記憶の扉のドアボーイ・山下メロです。今回も平成レトロ時代に忘れられ、記憶の底に埋没しがちな遺産を、一緒に掘り返していきましょう。
さて、皆さんが思い浮かべるシングルCDはどんな大きさでしょうか。アルバムと同じ直径のマキシシングル? それとも平成初期の小さいCDでしょうか。音楽サブスクが主流の今では、物理的な大きさをイメージできないかもしれません。今回は8㎝の短冊形CDについて振り返りたいと思います。
CDが登場した当時は、直径12㎝のアルバムサイズだけでした。CDが普及した後も7インチレコードが販売され続け、そこに登場したのが短冊形CDです。
この短冊形は、すでにレコードショップで使われていた7インチレコードの棚を流用するための規格で、横2列に並べるとぴったり収まる幅になっていました。
しかし7インチレコードの棚を流用した場合、正方形のジャケットだと縦方向の尺が足らず、上からCDのタイトルが見えづらい。その解決策として縦方向が長い、短冊デザインが採用されたのです。なので、ジャケットの裏面には、〝折り畳んで正方形にする〟ための説明も表記されていました。
平成初期の世はドラマやCMからミリオンヒットが連発。若者は流行を追い求め、あえてアルバムより割高なシングルを買っていました。それらを畳まず大切に保管する人が増え、ジャケットのデザインは〝折り畳まない前提〟のものになっていったのです。
かつては別売りされていたプラケースも折り畳む前提の正方形だったものが、折らずに収納できる長方形となり、皆が短冊CDを大切に保管する時代が長く続きました。そして、90年代終わり頃からサイズが12㎝のアルバムと同じマキシシングルが増えていったのです。
当時の人気バラエティ番組『伊東家の食卓』(日本テレビ)では、短冊形CDのプラスチックの網部分で〝卵の白身と黄身を分離する〟って裏ワザをやっていましたので、ぜひとも入手して試しましょう。
●山下メロ
1981年生まれ、広島県出身、埼玉県加須市育ち。平成が終わる前に「平成レトロ」を提唱し、『マツコの知らない世界』ほかメディア出演多数。著書に『平成レトロの世界』『ファンシー絵みやげ大百科』がある