新型コロナ5類移行で各地への移動や観光が復活し、今グルメ界で大注目されているのが、全国くまなく展開している超大手以外の「地方回転寿司チェーン」。
数ある飲食ジャンルの中でも、最も地域性が色濃く反映されるその魅力を知り尽くしたライター・村瀬秀信氏、飲食チェーン店研究家・BUBBLE-B(バブル・ビー)氏、回転寿司評論家・米川伸生(よねかわ・のぶお)氏の3人が、北から南まで熱~く語り尽くします!
■安くてうまい北海道。では、金沢は?
――そろそろ食欲の秋、国内旅行やインバウンドも復活、そして日本の海産物を応援しようという流れもあり、今まさに地方発の「ローカル回転寿司チェーン」が注目されているように思います。
また実際、元気なチェーンは独自性を保ったまま、大都市圏を含む他地域への進出も成功させています。まず最初に、業界の最新動向について教えてください。
米川伸生(以下、米) 少し前までは大手全国チェーンのいわゆる"100円寿司(ずし)"が全盛で、コロナ禍でも売り上げを伸ばしていたんですが、直近では意外と苦戦していますね。
村瀬秀信(以下、村) 今年1月の「スシローペロペロ事件」の影響ですか?
米 いや、あれは逆に応援しようという人が増えて、むしろ追い風になった。でも、一瞬でしたね。苦戦の最大の原因は値上げでしょう。
一方、地方チェーンは元気ですよ。ある地方チェーンの店舗は、以前は隣にあった全国チェーン店の客のクルマが自分の所の駐車場にまで押し寄せて苦々しい思いをしていたんだけど、今はそれが逆転している。
BUBBLE-B(以下、B) 大手が値上げしたことで、地方チェーンのいわゆる"グルメ回転寿司"で食事をするのと数百円しか変わらないとなったら、そっちに行こうと思う人は増えますよね。マグロやサーモンなど定番だけでなく、「その時季、その地域ならでは」がご当地回転寿司の魅力です。
村 中でも北海道と石川・金沢発のチェーンが、近年注目されている二巨頭ですね。北海道が「トリトン」「根室(ねむろ)花まる」「なごやか亭」「函太郎(かんたろう)」など、金沢では「金沢まいもん寿司」「もりもり寿し」「すし食いねぇ!」の御三家などが、他地域への展開も積極的です。
米 北海道は「安くてうまい」。金沢は「まあまあ高くて、むちゃくちゃうまい」。どちらが回転寿司として正しいかはわからない。ただ、北海道でもトリトンや根室花まるあたりは今や観光客が行く店になっていて、地元の人は「まつりや」とかだろうね。
B 100円台、200円台が中心で、メニュー表を見るとくらくらするぐらいネタ数が多い。それと姉妹店「祭囃子(まつりばやし)」(根室市)は日本最東端の回転寿司店ですね。
米 あと、函館(はこだて)の「まるかつ水産」は日本で唯一、活イカを常時ガチンコで食べられる店。
村 北海道の回転寿司は、本州で普通に生きていたら見ることのないネタが楽しいですね。
B では、あえてその流れに逆行して僕は「クリッパー」を推します。どこも北海道らしい地元ネタで全国チェーンと勝負している中、この店は低価格で、「だし巻き玉子」と、モンドセレクション金賞受賞の「匠(たくみ)の〆さば」で勝負。奇襲作戦ですよ。
村 一方、金沢のチェーンは高級路線が突き抜けていて、「金沢まいもん寿司」の関東進出1号店・たまプラーザ店(神奈川)は篝火(かがりび)を焚(た)いてます。
米 2002年の出店ですね。回転寿司のレベルを超えたのが来た! 時は来た!っていうくらいの衝撃だった。
B 金沢の回転寿司はビートたけしさんの「なんであんなにうめーんだろ。普通の寿司屋よりうまい」という発言もありましたね。でも、僕は同じ北陸でも富山と福井を推したい。富山「氷見(ひみ)きときと寿し」と福井「海鮮アトム」です。
村 希少品の氷見(富山)の寒ブリに、福井の名物焼きさば!
