記憶の扉のドアボーイ・山下メロです。この連載では平成レトロ時代に忘れられ、記憶の底に埋没しがちな遺産を、皆さんと一緒に掘り返していきます。
さて、ネットでは「平成はレトロなの?」といった疑問も見受けられますが、平成初期にはインターネットも携帯電話も一般に使われていませんでした。平成と令和は同じようで、実は生活様式が異なり、すでに懐かしく感じられる部分(平成初期)も多い。それが平成レトロなのです。
日本のケータイこと、移動体通信の歴史を振り返ると、まず1953年から船舶用の港湾電話、57年に列車電話が始まりました。79年には民間向けの自動車電話が本格的に開始。そして85年におなじみのショルダーホンが登場します。
手に持てるようになったのは87年に登場したNTTのTZ-802型。こういった形の携帯電話は、海外でブリックフォン(レンガ電話)と呼ばれていました。
89年(平成元年)2月に、少しだけ小型化されたブリックフォン、TZ-803型が登場したのです。まだバッテリーも巨大でレンガのままでしたが、平成最初の携帯電話で、高額なこともあり、一部の人しか持てませんでした。
同年に携帯電話事業に参入したセルラーが10月に米モトローラ社の手のひらに収まる携帯電話MicroTACをHP-501として発売すると、NTTも急いで小型化を進めました。しかし、やっと発売したのは2年後の平成3年。いわゆるmovaシリーズの始まりである折り畳み型のTZ-804シリーズでした。
初期ガラケーとしてイメージされがちな、艶消しメタリック色が定番だった90年代後半のストレート型端末に比べると、まだまだ非常に大きくて重い携帯電話でした。95年からはPHSがサービスを開始。折り畳みパカパカ携帯電話は、さらに先で2000年頃から増えていきます。
ガラケーも平成の始まった時代はこんなにも重くて大きいものでした。この後に一般に普及し、携帯電話文化が一気に花開いたのです。その話は次の機会をお待ちください。
●山下メロ
1981年生まれ、広島県出身、埼玉県加須市育ち。平成が終わる前に「平成レトロ」を提唱し、『マツコの知らない世界』ほかメディア出演多数。著書に『平成レトロの世界』『ファンシー絵みやげ大百科』がある