秋分の日も過ぎて行楽シーズンがやって来た! 気温も下がり、「ふらっとひとり旅でもしたいなあ」と思う季節だ! そこで5ジャンルの旅のプロにそれぞれの楽しみ方を教えてもらった! 今回はひとりで行く温泉旅を紹介する。【この秋に必ず行っておきたい!男のふらっとひとり旅・温泉編】
■世界遺産の温泉に入ってみたくないか!?
暑さも和らぎ、外出するにはちょうどいい季節になってきた。休日に1泊2日くらいで、ふらっとひとり旅に出るのもいいだろう。そんなとき、真っ先に思いつくのは「温泉にでも入ってのんびりするか」ではないだろうか。
そこで『日本一周3016湯』(幻冬舎)や『ソロ温泉』(ICE新書)などの著書がある温泉ライターの高橋一喜(たかはしかずき)氏に温泉の楽しみ方やオススメの温泉地を聞いた。
「日本は全国に温泉があって、気軽に行けるのがいいところですよね。
それに、今の日本人はSNSなどでいつも誰かとつながっていて、ひとりでボーッとする時間が昔よりも少なくなっていると思います。温泉にスマートフォンなどを持ち込む人はいないと思うので、このときだけは人とつながっていないでボーッとできる貴重な時間になると思います。強制的にスマホから切り離されるというだけでも、とても価値あることだと思います。
それに、昔から湯治(とうじ)という習慣があるように、温泉には疲労回復や病気治療といった効果もあります。休日に観光地を駆け足で巡って疲れて帰ってくる旅よりも、温泉にゆっくり浸かって疲れを取る旅のほうが、忙しく働く人にとってはいいのではないでしょうか」
――疲れが取れるいい温泉の見分け方は?
「私の基準で言うと、まず"お湯がいい"ことです。温泉には『源泉かけ流し』と『循環濾過(ろか)』があります。生ビールにたとえると、つぎたてが源泉かけ流しで、しばらく放置して泡が消えているのが循環濾過です。鮮度も効果もまったく違います。私の肌感覚だと、かけ流しは温泉の3割くらいです。ですから、まずはかけ流しかどうかを確認すること。
それから、ふらっとひとりで行くなら、人けのない温泉地を狙う。例えば、神奈川県の箱根温泉は外国人観光客が多いのでゆっくりできません。でも、その近くの湯河原温泉だとまだ観光客も少ない。北海道も登別温泉は混んでいるけれども、近くのカルルス温泉は森の中で静かです。
また、温泉好きの中では、湯船は小さいほうが人気です。適正なサイズできちんと源泉がかけ流されていることが多いからです。ですから、宿も大きな旅館ではなくこぢんまりしたところを選びます。そのほうが、同じ時間に大勢の食事を出すために天ぷらなどの料理が冷えているということもありませんし、その宿の女将(おかみ)さんが自ら作った郷土料理にありつけることもありますから」
――温泉に入っている以外の時間はどう過ごせばいい?
「だいたい午後3時頃に宿にチェックインして、夕食までの間に一度、温泉に入る。6時くらいから夕食を食べて、その後に温泉に入ってお酒でも飲めば、すぐに眠くなります。それで翌日は、朝早く起きて温泉に入って朝食を食べたら、周りを少し散歩する。すると、それほど暇な時間はないんじゃないでしょうか」
――じゃあ、温泉には3回入るのがデフォルト?
「私の場合はもう少し多くて、宿に着いてすぐに入って、夕食前に入って、寝る前に入って、寝起きで入って、チェックアウト前に入るので、5回ですね。だから、よく『宿で何をしたらいいんですか?』と聞かれるんですが、温泉に入っていれば、暇な時間はなくなります」
「長野県の『野沢温泉』は、初心者の方にオススメです。麻釜(おがま)という源泉がグツグツ湧き出している温泉地らしい場所があります。温泉街も整っていて、お土産屋さんや居酒屋さんも多い。地元の人も入る共同浴場(温泉)もあるので、いろいろ楽しめます。温泉でゆがいた野沢菜が名物ですごくおいしいんですよ。
それから式根島の『地鉈(じなた)温泉』や『松下雅(まつがしたみやび)湯』などもいいです。海のすぐ近くの岩場に露天風呂があるんです。昼は海を見ながら、夜は星空を楽しみながら温泉に入れます。宿は民宿がほとんどですが、見たこともないような魚が夕食に並んだりもします。
伊豆諸島の島なのでフェリーを利用しますが、東京・竹芝から高速船で片道2時間20分。なので、日帰りもできるほどの近さです」
「関西で有名なのは、兵庫県の『有馬温泉』や『城崎(きのさき)温泉』ですが、個人的には和歌山県の『湯峰(ゆのみね)温泉』がオススメです。世界遺産に登録されている熊野古道(くまのこどう)の真ん中あたりにある温泉地で日本最古の湯ともいわれています。中でも共同浴場の『つぼ湯』は、大人ふたり入るといっぱいになる狭さですが、お湯の良さは別格です。熊野古道は世界遺産なので観光客は多いのですが、自然豊かな場所なので静かに入れます。
それから、北海道になりますが『トムラウシ温泉 東大雪(ひがしたいせつ)荘』もオススメです。大雪山国立公園・トムラウシ山の麓にある温泉で、山奥にあるけれども意外とアクセスしやすいです。夏の一時期はバス会社のバスが運行し、それ以外の時期は宿の送迎があります。鹿が飛び出してくるような未舗装のダートをひたすら走って行きますが、それだけに湯船から見る景色は雄大で、心が洗われます」
この秋は温泉にのんびり入って、猛暑で疲れた体をゆっくり休めてみてはいかがだろうか。
【温泉ライター・高橋一喜氏オススメの温泉】
・野沢温泉(長野県)
共同浴場もあり、温泉街も整っていて初心者にオススメ
・式根島・地鉈温泉ほか(東京都)
目の前は海。ほぼ天然の岩場でできている温泉
・熊野古道・湯の峰温泉、つぼ湯(和歌山県)
世界遺産の中にある日本最古級の温泉
・トムラウシ温泉(北海道)
大雪山系の山奥にひっそりとたたずむ温泉
(写真提供/高橋一喜氏、公式X[旧Twitter]は【@solosolo_onsen】)