いま"黄色いカレー"に注目!? カレーのガイドブックを何冊も出版し、横濱カレーミュージアムの初代名誉館長も務めた小野員裕(かずひろ)さん。最新刊『幸福の黄色いカレーを食べられるお店』(八重洲出版)は、昭和の懐かしきカレーライスのガイドブックだ。一体、なぜいま"黄色いカレー"なのか? そしてその魅力とは? 小野さんにせまった!
――小野さんは17歳からカレーの食べ歩きをはじめ、カレーに関する著作を多数発表してきた「元祖カレー研究家」。その小野さんが昔ながらのカレーライスにスポットを当てたというのは、どんな理由からだったんですか?
小野 具体的にはないけどここ数年、子供の頃に食べた懐かしいカレーにしっくりくることが増えたんですよね。年をとったせいもあるんだろうけど「やはりこういうカレーって美味しんだな」と思えてきた。真髄がわかってきたとでもいうのかな。
相変わらずいろんなカレーを食べ歩いていますけど、最近はスパイスカレーのようにオシャレで、見映えが派手なものも多いでしょう。それはそれで悪くないけど、だからこそ王道というか、シンプルで味わい深い昔ながらのカレーが恋しくなってきたんです。
――昔ながらのというと、具体的にどんなカレーになるんですか?
小野 ベースはほぼカレー粉。そこに鶏ガラだったり、サバ節出汁などのお店のスープや隠し味を加えて、独自の味に仕上げる。またご飯に沈みそうで沈まない適度なトロミ感もある。口に入れた瞬間、ホッとした気持ちになれる。そんなカレーですね。恐らく誰もが幼い頃に食べていたカレーで、馴染みがあるんじゃないですかね。
――確かに。でも考えてみれば、そういったカレーのガイドブックってありそうでなかったですね。
小野 そうなんです。今回の本を作ったのもそれが理由で。そもそも明確なジャンルがないですから。ネットで「懐かしの昭和カレー」と検索すれば、ヒットするけどそれでも出てくるのはわずか。ほとんどネットでは調べられません。だからこそ無性に食べたくなるというか。そこで「黄色いカレー」とジャンルをつくることで、自分のように食べたがっている人に紹介しやすいんじゃないかと思ったんです。
――そのガイドブック、早速、拝読しましたけど、ご紹介されているのは聞いたことのないお店ばかりです。
小野 でしょうね。お蕎麦屋さんや大衆食堂や中華料理店などで、世間で言うカレー屋さんはないですから。
――お店選びの基準はどこに?
小野 美味しさはもちろん、あとはなんと言っても黄色(笑)。黄色いカレーと謳う以上、パステルイエローや黄金色など黄色にこだわりました。美味しいけど、茶色すぎるということで除外したお店もあります。とはいえ掲載NGが多くてラインナップを決めるのに大変でしたけど。
――NGってことは、メディアに出たくないと?
小野 そうなんです。どちらも長年にわたって地域に根ざしたお店なので、メディアに出て地元のお客さんに迷惑をかけるのは避けたいって。編集と手分けして、一軒一軒説明しに出かけました。それでも断られたお店もたくさんありましたけどね。
――まさしく足で稼いで作った、貴重な情報が詰まったガイドブックなんですね。
小野 自信をもってそう言えます。そしてなにより危機感を持って作りました。
――危機感、ですか?
小野 そう。ほとんどのお店は、高齢のご主人が経営されているんです。だから後継者がいなくて困っているところばかり。ここで紹介したカレーもいつ食べられなくなるかわからない。いや正直、黄色いカレー自体、絶滅寸前かもしれない。そこで応援するとともに、ちゃんと時代の証として形に残しておきたかったんです。
――なるほど。愛着のあるカレーが食べられなくなるほど、カレー好きにとって寂しいことはないですから。嬉しい方も多いはず! ところで小野さんはカレーに限らず、日々食べ歩きを続け、大衆料理研究家としても活動されていますが、どんな経緯でその道へ?
小野 以前は出版社に勤めていて、プロレスやアダルトの本を作ったり、他社で記事を書いたりしていました。それまでカレーを中心に食べ歩きを続けていたんですけど、ある編集者が「小野ちゃんのカレーの話、面白いから本にしようよ」って声をかけてくれたんです。それで書いたのが最初の単行本(『週末はカレー日和』/1994年)。その後、会社を辞め、食べ歩きを仕事にするようになりました。
――普段はどんな生活スタイルなんですか?
