ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

1日がかりの外仕事を終え、心身ともにへろへろになりつつ、自宅方面へと向かう路線バスに乗っていた。

しばらく食事をしてないから腹が減っているし、当然おつかれさまのビールも飲みたい。このまま地元の駅前まで行って、好きなあの店かあの店か、それともあっちの店へ寄って帰るか。などと考えながら車窓を眺めていたら、ふとあることを思い出した。そういえばしばらく前に、この少し先の、駅前というにはほど遠い街道沿いにぽつんと、新しい居酒屋が開店していたよな。

確か「やきとり 大吉」というチェーン店。日本全国あちこちにあって、なんなら子供のころから看板は見ていたけれど、記憶にある限り一度も行ったことがない。どんな店なんだろう? なんだか急に気になってきたぞ。よし、今夜はバスを途中下車して、あそこで飲んで帰ろう。

「やきとり 大吉」 「やきとり 大吉」

からりと戸を開け、まず驚いた。店員の3人が、事実は不明として、大将と女将さん、その娘さんにしか見えない、家族経営の雰囲気。客はみんな常連風で、ごきげんな笑顔で店員さんと冗談を言いあっていたりする。どう見たって、街に古くからある個人経営の酒場の雰囲気だ。ここ、オープンしてまだ1年も経ってなかったと思うんだけど......すごいな。

カウンター席に案内され、女将さん(便宜上そう呼ばせてもらいます)に、「ご注文が決まったらお呼びくださいね」と言われ、メニューを見る。ところがドリンクメニューが見当たらない、そこで聞いてみると、女将さん「あらやだ私ったら! さっきあっちに持っていっちゃったんだわ~。ごめんなさいね」なんて笑っている。あぁ、この店、もう好きだ。

「ミニ生(235ml)」(税込み352円) 「ミニ生(235ml)」(税込み352円)

さっそくビールを注文。「生ビール」の他に「ミニ生」があるのが嬉しい。ビールってやっぱり、最初のひと口がいちばんうまくて、2杯目以降はチューハイ系に移行したい派なもんで。僕のそんなこだわり、どうでもいいでしょうが。

で、ごくごくごくっ......ぷはぁ~、うまい! と飲んだビールが食道を落ちていく心地よさ、そして、口のなかの余韻が妙にうまい。思わず「え? うまっ!」と、二度見ならぬ"二度うまがり"をしてしまったほどだ。ふとグラスを見ると、そこに泡が描く「エンジェルリング」が出現しているじゃないか。これ、ビールの温度や、サーバー、グラスの状態が完璧なビールに起こる現象。この店、やっぱりなんだかすごい......。

エンジェルリング エンジェルリング

さて、料理はなににしよう。品数はそこまで多いわけではなく、もちろん焼鳥が中心。どれも食べてみたい。が、ごはんもののコーナーにて、今の気分にドンピシャなメニューを見つけてしまった。その名も「大吉丼」。いわゆる、焼鳥丼というやつだ。焼鳥やサイドメニューは控えめにしておいて、こいつを中心に組み立てることにしよう。

その前に軽く、焼鳥の「きも(レバー)」、焼き野菜の「たまねぎ」、それから不思議な薬味風の一品「百万馬力(刻みしょうが味噌にんにく)」を頼んでみる。

「百万馬力」(220円) 「百万馬力」(220円)

百万馬力、これはいいな。名前どおりなんだけど、刻んだしょうがとにんにくにしっかりとみその味が絡んで、ちびちび系つまみのお手本のようだ。大吉に来たらまず頼んでおけば、手持ち無沙汰になることはなさそう。

酒のおかわりに、あ、このあたりの店では珍しい「タコハイ」がある。大衆酒場で長年愛されてきたと聞く、すっきりとした、しかしただ無味なだけではない樽詰めチューハイ。それのプレーンにしよっと。あ、ここでは「スタコ」と呼ぶのね。じゃあちょっと恥ずかしいけど勇気を出して、「すいません、スタコください!」。

「スタコ」(418円) 「スタコ」(418円) 「たまねぎ」(132円)「きも(レバー)」(154円) 「たまねぎ」(132円)「きも(レバー)」(154円) サービスのキャベツ サービスのキャベツ
合わせて料理も届きだす。玉ねぎはしっかりと焦げ目はつけつつも、ほんのりしゃきしゃき感を残した仕上がり。そこに染みた40年受け継がれてきたというたれは、甘めでコク深く、ほのかに甘酸っぱいタコハイと相性抜群だ。食感がまるでペーストのようなレバーもいいな。

さらに、若い女性の店員さんが「串ものを頼まれたお客さまにサービスしています」と、キンキンに冷やして甘酸っぱいたれをかけたキャベツを持ってきてくれた。実は店の入り口に「当店にお通しはありません」とあって、その実直さもまたいいなと思ってたんだよな。それなのに!? だから?、この店のことはもう、好きなんだって。何回言わせるんですか。

さて、いよいよメインの時間。先ほど良きタイミングで頼んでおいた大吉丼と「鳥スープ」が到着した。

「大吉丼」(638円)「鳥スープ」(220円) 「大吉丼」(638円)「鳥スープ」(220円)

焼鳥丼って、なかなかスペシャルなごちそう感があるのに意外と食べられる店が多くない気がする。地元で気軽に食べられることを発見できただけでも嬉しい。そのうえで、この見た目! 早くほおばりたい 早くほおばりたい

炭火で焼かれたねぎまのたれが3本、どんぶりめしの上に並び、さらにそのごはんにたっぷりのたれが染みている。たれごはん最前線だ。

ぷりっと柔らかいもも肉を噛みしめ、大吉秘伝の甘辛だれがたっぷりと染みた熱々のごはんをはふり。もぐもぐ。......ん~、幸せ。ねぎや刻みのりのアクセントもいい。また、僕は焼き鳥には七味だけれど、丼となると不思議と山椒をかけたい派。うなぎのイメージからだろうか。そりゃあもちろん、あの大吉さんのこと、きちんと卓上に用意してくれている。半分くらいを食べたところで、山椒を全体にバサバサバサ。爽やかな香りとピリピリとしたしびれ感に、またタコハイがすすんでしまう。

そして鳥スープ。だしの素材には事欠かない焼鳥屋の鳥スープは、間違いなくうまいに違いない一品で、当然うまい。濃厚な鳥のだしを絶妙にすっきりと仕上げてあり、ごはんのおともにこの上ない。ふ~、落ち着くな~。

僕がそうやって幸せを噛み締めている間、店内は常に明るい会話が飛び交っていた。本当にいい店だ。絶対また来る。ふと、カウンターにあった「美味しさの理由」という小冊子を見て驚いた。

なんと大吉グループでは、鶏肉や野菜は各店の店主が自ら仕入れて、店内で串打ちをするらしい。さらに、40年受け継がれてきた大吉のたれは、さらに時間をかけて店主自身の「大吉の味」へと熟成するらしい。え? それってもう、もはや全部が違う店じゃん。大吉の数だけ大吉があるってことじゃん。やっぱりやっぱりすごい。そんなチェーン店、他にあったかな? なんだか無性に、全国の大吉をめぐる旅に出たくなってきたぞ。いや、もちろん僕の「ホーム大吉」は一生、今いる石神井台店なんだけど。

【『パリッコ連載 今週のハマりメシ』は毎週金曜日更新!】