旅人マリーシャたびびとまりーしゃ
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。2014年より『旅人マリーシャの世界一周紀行』を連載。
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「ちょっとロンドン行ってくるわ」
過去に出会った旅人で、"エジプトで沈没してる間に『ドラクエ』をクリアしてた"というイカれ......イカした日本人男性がいたが、彼がある日そう言った(「沈没」とは、居心地の良さのあまり一ヵ所に長く滞在してしまうという意味の旅人用語)。
物価激安国エジプトから最も物価高の英国へ行くなんて、きっと恋人に会いに行くに違いないと思ったら、
「治験だよ」
治験とはご存知の通り、新しい薬を世に出す前に実際にヒトに投与して有効性や安全性などを確認する臨床試験のこと。世界各地で実施されており、特にロンドン治験は知名度もあり人気です。
人種別の検査も行なわれるためアジア人枠が存在するらしく、日本人の長期旅行者には割とメジャーなものだとか(但し、治験目的の入国は拒否されるそうなので注意)。
治験はあくまでも「ボランティア」としての参加だそうで、彼らが治験をする目的は謝礼金として支払われる高額報酬。案件によって金額は異なり、何十万、何百万という額がもらえることも。また宿泊費や渡航費が支給されることもあり、これは私のような節約型の旅人から見ると夢のような話です。
治験中は食事や行動などの制限もあり、もちろん自由に旅ができるわけではないですが、その前後を利用してうまく旅をすることはできそう。連続で治験を受けたい場合も休薬期間が必要となるため、その間に物価の安い国でのんびりとテレビの前でドラク......、いえ、世界の街中を『ドラクエ』のように旅したら良いでしょう。
拠点にする国を決めて時々治験に出稼ぎに行くという生活、これはひとつの海外移住スタイルと言って良いかもしれない。
そんな彼(40代)は今もなお治験を続けて世界を旅していた。
「かれこれ10年この生活だよ。コロナ禍に2年間日本に帰国したけど、それ以外はヨーロッパやアメリカなどを転々としてる。治験はアメリカ、イギリス、ベルギー、韓国でやったよ。
海外でお金を稼ぐ方法としてノマドだったりバスキング(路上パフォーマンスなど)だったりがあるけど、私は特にそういった才能がないので旅費のために治験をしている感じ」
10年も生活が続けられるなんて、一体治験でいくらぐらい稼げるのか聞いてみると、
「報酬はアメリカが1番高くて最近だと1回300万円の案件が出てたよ。でも40日以上の入院や休薬期間も必要だからビザのない旅行者だと厳しいけどね。プロ治験者の中には年間1000万円以上稼ぐ人もいるよ!」
なるほど、生きていくには十分だしなんなら余るほど?
「私は貰ったお金は旅費や海外での生活費に使ってしまうけど、中には起業するための運転資金にしたり、FXや仮想通貨などの投資運用などに使っている人もいたよ」
なんと、こんなところにそんな"治験ドリーム"があったとは。
ところで治験をする人たちのことをチケラーと呼ぶそうですが、これからチケラーを目指す人たちのために拠点にするならどこがおすすめかを聞いてみました。
「アメリカでの治験が1番種類が豊富で報酬も良いけど、物価も高いので入院から入院の間とかはメキシコに行くのがオススメ。でもメキシコだとアメリカ出国と認められないので、ビザがない人は滞在日数に気をつけないといけないよ」
メキシコラブの私からしたらなかなか魅力的な暮らし方ですが、チケラーに必要なものとは?
「高血圧の人や痩せすぎ、太りすぎな人は治験に受かりづらいので、まずは健康な身体が必要! あと投薬出来たとしても入院中は病院から出られないので、1ヵ月とか長い入院になるとやることが無くなるため、暇でも気にならない人に向いてるかな。ご飯も毎日決まったものしか食べれないから、好き嫌いがあると辛いかも」
治験は危険そうに思われることもあるけれど、そもそも健康体であることが条件だったり、採血や食事、酒タバコなどの制限もあるので、その辺の人よりよっぽど健康的かも?
「基本、治験中は留置針っていうプラスチック製のカテーテルを使うのですが、この前行った病院ではそれを使わずに1日十数回採血で刺されてしまい、その日は腕がパンパンになってしまいました(笑)」
彼らのおかげで世の中に新しい薬が届けられ、私たちが安心して使用できていると思うと、その存在に感謝です。
あ、あと変な意味じゃないけど(?)、治験の現場での出会いってあるんですか?
「案件は男女別のものが多いので、私は日本人女性と一緒に治験したことはないですが、病院施設に行くと他の外国人治験者や看護師の人との出会いはあります。
同じグループの人は基本、全員日本人なので、入院が長いとゲームしたり、ネットフリックス見たりして仲良くなったりしますが、みんな報酬が目的なので旅友のように積極的に仲良くなることは少ないかなと。
でもコミュ力高い人は、次の通院まで1ヵ月とか期間が空いていたりすると同じ治験者とレンタカー借りて旅行したりしていますよ」
一緒にゲームやネトフリに旅行、正直とっても楽しそうな響きです。もしかするとここでドラクエの......じゃなくて人生のパーティー(仲間)が見つかることもあるかもしれない。
※当コラムは治験について肯定や否定、また参加を助長するものではありません。
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。2014年より『旅人マリーシャの世界一周紀行』を連載。
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