「週末縄文人」がたどりなおす人類の「感動」の歴史とは――「週末縄文人」がたどりなおす人類の「感動」の歴史とは――

スーツ姿のアラサー男性ふたり組が、石斧を振って枝木を集め、火をおこして土器を作り、クマザサでふいた竪穴式住居を建てる......!

「文明をゼロから築く」を目標に掲げるYouTubeチャンネル『週末縄文人』が話題を呼び、このたび、初の書籍化! なぜ彼らは週末限定で不便な縄文生活を送るのか? そこには現代人に響く、深い理由があった。

■自分でおこした火は「美しい」

ふたりのニックネームは縄(じょう)と文(もん)。平日は映像制作会社で働きながら、週末には山奥で縄文活動に励んでいる。森に入った彼らは、撮影用のスマホとスーツ以外に現代的な道具を使わない。

文明の原点である火おこしに始まって、縄文土器、石斧(おの)、ヒモ、竪穴式住居、釣り竿(ざお)、鹿革の上着、弓矢などを、自然界にあるものだけで作ってきた。

「原始的な生活を実践する『Primitive Technology』という世界的な人気チャンネルがすでにあったので、スキルゼロの僕たちはどうしようかなって悩みました。でも、僕たちが(縄文活動を)できるようになるまでの過程を見せることが価値になりました」

「僕らは専門家ではないので、そこはわきまえて、サラリーマンが縄文人に近いことを実践する。そこで感じた主観的なことを伝えています」

YouTubeでは苦労しておこした火を見つめるふたりが「美しい」と感嘆する場面が印象的だ。書籍でも「『美しい』という言葉があんなに自然と口から出たのは、このときが初めてだったかもしれない。それは、『綺麗』とか『かっこいい』という言葉では足りない、神々しさを含んだ存在だった」と綴(つづ)られる。

「あんな高温のものを生み出すって、魔法というか神の所業だなって思うんですよね。僕らのやり方でやれば、みんなも美しいと思うはず」

「山火事を除けば、あんなに赤くて暖かいものって自然界に存在しない。石斧も竪穴式住居も、人工物の整然としたものに触れたときに美しさを感じますね」

ふたりによると、自然由来のものが重宝される都会の生活とは逆に、森での縄文生活では均整のとれた人工物に魅力を感じるらしい。木の板の上で木の棒を回転させて摩擦熱で火をおこす「キリモミ式火おこし」では、安定して棒を回転させるために、真っすぐの木の棒を用意しなければならない。しかし、森に直線的な枝木はほとんどない。

「キリモミ式火おこし」の様子。この方法で火をおこせるようになるまで2ヵ月かかったが、現在は1分で済むという「キリモミ式火おこし」の様子。この方法で火をおこせるようになるまで2ヵ月かかったが、現在は1分で済むという

「直線ってすごく人工的な概念なのだと知りました。都会って直線的なものばかりですよね。人類は自然の中で直線に憧れ続けて、現代はその結果なのかなって思いました(笑)」

■失敗も全部見せるチャンネル

縄氏と文氏は2020年秋に縄文活動を始めた。ふたりは会社の同期入社で、新人研修中の飲み会で意気投合。大学でワンダーフォーゲル部に入っていた縄氏は入社以来、文明崩壊時のサバイバル術をテーマにした番組制作を考えていた。

しかし、実現の可能性が低いと会社では企画が通らない。そこで、コロナ禍をきっかけに「自分でやってしまおう!」と思いつき、文氏に相談することに。すると、文氏の父親が山に土地を持っていることが判明し、ふたりで動画を撮ることになった。

自分たちでおこした火と自分たちで作った土器で、川辺で採ったクマザサのお茶を入れる。とても甘いそうだ自分たちでおこした火と自分たちで作った土器で、川辺で採ったクマザサのお茶を入れる。とても甘いそうだ

「僕は鉄とか石鹸(せっけん)とかを作ろうと思っていたんですが、相方の『どうせならゼロから文明やろうよ』のひと言で今のコンセプトになりました」

「道具を使わない人類の原点からやってみたいと思ったんです。石斧を作るために石を拾うところからやってみたり、文明をはじめから一歩ずつ進めていって、そこで僕たちは何を感じるのか、興味が出てきたんです」

普通のサラリーマンがうまく動画を作れるのか不安はあったが、失敗を繰り返して試行錯誤する姿が人気を博した。木の実をすり潰す石臼を作るために石を32時間かけて削り、魚を捕る網のために蔓(つる)を25時間かけて編んだ。

仲たがいしながら30日かけて竪穴式住居を完成させたときは、ふたりで涙を流しながら抱き合って喜んだ。土器作りがうまくいかないときは、ヒモを粘土に押しつけて縄目の文様を入れた。土器作りの成功を願って、より合わせることで強度が増すヒモの強さを粘土に宿そうとする姿は、まさに縄文人だ。

今やチャンネル登録者数は12万人を超え、動画の総再生回数も約780万回の人気チャンネルになった。

雪が降り積もる山奥で、一心不乱に斧用の石を磨く。長時間磨くうちに、「禅僧のような境地」に至るという雪が降り積もる山奥で、一心不乱に斧用の石を磨く。長時間磨くうちに、「禅僧のような境地」に至るという

「成長していく感じを面白く見せるのは、日本のテレビ的感覚かもしれないですね。失敗も全部見せて、成功するまでの過程を伝えていきたいです」

「例えば、冬だと粘土が硬くなってうまく土器を作れませんでした。そのときは土器っていう無機質なものにもシーズンがあるんだって学びましたね」

「そうそう。釣り糸や縫い糸にするカラムシっていう植物も、梅雨明けに柔らかくなった状態で採らないとダメだったりもします」

■スーツとロン毛は意外と機能的!?