米 僕も毎月、富山に食べに行ってます。ぶっちゃけた話、北陸の海産物ブランドの最高峰って本当は氷見でしょう。なのに、回転寿司の世界では「北陸」という名前でひとくくりにされて、富山が金沢に搾取されている構図ですよ(笑)。
■海なし県で発明された新たな"ご当地寿司"
村 その流れでいえば、2021年にオープンした群馬・伊勢崎(いせさき)の「群馬いちもん金沢まいもん」。まいもん寿司のクオリティに加えて、群馬の食材を使った寿司を出していますね。
米 ご当地回転寿司も新時代になっていて、「その場所」というより「その店」にしかない魅力が増えていると僕は思っているんだけど、その意味ではここが日本一かもしれない。海がない群馬で、彼らは県民なら誰もが知っている食材や老舗企業と組んで寿司を創作したんですよ。
例えば、「たむらや」のみそ漬けをマダイとしゃりの間に挟んだ「たむらや握り」。アイデアもいいけど、出来栄えがめちゃくちゃいいんです。この取り組みは全国の回転寿司店に勇気を与えますよ。
B 海なし県の雄といえば、埼玉の「がってん寿司」もグルメ回転寿司のはしりですね。影響を受けた店が全国各地にたくさんあります。鹿児島の「めっけもん」は法被(はっぴ)も湯飲みも同じで、実際に研修にも行ったと聞きました。
米 「がってん承知!」のかけ声とか、無断でパクってる店もけっこうある(笑)。それほど影響力があるんです。
村 都内の某高級寿司店の大将も「がってん寿司はガチ」とおっしゃってました。
B 東京だと「活美登利(かつみどり)」は今も行列が絶えないですね。
村 レーン限定で殻付きのウニが回ってきたりして驚きます。
米 皆さんにオススメしたいのが、神奈川の橋本や相模大塚などに展開する「独楽寿司(こますし)」。500円(税抜)で90分飲み放題。月に一度の「プレミア焼酎デー」は、プラス100円で「魔王」などが飲み放題。
つまみも安くて個室もある。しかも寿司も本格的。ここの副社長は小田原漁港の買参権を持っていて、アジを買い占めちゃったりするんですよ。
B 千葉の「やまと」も房総のマニアックな地魚が食べられて、東京から近くても地方に行った気分になれますね。
米 関西も面白いよ。大阪の八尾(やお)や岸和田にある「北海素材」は社長が若くておしゃれ志向で、ふたりがけの"ラブチェア"がある。ぶっ飛んでますよね。
村 それなのに、レーンを走ってくるのが新幹線というギャップが素晴らしい(笑)。
米 兵庫の「廻鮮寿し 丸徳」はメニューが「いなりかずき」とか「さだばさし」とか、ダジャレだらけ。
B そっちのネタは昭和テイストで鮮度がちょっと不安です(笑)。僕は和歌山の「弥一(やいち)」が好きですね。那智勝浦(なちかつうら)の生マグロとか、本当に素晴らしい。
■他地域への進出は「知らない」との闘い
村 大阪で最も有名なのは「大起(だいき)水産」でしょうね。本店のある堺の中央綜合卸売市場では、小売りや解体ショーが楽しめる「まぐろパーク」という施設も経営しています。
B ここはマグロ問屋がルーツで、仕入れの独自ルートがあるので競争力が違うんですよ。
米 ところが、関西では有名な大起水産も、2014年から神奈川・古淵(こぶち)のイトーヨーカドーと海老名(えびな)のららぽーとに出店したものの、すでに撤退してしまった。
「大阪で一番の回転寿司が来た!」と知っている地元住民は僕しかいなかったんじゃないかな(笑)。知られていない地域で勝負するのは、やはり難しいんですよね。
村 そういう意味で強いのは、やはり北海道ブランドですね。恐ろしいことに、鳥取で一番有名な回転寿司チェーンの店名は「北海道」。境港(さかいみなと)がすぐそこにあるというのに、ずいぶん思い切りましたよね。
