ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

出だしから宣伝のような雰囲気で始まってしまって面目ないけれど、8月23日に僕の新しいエッセイ集『酒・つまみ日和』が光文社さんから発売される。......って、今自分、言葉をにごしたな。恥ずかしい。「雰囲気」ではなくて、完全なる「宣伝」ですね。これは。

いや、伝えたかったのは特に、その本の表紙に関して。主な内容は、「つつまし酒」というWEB連載をまとめたもので、ありがたいことにこれで3冊目になる。1、2冊目は、それぞれ敬愛する漫画家のラズウェル細木先生、谷口菜津子先生の描き下ろしイラストを表紙に使わせていただいた。

が、今回、本のデザインに関する打ち合わせをするため、担当の編集さんとデザイナーさんが、僕の小さな仕事場にわざわさ来てくれた時のこと。なんとなく、幸せな家飲みの雰囲気が伝わる写真を撮り下ろすというのもおもしろいかもしれませんね。という話になり、さらにデザイナーさんが、この仕事場の秘密基地っぽさがすごくいいので、ここで撮っちゃうのがいいんじゃないですか! とご提案してくれた。ちょっと恥ずかしいけれど、それはもちろん嬉しいことだ。 

というわけで、今作の表紙には、僕のリアルな家飲みシーンの写真がどーんと使われている。ご興味があれば、書名で検索してもらえると画像が出てくると思うので、ぜひ。そこに写っているのは、大好きだった地元・石神井公園の町中華「龍正軒」「ラーメンハウスたなか」から、閉店の際にそれぞれ譲り受けた、テーブルとチャーハン皿に、餃子皿。で、肝心のそれぞれの皿にのせた料理たちが、これまた大好きな、埼玉県に本社をかまえる中華チェーン「ぎょうざの満洲」からテイクアウトしてきた、チャーハンと餃子。つまりそこには、僕の大好きしか詰まっていないというわけだ。これからの人生、いつでもこの本の表紙を見返せば、「あぁ、この日は幸せだったな......」と思い出せる。なんとありがたいことだろう。

と、話があちこちにそれたけど、最終的にみなさんに、なにを伝えたかったかというと、僕が極度の「満洲っ子」であるということだ。

「ぎょうざの満洲」がとにかく好き  「ぎょうざの満洲」がとにかく好き

ところで、満洲はたいてい月替わりで、限定メニューを出したり、なんらかのフェアをしている。店の前を通るときは、そののぼりを必ず確認する。そして現在進行中のフェアが「なすのみそ炒め」の特別価格での提供。

なんと20円もお得! なんと20円もお得!
はっきり言って今、僕のなかで「なす」が熱い。日々、無生~に食べたくて食べたくてしょうがない。「あぁ、旬だもんね」と言われればそれまでだけど、僕のなかでそう単純な話でもなく、昨年の夏までよりも確実に、なぜか数十倍というレベルで、なす欲が爆発している。なんなんだろうこの感覚は。自分のなかでなんらかの確変が起きたんだろうか。とにもかくにも、なすが食べたい。そしてそして、今まさに目の前で、大好きな満洲がなすを推している。抵抗する術などあるだろうか?

10分後  当然、入店した。 10分後 当然、入店した。
メニューを確認すると、フェアメニューには「なすのみそ炒め」の他にもう1品、「なすの生姜醤油炒め」もあるようだ。さっぱりしいてうまそうだ。けれども、心はもうなすみそに決まってしまっている。なすみそは、単品が通常570円のところ、550円。その下に「なすのみそ炒めセット」というのもあって、なんと餃子、ライス、スープ、漬けものがついて、通常1050円のところ1030円。正直、満洲に来たら餃子も食べたいに決まってるから、こいつは嬉しい。ちょっと量が多そうだけど、ライスを「小」にすることもできて、そうするとさらに30円もお得な1000円ぽっきり! 

