ストリートビュー空白地帯のドイツ、12年ぶりの更新! ストリートビュー空白地帯のドイツ、12年ぶりの更新!
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は12年ぶりに更新されたドイツの「グーグルストリートビュー」について語る。

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地図好きに朗報! なんと! 12年ぶりにドイツのグーグルストリートビューが更新されました! 大ニュースです。

グーグルストリートビューは、世界中のパノラマ写真が見られるサービス。これを使って憧れの観光地や思い出の地を疑似旅行したり、出かける前に予習したことがある人も多いでしょう。このコラムでもたびたび、ストリートビューパトロールで見つけた世界の珍建物や面白い地形を発表してきました。ただ、今までドイツやオーストリアをあまりパトロールできませんでした。なぜなら、ストリートビューで見られる地域が限られていたからです。

グーグルマップでヨーロッパを表示させても、ドイツのほとんどが違う色になっていました。どこかをクリックすると、モザイクだらけの画像や、「撮影:2008年」と書かれた古い写真しか出ません。ちょこちょこ見られる場所もありましたが、ドイツはおおむねストリートビュー空白地帯でした。

グーグルストリートビューが登場したのは2007年。日本では程なくして全国に広がりましたが、ヨーロッパの一部の国では大反発が起きました。大きな背景は、全体主義国家に対するトラウマ。ナチス時代のゲシュタポや東ドイツのシュタージといった秘密警察に市民が厳しく監視されたという過去があるため、ドイツ人は個人情報に対して非常に敏感だといわれています。SNSに本名や出身校などを載せる人も、欧米の中では少ないそうです。

めちゃくちゃオープンなドイツ人の友人も、国家や大企業などに対するプライバシー保護の意識が高かったのが印象的でした。こうした危機感によって、みんなの家の写真を勝手に撮ってネットにアップするストリートビューへの不信感はすさまじかったようです。ドイツでは10年のサービス開始前から、約25万世帯が自分の家にボカシを入れるように要請しました。

センセーショナルな報道や噂の影響もありました。「365日、24時間どこでも生配信される」とか「撮影車がWi-Fiを経由して個人情報を取得している」など、虚実入り交じった情報が出回り、抗議活動が止まらない状況に。警察への撮影車の通報も相次ぎ、オーストリアでは撮影車が攻撃される事件も起きました。11年に、グーグルは自主的にドイツのストリートビューの更新を止めました。そうして極端にアクセスできる地域が少ないまま、ぬるっと固まってました。

そして今年の7月25日。ベルリンやミュンヘン、ハンブルクなど、ドイツの20都市の道路や観光地が12年ぶりに更新! 22年から23年6月にかけて撮影された新しい写真が公開されました。今まで何度か復活する動きがありましたが、やっと更新に至りました。

調べると、ドイツの人々の考え方の変化や、初期のデマの訂正、データ保護監視機関との協力が勝因のようです。リクエストに応じてボカシを入れることも可能。世界最古のモノレールがあるブッパタールはまだ更新されてませんでしたが、ベルリンの壁のまだ残っている部分や、ライプチヒの不気味なベートーベン像は見られます! お暇な際はぜひ!

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。古城がたくさんあるライン川中流の渓谷も楽しみ。公式Instagram【@sayaichikawa.official】

『市川紗椰のライクの森』は毎週金曜日更新!