最近、「完全栄養食」をうたう食品がスーパー、コンビニにも並び始めている。1食をこれに置き換えるだけで1日に必要な栄養素が取れる便利なものなのだが、気になるのはそのお味。実食してウマいものを探した!
■日清食品が圧倒的に強い
体に必要な栄養素をすべてカバーする「完全栄養食」が人気を呼んでいる。
パンやクッキー、うどん、パスタと多彩な商品がしのぎを削り、中にはカツ丼や牛丼、お好み焼きなど、健康的なイメージが薄いガッツリ系の品目までずらりとそろう。日清食品の「完全メシ」シリーズやベースフードの商品はスーパーやコンビニにも並んでおり、今や身近なものとなりつつあるのだ。
完全栄養食の厳密な定義はないが、厚生労働省が定める食事摂取基準に基づいてタンパク質やビタミン、食物繊維など33種の栄養素が一度に取れる商品が多い。3食すべてを置き換えるわけにはいかないようだが、1食をまるまる代替できるため、忙しい現代人にはうってつけ。
実際、完全栄養食市場は昨年に倍増しており、今後も世界規模での拡大が見込まれている。
しかし、これらを味の面で敬遠する人も少なくないのではないか。どうせならちゃんと食事を楽しみながら栄養を補完したいのが本音だろう。
そこで今回は、33種の栄養素をすべてカバーしたもの、あるいはそれに準ずる健康に配慮した食品の中から36商品をえりすぐり、3人の識者による食べ比べを実施した!
「これまではカロリーメイトなどに代表されるような、バランス栄養食がこのジャンルの中心でした。それがこうしてラーメンやドリア、オムライスといった普通の献立に落とし込まれていることに、まず驚いています」
そう語るのは、フードジャーナリストのはんつ遠藤氏だ。
「メーカーや商品ごとに狙っている層が異なるように見えるのも、個性として面白いですね。黄エンドウ豆だけで作った『(12)ゼンブヌードル』などは私も自宅にストックしていますが、食物繊維やタンパク質が豊富で糖質オフという、いかにも本格志向の人に向けて作られている印象を受けます。
ただ、市場全体としてはまだまだ発展途上で、味の面ではイマイチな商品が散見されたのも事実です」
確かに今回の実食中、「これは厳しい」「うーん、おいしくない」と忌憚(きたん)のないコメントもしばしば漏れ聞こえた。料理芸人のクック井上。氏はこう語る。
「結局のところ、味を取るか栄養を取るかというトレードオフなのかもしれません。でも、日頃の食生活の中でいかに取り入れ、置き換えられるかは、個人の工夫次第だと思いますよ。
例えば(1)~(3)のベースクッキーなどは、甘いものが好きな方にとって最適なおやつになりそうです。パスタなどの麺類にしても、そのまま食べるのではなく、自分で調理にひと手間加えればおいしくなりそうなものもたくさんありましたからね」
味と栄養のバランスについては、管理栄養士の朝倉優(ゆう)氏が補足する。
「例えば不溶性食物繊維というのは、もともとザラつきがあって食感に影響を及ぼしやすい成分なんです。それをほかの食材との組み合わせでいかに緩和するかが各社の企業努力なのでしょうが、今回のラインナップでいえば日清食品さんが頭ひとつ抜けていた印象を受けます」
今回、3者がそろって絶賛することが多かったのは、日清食品の「完全メシ」シリーズだ。最高の評価を叩き出した「(35)ボロネーゼスパゲティ」と「(36)汁なし担々麺」は、いずれも同シリーズの冷凍食品。
「汁なし担々麺」については、「普通の料理となんら遜色ないウマさ」(クック氏)、「コスパが良すぎる」(はんつ氏)、「香りもいいし、辛みもしっかり。麺もモチモチで申し分なし」(朝倉氏)と、大絶賛だった。
だからこそ、こんな疑問も湧き上がる。
「『(24)お好み焼』にしても、街の専門店顔負けのクオリティでびっくりしました。思わず『ビールください!』と言いそうになりましたからね(笑)。ここまでくると、これで本当に栄養面もクリアしているのか、疑いたくなってしまうほどですよ」(クック氏)
確かに、いくらウマくても栄養が偏っているなら看板倒れ。しかし、日清食品のホームページには、全33項目の栄養素について充足率が公開されており、ほぼ完璧に満たしていることがわかる。
なお、このほかの完全メシシリーズは「(17)カレーメシ」「(18)キーマカレーメシ」「(19)欧風カレーライス」など、カレーの評価が高かった。
日清食品以外だと、健闘していたのはベースフードのクッキーシリーズ。特に「(2)は甘すぎず、ココアの風味が利いてて食べやすかった」(朝倉氏)と好評だった。
ミツカングループが開発するZENBは、豆独特の風味にややクセがあり、評価は比較的低め。だが、「(29)パプリカのポタージュ」は好評で、「トマトの酸味とパプリカの香ばしさが調和していて、飲みやすかった」(はんつ氏)とのことだった。
■完全栄養食市場は今後どうなる?
完全栄養食市場は今後どうなっていくのか。
「現状を見れば日清食品さんの存在感が際立っていますが、おそらく同業他社もこの市場に着目し、今まさに開発に明け暮れているはず。これからラインナップがさらに増えて、近所のコンビニで手軽に買えるようになればいいですよね。国民が健康になって、国の医療費負担も抑えられるでしょうし」(はんつ氏)
実際にイギリスでは、国を挙げて減塩対策に取り組んだ結果、心臓病患者が減少し、年間2600億円もの医療費削減に成功したとのデータもある。国民の栄養改善は重要な国策なのだ。さらに―。
「実は今、農薬の影響だったり農地が痩せてしまっていたりで、野菜や果物が持っている栄養価が数十年前と比べて低下していることが問題視されています。そんな時代だからこそ、こうした完全栄養食で栄養を補完するのは非常に有意義だと思います」(朝倉氏)
一方で、はんつ遠藤氏が「あとは価格だけもう少しどうにかしてもらえれば......」とぼやくように、普通食より少し割高なものが多いのはネックだが、これも流通量が増えることである程度解消されるかもしれない。安価に手に入る完全栄養食が増えれば、さらに人気は増すに違いない。
「料理芸人としては、あとは味の部分でさらなる企業努力に期待したいところです。例えば麺に含まれる不溶性食物繊維のザラザラ感が解消できないのであれば、無理に豚骨ラーメンなどにせず、その食感を生かせる別のメニューにすればいいんですよ。
われわれが3人がかりで監修すれば、おいしい完全栄養食ができると思うので、お困りのメーカーさんはぜひご相談ください!」(クック氏)
今回ご紹介した商品を参考に、ぜひ好みの一品を見つけてほしい。
*記事内の価格はすべて税込です。
●管理栄養士・編集者 朝倉 優
健康雑誌『健康365』の編集者。管理栄養士の資格を持つ
●フードジャーナリスト・はんつ遠藤
テレビの番組リポートや雑誌記事の執筆、飲食店プロデュースなどを行なうフードジャーナリスト。取材店数は6500店を超える
●料理芸人・クック 井上。
お笑いコンビ「ツインクル」のツッコミ担当。初の書籍『魔法の万能調味料 料理酒オイル』(ダイヤモンド社)が発売中