米 昔は「弁慶」という名前だったんだけど(今も1店舗のみ存在)、北海道フェアをやったらバカ売れしたんだって。社長さんが「やっぱり北海道ですよ」って。
B ただ、今はほとんど地元・境港のものを使っているそうです。北海道の意味は「北から獲れた海の幸 道を極めた味で出す」と、看板に書いてますね。確かに、店から北の方角に境港があるので間違いではないという(笑)。
米 九州の回転寿司店でも、北海道フェアをやるとすごく売れるんですよ。みんな北海道に漠然とした憧れがあるんだろうね。
B そういえば、神奈川の藤沢に長崎の「若竹丸」も出店しましたね。「島原ハム」「ハーブ生サバ」といった地元ネタが低価格で楽しめるすごくいい店なんですが、ここも「知らない」との闘いになりそう。
米 藤沢には愛媛の「すしえもん」もある。
村 この店のオーナーはプロ野球元ヤクルト・岩村明憲(あきのり)さんの兄で、元近鉄の岩村敬士(たかし)さん。大学中退でプロテストから合格、引退後に地元の水産加工業に転身して、回転寿司店を成功させたすごい人です。
米 ネタの仕入れもこだわりが強くてすごい。努力家で、しかも愛される人だよね。おれ、筒香(嘉智)のサイン入りグッズもらっちゃった(*米川さんはベイスターズファン)。
B スタッフは野球のユニフォームを着ているんですよね。宇和島の本店もよかったです。あと、同じ四国なら僕は、高知の「寿し一貫」。春は初ガツオ、秋に戻りガツオと、ここのカツオのクオリティは日本一だと断言します!
■「逃してはいけない」一期一会感の魅力
米 僕が九州で一番好きなのは、福岡の天神にある「ひょうたんの回転寿司」。あちこちですでに言われていることだけど、圧倒的な強みが、レーンを流れてくる寿司のクオリティですよ。
村 あのペロペロ事件以来、寿司をレーンに流す店は激減しました。それだけに独自性がありますよね。
米 ひょうたんのレーンに流れてくる寿司は、ちょっと工夫して客が手を出さざるをえないような仕掛けがしてあるんですよ。「あ、これ逃したらもう会えないんじゃないか」という一期一会感。メニューに載っていないネタだったり、作り込み方だったり、圧倒的に面白いです。
B 「ととぎん」の近鉄奈良駅前店は、何十mもある直線のレーンに沿った長~いカウンター席しかない。
米 福岡・飯塚の「一太郎」は、ぐねぐね曲がりくねって250m。逃したら絶対に戻ってこないという重圧(笑)。
回転寿司の面白さの原点はレーンのエンタメ性ですから、こういう付加価値をいかにつけられるか。宝探しみたいにマグロの中にひとつだけ大間産を入れるとか、やりようはいくらでもありますよ。
村 では最後に......今、ひとつだけ好きなメニューを食べられるとしたら、どこの店の何を食べたいですか?
B 魚ではないんですが、青森「あすか」の「嶽(だけ)きみの天ぷら」。岩木山の麓でしか取れない糖度の高いトウモロコシは今が最高でしょう。
あと、つい最近行ったばかりなんですが、岩手・盛岡の「すノ家」が素晴らしすぎました。ほとんどのネタが110円なのに、三陸の幸満載。どうなってんだ。330円の「エイ肝」もすごかった。
米 9月の頭といえば、ちょうど北陸の底引き網で揚がるのが、はしりの「ガスエビ」。禁漁期間にストレスフリーで栄養を蓄えた産卵期前のエビは本当に別格。
東京進出している「金沢まいもん寿司」などのチェーンでも、これは現地店舗で食べるしかない。それを食べにわざわざ旅に出るのも、地方回転寿司の醍醐味(だいごみ)です。
*各チェーンの都道府県表記は発祥地。取り上げたメニューは季節や漁獲状況次第で取り扱っていない可能性もあります