なんて美しいセットなんだ。これしかない! というわけで届いたのが、「なすのみそ炒めセット(小ライス)」。当然「グラスビール」(390円)も頼まないわけはなく。

ビールを中央に据えて届いた、ちょっと斬新な配置がかっこいいお盆の上を、まずはじっくりと眺める。なんつったってまず、餃子が美しい。その芸術的な造形と焼き目のせいで、黄金色に輝いてすら見える。

光ってる? 光ってる?
そしてなすみそ。う~む、なんて食欲をそそるビジュアルなんだろうか。もはや「正義」という言葉しか思い浮かばない。

食べなくてもわかるうまさ 食べなくてもわかるうまさ ではいただきますよ ではいただきますよ

もったいぶって、まずは餃子からぱくり。うおっ、あぶな! 噛んだ瞬間に肉汁が飛び出してきやがった。まったくジューシーなんだから。あぁ、もちカリの皮に包まれた、毎日でも食べたい味わいの餡。まずは野菜のシャキシャキと甘味が広がって、それからゆっくりと肉の旨味、塩気がやってくる、この構成力。すかさずビールをごくり。そうそう、これこれ!

続いていよいよなすみそへ。遠慮せずに箸でつかめるだけつかんで、一気にほおばる。もぐもぐもぐ......うわぁ~。とろりとしたなすを噛み締めると、甘辛くてコク深いみその味が、口いっぱいにじゅんわりと広がる。ただ、決してしつこすぎないのは、なすがかなり肉厚で、全体が完全にとろりとする寸前、あとわずかだけ歯ごたえがあるところで、火入れを止めてあるからかもしれない。そこに旬のなすの爽やかさがきっちり残っている。埼玉県にあるという自社ファームの、青い空や蝉の声まで聞こえてくるような......。

えっとあの、自分で言っててなんですが、ぎょうざの満洲のことをここまで全身全霊で褒め称えてるやつって、あんま見たことないですよね。けど、本気の本気でうまいんだからしかたない。

とにかく慌ててライスをほおばると、幸福感という光の塊が丹田でスパークする。追いかけるキンキンのビールがそれを無限に増幅する。なすみそ、白メシ、ビール、餃子、白メシ、ビール、たまにスープ、たまに漬けもの、そしてビール。言うことないっす。

これは? これは?
ところで僕はごぞんじのとおり、食と酒に意地汚い男だ。居酒屋でも定食屋でも、頼んだものをあれこれ組み合わせてみたり、過度に味変をしたりしてはよく、記事を読んだ方から「下品!」だの「食べかたきたない!」だのとお叱りを受ける。けれども、やらずにはいられない。開き直るしかない。今日だってそうだ。3つ目の餃子を箸で持ち上げ、小皿のたれにつけようとして、ふと思いついてしまった。この餃子、なすみそのみそに絡めたらどうなっちゃうんだろ? って。きっとたれのほうが合うに決まってる。それはわかっているんだけれど。

店員さんや周囲の人々になるべく悟られないよう自然な動きで、つかみ上げた餃子を、なすみその皿へ。これでもかとみそだれを絡め、ひと口。するとこれが......悪くない! どころか、めっちゃいい! キリッとしたいつものたれとは方向性の違う、甘辛いみそと優しい餃子のハーモニー。たまに大量のオリジナル餃子を置いている餃子専門店なんかがあるが、そういう店で「当店人気第2位!」とか言われててもおかしくないレベル。いや?、見つけちゃったぞ。満洲の(勝手な)裏メニュー「甘みそ餃子」。

さて、ビールとライスがなくなったところで、オリジナルサワー「スーパーチューハイ」をおかわりし、ラストスパートだ。

「スーパーチューハイ」(390円) 「スーパーチューハイ」(390円)
ほんのりと甘酸っぱくてレモンの風味爽やかなスーパーチューハイ、餃子に合うのは知ってたけど、なすみそにはより合うな! となれば、甘みそ餃子との相性は言わずもがなだ。よし、残り3個の餃子のうち、2個は甘みそ餃子でいってやれ。なすみそのなすの量が本気でたっぷりで、この幸せがまだまだ続くのが嬉しすぎる。というか、現時点でもう思っている。明日も食べたい、このセット。

今年の僕のなす欲は、満洲が受け止めてくれそうで、ひと安心だ。

甘みそ餃子には、ラー油も合う! 甘みそ餃子には、ラー油も合う!

●パリッコ
1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
公式X(旧Twitter)【@paricco】

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