「週末縄文人」のトレードマークは、野外活動には向かなそうなスーツ姿。「サラリーマン」という設定のために痩せ我慢しているのかと思いきや、意外と丈夫で日差しや雨から守ってくれる機能的な服装だという。文氏は、あるときにズボンのお尻部分を大きく破ってしまったが、鹿角で作った針で縫い合わせて大切に使っている。

「週末になってスーツを着ると(縄文活動を)やるぞ!って気合いが入りますね」

また、肩まで伸びたふたりの髪も「縄文人感」を出すためかと思いきや、実用的な理由があるそうだ。

「初めは黒曜石で散髪しようと思って伸ばしていたんですが、実は虫よけに効果的でした」

「森での作業中は虫がブンブンとうるさいんですけど、髪を下ろしちゃえば音をシャットアウトしてくれて、集中できるんです」

「ロン毛は便利です。夏は虫よけ、冬は防寒になります」

■「縄文活動」で現代人が得られるもの

「『週末縄文人』の活動を通して自身が変化したことは?」と尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「物の細かい仕組みを観察するようになりました。

あと、8本の糸を4000回くらい細かく結んだ、水晶のアクセサリーとかも作れるようになりました」

出来上がった石斧。手で持った石(ハンドアックス)では1時間かかった木を、10分弱で切り倒せるようになったという。文明の進歩である出来上がった石斧。手で持った石(ハンドアックス)では1時間かかった木を、10分弱で切り倒せるようになったという。文明の進歩である

「メンタル的な変化も大きくて、トイレが壊れても『自分で直せるはずだ』と思うようになったり、DIY精神が養われました。

あと、料理も洗濯も掃除も、自分が生きていることとつながっていると感じています。住むための家を造り、寒いから鹿革で上着を作れた。そこにたくさん時間をかけて、大変だったけどすごく充実感があって、現代的な生活でも家事の時間が実はとても豊かな時間だと思えるようになりましたね」

そんなふたりは、もっと多くの人に縄文活動を広めたいと言う。そこで、オススメの縄文活動を聞いてみたところ......。

「絶対に火おこし!」

「ライターは使わないで、自分の力だけで火をおこせるようになったら、そこから石斧や土器を作ってみたいと思うはず!」

「そうそう、あの火の美しさを感じてほしい!」

ふたりが使う「火おこしセット」。詳しい使い方は『週末の縄文人』をチェックだ!ふたりが使う「火おこしセット」。詳しい使い方は『週末の縄文人』をチェックだ!

ふたりが次に見据えるのは、弥生時代の鉄器制作や稲作である。

「(週末縄文人には)人類の歴史を1ページずつ丁寧に読み進めているような充実感があります。

土器ができたからドングリを煮てみようとか、石斧が鉄斧になったらもっとでかい木が切れるぞとか、そういう昔の人たちがたどってきた試行錯誤や成功したときの感動とかを皆さんに届けていきたいです」

「石斧で木を切ると、チェーンソーでは味わえないような、自然への"畏(おそ)れ"を感じるんです。春先の木は根から水を吸い上げていて、石斧を振ると返り血のように水しぶきが顔にかかることがあります。

木の生命力を感じて、切ることが怖くなるんですが、道具のレベルアップとともに、世界をとらえる感覚が変わっていくかもしれない。それが楽しみです」

人類が歩んできた歴史を自分たちでたどる「週末縄文人」の活動から目が離せない。いつかふたりが電気を作り、自作のパソコンやスマホを使いこなす日がやって来るかもしれない。

■週末縄文人【しゅうまつじょうもんじん】
都会のサラリーマンふたりが、週末を使って縄文生活をする様子をYouTubeで配信。「現代の道具を使わず、自然にあるものだけでゼロから文明を築くこと」を目的に、ライターを使わずに火をおこし、石を削り出した斧で木を切る。最終的には江戸時代まで文明を進めるのが夢

●文(Mon)
1992年生まれ、東京都出身。幼少期をアメリカ・ニュージャージー州やアラスカ州で過ごす。縄文時代にひとつだけ持っていけるとしたら、アイスクリームを選ぶ

●縄(Jo)
1991年生まれ、秋田県出身。大学時代にワンダーフォーゲル部に所属し、学生生活の多くの時間を山で過ごす。趣味は釣りと料理。好きな縄文活動はヒモよりと土器作り

■『週末の縄文人』
産業編集センター 1760円(税込)
サラリーマンふたり組が、現代の道具を一切使わず、「週末限定の縄文時代」を生き抜く過程を描くサバイバルエッセイ。カラー写真満載。土器や石斧の作り方がわかるコラムも充実

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