(いぼ)だけを取り除く『括約筋保護根治手術』という比較的新しい手術方法があります。これなら肛門括約筋を傷つけず、粘膜は再建できるので後遺症が残りません。
ほかの『いぼ痔』治療には『ICG併用半導体レーザー照射法』などがあります。これはICG(インドシアニングリーン)色素を内痔核に注入して、レーザー光線を当てるという方法です。
レーザー光線はICGにのみ反応し、ICGを入れた内痔核だけが退縮していきます。なので、入れてない部分には一切ダメージを与えないのが特徴。ただし、こちらは内痔核を完全に取り切れるわけではありませんので、患者さんとの相談になります」
「切れ痔による手術はまれですが、何度も切れ痔を繰り返すと、肛門が狭くなる『肛門狭窄』になってしまうことがあり、その場合は肛門を広げる手術が必要になります。
潰瘍化した傷口をメスで切除し、その部分に正常な肛門皮膚をスライドさせて裂肛の傷痕を覆う『皮膚弁移行術』という方法があります。傷痕をすぐに覆うことができ、肛門括約筋にも触れないので安心です」
――では、手術必須といわれる痔ろうは?
「従来の手術方法では、肛門に望ましくない結果を生んでしまうことも多々ありましたが、最近では肛門括約筋を傷つけずに痔ろうを取る『肛門括約筋温存手術』という方法が考案されました。
簡単に言うと、痔ろうの管の入り口と出口だけを取り除き、肛門括約筋の中を通っているろう管は残す手術方法です。ろう管の一部は肛門内に残ってしまうものの、原発口と原発巣がなくなれば、残ったろう管は自然に枯れて消えるのです。この方法ならば、皮膚と肛門括約筋を傷つけません」
――ちなみに、手術時間や入院時間はどれくらいかかるのでしょう?
「手術時間はいずれも30分から1時間ほどで終了します。入院期間はだいたい1週間~10日ほどです。手術後の痛みはほぼなく、その日からすぐに歩けるようになります。翌日から普通の食事を取れますし、ぐったりするようなことはないので、入院中に仕事やリモートで会議をしている人も多いですよ」
――ほかにメスを入れない治療方法はない?
答えてくれたのは、オクノクリニック院長・奥野祐次先生。
「うちのクリニックでは『痔のカテーテル治療』を行なっています。肛門にメスを入れず、注射もしない。肛門にノータッチで治療ができるのが特徴です。
方法としては、手首や鼠径(そけい)部など肛門から離れた、動脈が通う場所にカテーテルを挿入し、痔の近くまで細いチューブを進めていく。
そして、チューブの先端から血液の流れを遅くするデバイスを用いて、内痔核への異常な血液の流れを部分的に遮断するという方法です。カテーテルを進めている最中に痛みは生じず、手術中に肛門を出さなくてもいいので恥ずかしい思いをすることも少ないといえます」
「話をしっかり聞いてくれて、親身になって考えてくれる医師を探すのが一番です。当院では、生活習慣についてじっくり聞いて、どのように見直していくかプランニングするために、新規の患者さんの話は30分間聞くようにしています。
結局のところ痔は生活習慣病なので、地味だけど生活を見直していくのが大事。『この治療をすれば一発で治る』というのはないので、いろんな選択肢を相談できる医師を頼りましょう」
とにかく迷ったらまずは相談すべき、というのが両先生の結論。自分に合った治療法を先生と探すべく、気楽に悩みを聞いてもらいに行ってみよう!