ある日、あるとき、ある場所で食べた食事が、その日の気分や体調にあまりにもぴたりとハマることが、ごくまれにある。

それは、飲み食いが好きな僕にとって大げさでなく無上の喜びだし、ベストな選択ができたことに対し、「自分って天才?」と、心密かに脳内でガッツポーズをとってしまう瞬間でもある。

そんな"ハマりメシ"を求め、今日もメシを食い、酒を飲むのです。

* * *

連載108回目。108といえば、人間の煩悩の数。毎度毎度、欲望のままにただメシを食い酒を飲む。今どき珍しいくらいに潔い内容のこの連載にはぴったりの数字だ。本来、心のなかから極力捨てたほうがいいものではあるらしいが、根っから飲み食いが好きな僕にはまだ当分そんな気配はない。今日も今日とて煩悩にまみれた食事を摂取し、そういうことが許される環境のありがたさに感謝したい。

さて、僕のなかで煩悩を象徴するメニューといえば当然「カツカレー」だ。40代なかばという年齢的に、日常的に食べることは難しいくらいヘビーなメニューになってしまったけれど、いちばん好きな食べものという事実に変わりはない。よし、駅前まで、カツカレー食べに行こ~っと。

「松のやマイカリー食堂 石神井公園店」  「松のやマイカリー食堂 石神井公園店」

駅へ向かう道すがら、大好きな老舗定食屋「辰巳軒」、もしくは町そばや町中華のカツカレーも候補に考えたけど、けっきょくここにやって来てしまった。「マイカリー食堂」。好きなんだよな、ここの、松屋系列の攻めたカレーが。加えてここは、とんかつの「松のや」併設店だから、揚げもののクオリティーにも絶大な信頼がある。個人店の人情や、店の味わいに身を浸しながらの食事は大好きだけど、チェーン店はそういう要素が薄いからこそ、カツカレーへの没入感が高まる。より煩悩集中度が深い気がする。って、我ながら毎度、その場の思いつきを書いているだけにもほどがあるけれど、とにかく今日はマイカリー!

ここはそもそも、並盛690円の「ロースかつカレー」が、この世でもっとも完璧な存在のひとつとして完成されすぎているので、普通にカツカレー欲を満たすならそれを選んでおけば間違いない。けれども今日はもうちょっとわんぱくにいきたい。「ごろごろ野菜ロースかつカレー(トッピングビーフ)」ってすごいな。とんかつののったごはんの横に、でっかい角切り牛肉と野菜がごろごろ。派手だ。変わり種で「ロースかつバターチキンカレー」なんていうのもおもしろい。

が、最終的にターゲットに決めたのは「ロースかつオムレツカレー」だ。オムレツとカレーなんて合わないはずがないのに、なぜかいちども食べたことがない。今がタイミングな気がする。それを、890円の並盛ではなく、20円安い「少なめ」にして、そのぶんトッピングも加えてしまおう。今日はとことんわんぱくに、ソーセージとチーズでどうだ!?

「ロースかつオムレツカレー(3辛 / 少なめ)」(870円) 「ロースかつオムレツカレー(3辛 / 少なめ)」(870円)

「トッピングソーセージ」(80円)「トッピングとろーりチーズ」(110円) 届いたカレーが、あまりにも中高生男子の夢を具現化したようなビジュアルで笑った。しかも、やりすぎ感はきっちりとありながら、それでいて全体がどこか絵画のようなバランスで美しくまとまっているのもいい。

当然、ビールだって飲んじゃう。生の他に、お手頃なアサヒの「生ジョッキ缶」があるのが嬉しい。

「生ジョッキ缶」(290円) 「生ジョッキ缶」(290円)

こいつは景気のいい料理だ! こいつは景気のいい料理だ!
さて、序盤は当然、カレーの浸っていない両端のとんかつに中濃ソース、オリジナルソースをかけ、純粋とんかつを味わう。さっくさくで香ばしい衣とジューシー豚肉。それをつまみに、ビールを缶からごくごく。うん、煩悩!

華やかな味わいのオリジナルソースがより好みです 華やかな味わいのオリジナルソースがより好みです

フルーティーで味濃いめのカレーがビシッとうまいのはいつものとおりだけど、さてオムレツとの相性はどうだろう。オムレツ、絶妙~にとろっとろで見事な仕上がりだ。チェーン店でこのクオリティーを保てるって、かなりすごいことだと思う。ごはん、カレーとともにスプーンですくってぱくり。もぐもぐ。

オムレツカレー オムレツカレー

おお! これは、そうか、こういうことになるのか。エッジの立ったカレーの味わいが、とろとろ玉子のおかげでものすご~くまろやかになる。味は同じはずなのに、「カレーソースオムレツ」という、まったく別の料理にすら感じる。長く松屋系列カレーのファンをしているけれど、初めての体験。なるほど、これはこれで、という感じもするけれど、ありだな。

トッピングのチーズ、どういうふうに出てくるかと思ったら、とんかつにかかってきたか。とんかつのチーズがけ。一般的にはあまり見ない料理だ。それがオムカレーにのっている。つまり、「とろーりチーズロースかつオムレツカレー」。いいなぁ、この掛け算の過剰さ。

とろーりチーズロースかつオムレツカレー とろーりチーズロースかつオムレツカレー

ここまでくるともう、細かい感想をこねくり回すほうが野暮ってもんだ。うまいとんかつにチーズがかかっている! それがうまいオムカレーにのっている! 以上、なんか文句あっか! っていう味。まずかろうはずがない。が、繊細さとかバランスとか、そういうものを求めてはいけないよ、っていう。あ、別にバランスが悪いとかそういうわけじゃないですよ。ちゃ~んと美味しい。きちんと計算されている。ただそれ以上に、この全部のせ感の、いい意味でバカっぽい楽しさが勝ってしまうというか。

燻製風味強めでパキッとしたソーセージももちろん美味しかったけれど、さすがに今回の組み合わせに対してはやりすぎだったかな。お腹いっぱい。だけど、最初に届いた時のワクワク感を思い出すに、煩悩を満たすという目的でやってきた今日に限っては、ビジュアル的に不可欠だったと今も確信している。

あぁ、今日も楽しい食事だった。さて、次回はどんな街のどんな料理に出会えるか。自らの欲望センサーを磨きつつ、引き続き楽しんでいきたい。

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パリッコ

パリッコぱりっこ

1978年東京生まれ。酒場ライター、漫画家、イラストレーター。
著書に『酒場っ子』『つつまし酒』『天国酒場』など。2022年には、長崎県にある波佐見焼の窯元「中善」のブランド「zen to」から、オリジナルの磁器製酒器「#mixcup」も発売した。
公式X【@paricco】

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