『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、市川紗椰がアニメ版の『ランボー』について語る。
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アメリカのアニメーション作品には名作と迷作が混在していますが、テレビアニメ版『ランボー』は群を抜いた珍作品だと思います。1980~90年代初頭のアメリカでは、大人向けのハリウッド映画を無理やり子供向けアニメにするというトレンドがありました。「R指定の映画を、なぜ子供番組に!?」という違和感を抱くことなく、小学生時代の私の土曜日の朝はクソアニメで彩られました。
日本でもおなじみのアクション映画『ランボー』シリーズの1作目が公開されたのは1982年。ベトナム戦争で負った後遺症に苦しむ帰還兵ジョン・ランボーは、優秀な兵士だったもののアメリカ社会の反戦的な空気の中で仕事に就けず、罵倒される日々を送っていました。
戦場の悲惨なフラッシュバックのせいでまともに生活できないランボーは、とある保安官に理不尽に逮捕され、追われる身に......。捕虜収容所の記憶が蘇(よみがえ)るたびに殺人マシーンとなるランボーのド派手なアクションの裏に、社会的メッセージが見える映画です。
そして86年、全編を通して超バイオレントで生々しいこの映画を原作にしたキッズ向けアニメ『RAMBO:THE FORCE OF FREEDOM』が誕生。どんな企画会議を経たかわかりませんが、「母国から冷遇を受けて人生を狂わされ、ひどい戦争後遺症に苦しむ男」が主人公のキッズアニメが土曜日の朝にスタート!(私は再放送組で夜に見てました)。とにかく関連の玩具が売れるならなんでもいい、と人気コンテンツに乗っかる悪い大人たちの顔が想像できます。
肝心の内容ですが、とにかくランボーさんが大活躍。1話完結で、ランボー率いるForce of Freedom隊が黒幕チームSAVAGEと戦い、任務を遂行。毎回これです。ほんと、毎回。たまに映画に似た場面がありますが、無理やりキッズ向けのトホホな展開になります(笑)。
ランボーの仲間は、アクロバットと変装が得意な女性兵士(映画2作目のコー・バオがベース)、プロのレーシングドライバー、ホワイトドラゴンという名の忍者、元アメフト選手、ネイティブアメリカンの村長。これぞ多様性! 専門性にも長(た)けている仲間たちですが、彼らが活躍することはなかなかない。任務のたびに招集されるものの、結局はやる気満々のランボーがひとりで解決します。
全65話を通して、レースドライバーがカーチェイスすることはなく、変装の名人が敵に潜入することもない。アメフト選手がどうやって特殊任務で活躍するか想像できないので、画面で見れないのは残念でした。
実際の映画版の音楽を使用しているのも印象的。『猿の惑星』『エイリアン』『スター・トレック』シリーズの劇伴でも知られる作曲家ジェリー・ゴールドスミスのパワフルな劇伴をバックに、ランボーと忍者のワチャワチャや、船上で優雅に読書するランボーの姿が楽しめます。
OP(オープニング)とED(エンデイング)も『ランボー2』の音楽をそのまま使用しており、アニメ用に一切アレンジしていないところが、こだわりなのか手抜きなのかわからないです。
アマゾンプライムなどで配信されたり停止されたりを繰り返しているので、興味ある方は要チェックです!
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。アニメ版『ランボー』は小説にもなったけど、そもそも映画の原作が小説だから、『ランボー』は小説→映画→アニメ→小説の順番で世に出ている。
公式Instagram【@sayaichikawa.official】