宇宙クジラとの写真がなかったので、代わりにイワシとのツーショットを。東京・蒲田の名店「スズコウ」にて 宇宙クジラとの写真がなかったので、代わりにイワシとのツーショットを。東京・蒲田の名店「スズコウ」にて
『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、市川紗椰がSFで描かれる「宇宙クジラ」について語る。

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宇宙は海にたとえられることが多いですよね。不思議に満ちた無辺の空間。危険と隣り合わせの自由。ゆらゆらと漂うイメージや、未知なる世界が持つロマンと恐怖も似ています。どっちも「船」で冒険しますが、海のように、宇宙を魚が泳ぐ描写を見ることはあまりありません。

しかし、宇宙を題材にした作品の多くには、クジラが登場します。『マクロス』『機動戦士ガンダム』『ドクター・フー』など、やたらに登場するSFの伝統、"宇宙クジラ"について考えてみました。

最近では、『スター・ウォーズ:アソーカ』の宇宙クジラ・パーギルの活躍が印象的ですが、私が宇宙クジラに最初に出会ったのは『新スター・トレック』90話か、小説『銀河ヒッチハイク・ガイド』だったと思います。「元ネタはこれ!」と断言できる明確な宇宙クジラの起源はないようですが、調べてみると、1960年代、70年代からポップカルチャーに出現します。

その背景は、研究の進展。宇宙開発への関心が高まる一方、海の生物の生態についての研究も進みました。中でもクジラの知能の高さや、音声でコミュニケーションを取っていることに注目が集まります。

70年には海洋生物学者のロジャー・ペイン博士によるクジラの歌を収録したアルバムがヒットしますが、その神秘的な響きは今聴いてもどこか宇宙的です。こういった時代背景と環境汚染問題への意識の高まりは、フランク・ハーバート著『デューン砂の惑星』(65年)や『スター・トレックⅣ 故郷への長い道』(86年)からもうかがえます。

科学の最先端を精神世界とつなげるのもSF的な発想。『旧約聖書』に「ヨナとクジラ」という有名なエピソードがあるように、クジラには宗教的な意味合いもあり、メタファーにしやすいのかもしれません(62年の小説『ジョナサンと宇宙クジラ』など)。

クジラの雲のようなフォルムにも理由があると思います。天体や古代的なイメージがあると同時に、巨大なものが浮かぶ違和感にはシュールレアリスム的な魅力がある。さらに当時流行していたブラックライトポスターの題材として宇宙もクジラも映える。

日本のSFに登場する宇宙クジラには、クリスチャン・ラッセンの影響もあるかも!? ラッセンの幻想的なマリンアートがはやった90年代には、『ああっ女神さまっ』や『マクロス ダイナマイト7』などのアニメに宇宙クジラが登場。

『美少女戦士セーラームーン』ではネプチューンがラッセン的な宇宙クジラの絵を描いたり、物語に関係ないところでも登場します。2000年代では、『ギャラクシーエンジェル』のクロミエ・クワルクの肩に乗っている子宇宙クジラがお気に入り。

と、いろいろ書きましたが、シンプルにロマンがありますよね。宇宙船や惑星と同じ大きさの生き物が宇宙にいる。しかも怪獣ではなく、クジラのようにマイペースで知的なもの。

今注目している作品は、劇場版『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』。20年ぶりの新作ですが、PVに宇宙クジラの姿が! 前作ではチラッと話に出ただけだけど、今回は物語に関わってくるのか!? 宇宙クジラの歴史にどんなページが書き加えられるのか、楽しみです。

●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。「宇宙」を松本零士さんは「うみ」、富野由悠季さんは「そら」と言うから、「宇宙」にはふりがなが必須。公式Instagram【@sayaichikawa.official】