ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

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最近、ハマっているメシがある。

この連載のテーマは、「ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマる」その瞬間の喜びを記録するというもの。なので正確に言えばテーマとはちょっと違うんだけど、またある意味で、これこそが正真正銘の「ハマりメシ」とも言える。今、そいつに対する熱が高まりすぎているので、ここに記録させてもらいたい。

それはレトルトカレー。きっかけは、「パンケーキをいろんな味で食べてみる」という、ふだんからやっている酔狂な食の実験の一環だった。しょっぱい系パンケーキの王道はベーコンエッグと合わせたりしたものだけど、他にも合うのもはないか? そしてそれを酒のつまみにできないか? そのなかのひとつで、「パンケーキにカレーをかけてみる」というのを試したら、これがばっちりだったのだ。

かけたのは、スーパーで何気なく手に取り、初めて買ってみたレトルトカレー。ふだんなら当然ライスと合わせて食べるカレーだが、ほのかにあまくふわふわとしたパンケーキと合わさると、なんだか新鮮な美味しさだ。しかも、土台が変わるからか、いつもよりカレーの味が繊細に伝わってくる気がする。これはいいな、新発見だ! なんて喜んで食べすすめていたところで、あることに気づく。

あれ? そもそも、このカレー自体が、めちゃくちゃ美味しくないか? と。 前置きが長くなりすぎた。そのカレーこそ、S&B「濃厚好きのごちそう 120時間熟成デミグラスの牛ほぐし肉カレー 中辛」という商品。値段は約200円だった。そこでパンケーキと合わせてでなく、カレーだけをスプーンですくってよく味わってみる。あぁ、やはりものすごくうまい。そもそもカレーに関しては、もったり濃厚であればあるほど良い、という嗜好のある僕にとって、看板に偽りなし。個人的な好みにバチーン! とハマりすぎた一品なのだ。そこで翌日、また同じスーパーへ行って、5個買いだめしてきた。

S&B「濃厚好きのごちそう 120時間熟成デミグラスの牛ほぐし肉カレー 中辛」 S&B「濃厚好きのごちそう 120時間熟成デミグラスの牛ほぐし肉カレー 中辛」
あらためて、正攻法でごはんと合わせて食べてみる。

正しきカレー 正しきカレー

どろんどろんなソース どろんどろんなソース
するとこれが、うん、抜群に好き。レトルト食品でここまで攻めるかってくらいに味が濃くて、それでいて独特のレトルトっぽいクセがなく、口のなかに濃厚~なカレーと牛肉の旨味がいっぱいに広がる。僕が特に重視する、甘辛酸のバランスもベストだ。

商品説明には「丸5日間じっくりと熟成させたデミグラスソースに、ボルドー産ワインの上質な香りと酸味をアクセントに加えた濃厚な味わいの一品。ソース全体に広がる牛ほぐし肉の旨みと一緒にお召し上がりください」とある。そんなに手間ひまかけた商品をこんなお手頃価格で販売してしまっていいんだろうか。別にレトルトカレー博士というわけではないが、僕の知る限り、100~200円台くらいまでのレトルトカレーで、今まで出会ったなかでいちばん好みかもしれない。

ほぐし肉たっぷり  ほぐし肉たっぷり

また、一見目立った具材がごろごろと入っているわけではないものの、ソースのなかにはたっぷりの、スジ状になった牛肉が飽和している。どこを食べてもきっちり牛肉を感じられ、そのぜいたく感といったらない。

さらに僕は、こういうタイプのカレーには真っ赤な福神漬けを添えるのが大好きだ。後半は、カレーにたっぷりとまぶして味変するのが幸せなんだよなぁ。それをこのカレーで実践してみたところ、限界まで濃厚なソースの味わいに甘酸っぱい味の濃さとカリポリ感がが加わり、さらにビールとの交互浴を実践することで、幸福度は天井知らずに高まってゆく。

なんかもう、ごめんなさい...... なんかもう、ごめんなさい......

またこいつ、アレンジ食材としても万能という一面もあって、手頃な値段だからあれこれ試せるのも楽しい。

例えば耐熱皿に少なめごはんとこのカレー、さらにたっぷりのピザ用チーズをのせ、グリルで焼きあげれば、お手軽カレードリアの完成。チーズによって濃厚さとこってり感を増したカレーは、無限に酒が飲めるつまみと化す。

背徳感しかない見た目  背徳感しかない見た目 ワインが止まらない ワインが止まらない

また別の日。最近我が家では、週1くらいで昼食に「丸亀製麺」のテイクアウトを利用するのが定番になっている。僕はいつも「ぶっかけ」の冷たいのなんだけど、先日、思い立ってそれに温めた牛ほぐし肉カレーを絡めてカレーうどんにしてみた。するとこれがまた、えも言われぬうまさで......。

一体どこまで万能なんだ、牛ほぐし肉カレーよ。いや、あえてもう一度正式名称で呼ばせてもらおう。濃厚好きのごちそう 120時間熟成デミグラスの牛ほぐし肉カレー 中辛よ。

カレーうどんも最高  カレーうどんも最高
しばらくの間、この熱は冷めそうにない。

●パリッコ
1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
公式X(旧Twitter)【@paricco】

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