旅人マリーシャたびびとまりーしゃ
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。2014年より『旅人マリーシャの世界一周紀行』を連載。
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前回に引き続き、世界一周中に泊まった印象深い宿のお話を。バックパッカータイプの旅人といえばやはりこんな宿に縁がある。
インド、スリランカ、モルディブと旅した後に実は訪れていた"東洋のラスベガス"マカオ(2015年)。コラムでは特に触れていなかったマカオだが、アジアの中では物価が高く安宿探しが難しかったのと、ただひたすらカジノで貴重な旅費を溶かした思い出深い旅先です。
マカオで一際目立つ52階建てのカジノ「グランド・リスボア」は蓮の花をイメージしたそうだが、ギラギラと金色に輝く煌びやかなデザインはいかにもアジアという感じ。
その麓には、5階建くらいの廃墟のような建物が佇んでいる。雨水のシミのようなものが目立つコンクリートの建物に恐る恐る近づいてみると「昌昌賓館」と書かれた看板を発見。旅人の常宿として知られている安宿である。旅人だけでなく"ビンボープレーヤー"と呼ばれるギャンブラーにもファンがいるとかいないとか。
例に漏れず私も一目散にその宿に向かったが、周りの豪華なカジノとのギャップのせいか、建物の薄暗い雰囲気にどこか馴染めない。
バス・トイレなど最低限のものは揃っていても、二人部屋で一泊400香港ドル(当時約6000円)は、直前にインドで数百円の宿を体験してきた身としてはコスパにどうも納得がいかない。他にも何軒も宿をまわるが、連れ込み宿みたいなところばかりで決定に至らなかった。
仕方ないのでとりあえずカジノへ行って大勝ちしたら良いホテルに泊まろうと思った。が、まさかそんな夢が叶うわけもなく......。私は旅人の裏技を使うことにした。
「必殺国境越え!」
マカオは1999年にポルトガルから中国に返還されたが、「一国二制度」のため中国との間には出入国(境)検査場がある。隣接する広東省珠海市との行き来にはパスポートが必要で、言葉も違えば文化も違い、物価も違う。
一日に通過する人の量が世界最大級を誇る国境だが、外国人は専用レーンがあるので意外とスムーズ。珠海の物価はマカオより安いので、ここで宿探しするのが旅人に知られた裏技だ。
街中で安宿がないか聞いてみると、おばちゃんに連れて行かれたのは団地のようなところで普通にその人の家。別にそれでも良かったが、Wi-Fiがないので却下。続いて「十号别墅青年旅舍」というユースホステルもあったが、ここまで来たのだからもう少し粘って最安値を探してみる。
「住宿」と書かれた路上の看板で立ち止まると、そこは見た目はマッサージ屋であったが、まるで美容院の奥にバーがあるスピークイージー(隠れ家スタイルのバー)のように、上階には宿泊できる部屋があった。
シンプルにマットレスが置かれただけだったが陰気臭さはなく、すごくよく言えばアジアンテイストのオシャレ空間と言えなくもない(今思えば、マッサージの個室と兼用だったのかも?)。98元(約2000円)と安く済ませられたので、そこに決定。
ちなみに中国や香港ではホテルの表記に「飯店」「酒店」「大酒店」「大飯店」などがあるが、その次に「旅社」「招待所」「青年旅舍」、さらにランク下の宿に「住宿」などがある。ところで「飯店」がホテルならレストランはどう書くのだろうかと思ったら「餐館」や「餐厅」だった。
言葉が通じない国でも漢字を書けば筆談で伝わるなんて誰が言ったのだろう。せっかく中国側に来たので小旅行でもしようかと思ったが、珠海では本当に言葉が通じず紙に書いても全くダメ。世界を旅する私だが、旅行会社のデスクでバスひとつ手配できる気配がなかったので諦めた。
珠海では、安宿とどこで食べてもそこそこ美味しい中華料理を楽しむだけで特に観光はせず。
再びマカオ側へ行けば国境に来るカジノの送迎バス内のWi-Fiが快適すぎて、思わず乗ってしまう。結局またカジノへと運ばれる。毎日国境を超えてカジノと住宿を往復する数日を過ごしながら、貴重な旅の資金を溶かすのでした。
マカオの後はフェリーで香港へ移動。これまたコラムでは触れていなかった旅先だけれど、私はここで行きたい場所があった。沢木耕太郎の『深夜特急』にも登場する「重慶大厦(チョンキン・マンション)」だ。
かつて巨大なスラム街として名を馳せた「九龍城砦」の現代版とも言われ、数多くの安宿が密集するビルとして旅人の間ではあまりにも有名。好んで泊まるようなところではないのは明らかであるが、もはやちょっと憧れており一度は泊まってみたいと思っていた。
バックパックを背負った私が入り口に立つなり、複数のインド人に囲まれ宿の勧誘をされる。人の壁で前に進めないその圧こそすさまじかったけれど、ちょうどインドを旅した後だったため私は動じず、
「あー、はいはい、検討するからショップカードだけちょうだいな」
とまずは切り抜けた。宿泊せずとも旅人に必要なのは両替であるが、ビルの中へ進むと、左右には両替所がずらっと並ぶ。入り口に近いほどレートが悪く、奥に行くほどレートが良い。奥へ進む勇気ある者だけがお得な両替ができるといったシステムだった。
もちろん私は一番条件の良さそうなところで両替をし(今思えば少額をお得なレートで両替したところで...という感じなのだが)、当時の私は満足気に鼻の穴を膨らましていた。
ビルの奥は異国情緒たっぷり。中国の雰囲気はどこへやらでインドや中東の色が強い。携帯ショップなどの怪しげな電気店やハラルフードの店が並び、美味しいと評判の多くのカレー屋が集まるがぼったくりの噂もあるので要注意。(カレー屋は30軒ほどはあるとか?)
入り口に戻りインド人に宿の案内を頼むと、待っても待っても順番のこないエレベーターでやっと連れて行かれた先は殺風景な入り口の宿。
部屋はほぼ足場のない感じで、壁にピッタリと挟まれたシングルベッドのみの極狭空間ながらも清潔な感じでちょっと想定外。変な匂いもしないし、クーラーもあり悪くない。閉鎖的なスペースだけれど一泊2000円程度だったのはありがたかった(詳しい値段失念)。
いくつか部屋を見たが最安値の部屋はどこも似たりよったり。寝るだけの部屋を拠点に夜は香港島のイルミネーションを見に行ったり、女人街(トンチョイストリート)の露店でキャラクター物のUSBメモリを買ったら見事に壊れていたり。
香港ってさほどすることはないけれど、ミシュランの星が輝く「添好運(ティム・ホー・ワン)」の飲茶はやっぱり美味しかったなと思いながら、一番の収穫は重慶大厦に泊まったことだと思う旅人でした。
一時は"悪の巣窟"とまで言われた重慶大厦も、世界中から旅人が集まることで観光地化され、年々怪しさはなくなり治安も良くなっているとか。先日は日本のテレビ番組でも「香港イチ旨いカレー屋がある」と放送され、今やカレー屋の巣窟と言っても過言ではない?
* * *
近年、日本の2倍以上の物価が叫ばれるマカオや香港ですが、宿探しに困ったら旅人の常宿へもぜひ訪れてみてください!? (最新の情報は宿にご確認ください)
それでは皆さま、良いお年を...!
★「世界の宿」シリーズ、次回へとつづく...(1月11日更新予定)
平川真梨子。旅のコラムニスト。バックパッカー歴12年、125ヵ国訪問。地球5周分くらいの旅。2014年より『旅人マリーシャの世界一周紀行』を連載。
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