ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。
それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。
そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。
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この連載「ハマりメシ」も早いもので、今回で100回目。
早いもので、ってさらっと書いたけど、本当に早い。毎度毎度、どこそこでなにを食べた。なにを飲んだ。あぁ美味しかった。なんて個人的な話を書き記し、それを人様に読んでもらうことがお仕事になるなんて、ありがたいと言う他ない。しかも、この連載の記事一覧のページを見ると、過去に自分が食べた、美味しかった料理の写真がずらーっと並んでいる(そしてだいたい茶色い)。それを見返すだけでうっとりとした、いい気分になれる。なんて恵まれたことだろうか。あらためて、お仕事をくださった出版社、編集者のみなさま、そしてなにより、それを読んでくださっているみなさま、本当に本当に、ありがとうございます。
さて、そんな記念すべき100回目はなにを食べるべきか。やっぱり、うなぎか寿司か焼肉か。と、思ったけど、あまり背伸びして慣れない店に行っても、緊張で逆にリラックスできない。ここはむしろ、ふだんよりもさらにつつましく食の喜びを噛み締められるような、心の底からしみじみと小さな幸せを感じられるようなものを食べ、初心に帰りたい。
となると、あれだな。ローソンストア100の「ひじきご飯弁当」。以前友達に教えてもらって以来、たまに無性に食べたくなる激安弁当で、税込みでたったの216円ながら、かなりいいつまみになるし、バランス良くできている。ローソンストア100といえば、おかずがウインナーや玉子焼き1種類の「だけ弁当」がSNSなどでも話題になったが、同じ値段でありながらお得感はだいぶ上に感じる。あ、しかもよく考えたら、連載100回目の記念に訪れるにはぴったりの店名だし!
次第に秋めいてきた空に、看板の緑と赤が映える。店内に入り、惣菜や弁当のコーナーへ行くと、お、良かった。売ってる売ってる。無事入手。それと、ちょっと高級品なので、たまに特別な日にだけ買うタカラの「canチューハイ」レモン味、あとは、これも大大大好物の、マルちゃんのカップ「ワンタン」とんこつ味も合わせて購入。なんて贅沢で完璧な組み合わせ!
ワンタン用にお湯を沸かしつつ、弁当のフィルムをはがして開封。まじまじとその全容を眺める。茶飯風に炊かれたごはんの上に、たっぷりのひじき煮、片側には玉子焼き、しいたけ煮、ミートボール、ちくわ天、にんじん煮、野菜かき揚げと、おかずが盛りだくさん。あらためて、これが税込み216円とは信じられない内容だ。
そうこうしているとお湯が沸き、ワンタンカップに注ぐ。僕はこのワンタンがまだ柔らかくなる前の、カシャっとした食感が好きなので、スープを混ぜたらまずはひと口すすり、同時にワンタンをひとつカシャリ。いつ食べても、落ち着く味だ。
そうしたらいよいよひじきご飯弁当。ほんのりとした醤油味のごはんと、甘辛く煮付けられたひじき煮を合わせてぱくり。うんうん。やっぱりうまい。ここでようやく冷た?い缶チューハイをぐびり。あ~、幸せ! 連載100回おつかれさま、自分!
ここからはもう自分のパッションに従うだけのフリーダムな時間。かき揚げ......はもう少し先にとっておいて、ちくわ天からいくか。肉だんごではなく、あくまでミートボールと呼びたいこいつもいい戦力になる。玉子焼きやにんじんもいい味だし、あんまり得意ではないしいたけの煮ものは、途中のどさくさに、ごはんと一緒に口に入れて消費してしまおう。そしていよいよかき揚げ。これが、ちょっと甘いたれがかかっていて、最高にいい酒のつまみになるんだよな~。 と、食べ終わったところでワンタンもチューハイもきっちり飲み終え、大満足でごちそうさま。
さて、次回はなにを食べて飲んだ記録を書くことになるのか。自分でも楽しみだ。
●パリッコ
1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
公式X(旧Twitter)【@paricco】