小野 朝6時から仕事して10時に外出。思いついた場所へでかけ、1時間くらい徘徊し、気になったお店でランチ。一旦帰宅して、夕方5時頃に仕事を終わらせて、また外食。そんな毎日ですね。
――リアルに食べ歩き三昧ですね。小野さんのブログを見ると東京じゅうから関東近郊まで出かけ、それこそ古い大衆食堂から居酒屋のランチまで、いわゆる庶民の味にこだわっていますけど、それらは先にネットで調べてから行くんですか?
小野 見ないことはないけど、ネット頼りに歩くのは好きじゃないのでその時々の思いつきでですね。「黄色いカレー」もそうだけど、ネットに出ていない美味しいお店は多いですから。今日は総武線乗ってみるかとか、千葉まで行ってみようかなとか、そんな感じでランダムに歩き回って見つけています。まぁ計画を立てるのが苦手なだけなんだけどね(笑)。
――いい意味で行き当たりばったりだと(笑)。でもめぼしいお店がないときだってあるでしょ?
小野 もちろん。そういう時は諦めて戻ってくる。ブログが書かれていない日は、何も見つからなかったか、とんでもないお店に行ったかどちらかです(笑)。行ったけど載せていないお店は数百軒ありますね。
――長年食べ歩いている小野さんならではの、いいお店の特徴は?
小野 言葉にするのは難しいけど、一番わかりやすいのは、古くから続くお店です。時代の流れに淘汰されてこなかったというのは、食べ物が美味しかったり、ご主人の人柄がよかったり、客層がよかったり、それらが評価されて、生き残っているわけですから。
――以前、どこかのインタビューでお話しされてましたけど、ホスピタリティが大事だと。
小野 それは特にそう。たとえ食べ物が少々イマイチでも、従業員の人柄や接し方がよければいい気分ですごせるから。
――逆にそうじゃないお店に入るとガッカリしちゃいますよね。
小野 そうそう。以前、ある有名な焼き鳥屋さんへ行って、ご主人に「この肉はどこの部位なんですか?」って聞いたら「そんなこと自分で調べてこい!」と怒鳴られちゃって。思わずカッときちゃった。味は最高だけど、もう二度と行かないよね。あまりにひどいお店とは喧嘩したこともある(苦笑)。
その意味で、今回の黄色いカレーのガイドブックに紹介したお店は、ホスピタリティがしっかりしたお店ばかり。ブログでも本でも僕が紹介するのは「美味しくて、毎日、行きたくなるお店」なんです。
――今後の展望は?
小野 ひとつはレトルトカレーを本腰入れてつくっていこうかと。じつは僕、レトルトカレーを長年作っていて、それがどれも好評なんです。今年の夏も「稲川淳二の身の毛もよだつカレー」ってのを作ってヒットしたし、今後もいくつか予定があります。
でも一番はやはり今後も食べ歩きを続けること。どれだけ食べ歩いても、知らない地域にいいお店があると思うと、いてもたってもいられなくなるんです。
●小野員裕(おの・かずひろ)
1959年生まれ 文筆家・大衆料理研究家・出張料理人。17歳からカレーの食べ歩きを開始。横濱カレーミュージアム初代名誉館長を務めるほか、数多くのメディアで元祖カレー研究家として活躍。これまで食べ歩いたカレー専門店は4000軒以上、飲食店は10000軒を超え、現在も食べ歩きを続けている。レトルトカレーのプロデュースも行う。
公式ブログ『毎日が昼めし日和、たまーに居酒屋。』【onochan.jp】を更新中
公式Instagram【@kazuhiro340827】
■東嶋屋
東京都台東区竜泉1-29-3
電話番号:03-3872-6261
11:15~20:00
定休日/日・祝
*現在臨時休業中。10月より営業再開予定。
■丸大ホール本店
神奈川県川崎市川崎区駅前本町14-5
電話番号:044-222-7024
10:00~21:00
定休日/日
■『幸福の黄色いカレーを食べられるお店』
小野員裕著
\1650(税込) 八重洲出版
元祖・カレー評論家・小野員裕氏が、懐かしの黄色いカレーに注目。東京都内~関東近隣の美味しいお店を紹介した一冊。数々のカレー商品のプロデュース手掛けてきた小野さんによる黄色いカレーレシピも収録。