記憶の扉のドアボーイ・山下メロです。今回も平成レトロ時代に忘れられ、記憶の底に埋没しがちな遺産を、皆さんと一緒に掘り返していきます。
さて、近年人気となっているのが3DCGで現実とシンクロするVTuber。そしてリアルな人間の画像や動画を生成するAIも話題です。非実在のアイドルが人々の欲望を満たすようになるのか? バーチャルアイドルに注目が高まっています。
非実在のアイドルは、昭和の時代よりマンガやアニメに描かれ、あくまで創作された物語における登場人物でした。しかし平成が始まった1989年、現実とリンクする非実在アイドルの企画が誕生します。それが、伊集院光さんのラジオ番組から生まれた「芳賀ゆい」です。
彼女は録音で歌う人、ジャケ写のモデル、イベント出演など、その時々で別の人が「芳賀ゆい」という固有の存在を担当する革新的なプロジェクトで、マーケティング関連の賞まで受賞しました。
初代プレステなど3Dが得意な次世代ゲーム機の時代には〝人間が演じるのは声だけ〟という3DCGのアイドルが誕生。平成8年にデビューした伊達杏子 DK-96は、ホリプロが仕掛けてCDをリリース。翌年DK-97となり、雑誌の表紙を飾るなど現実のアイドルに近づきました。
続く平成10年、マンガ家のくつぎけんいちさんによって生み出された3DCGアイドルがテライユキ。テレビ番組が作られ、CMでは実在の俳優と共演、上で紹介したグッズ展開もされるなど、さらに現実のアイドル化していったのです。
しかし、実写とのリアルタイム合成などまだまだ技術面で違和感があり、一般的に受け入れられませんでした。
その後、音声合成から人気となったのが非実在の「初音ミク」です。あたかもステージにいるように見せる表示システム、スマホの普及、AR技術の進化で世界的なポップカルチャーに成長。
そして現在、世界中のクリエーターたちが生成AIによるアイドルを生み出そうとしています。その萌芽は、平成にあったと言えるのです。
●山下メロ
1981年生まれ、広島県出身、埼玉県加須市育ち。平成が終わる前に「平成レトロ」を提唱し、『マツコの知らない世界』ほかメディア出演多数。著書に『平成レトロの世界』『ファンシー絵みやげ大百科』がある