『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。前回に引き続き、今年の干支である「辰」がつく駅に注目。今回は世界の"辰鉄スポット"について語る。
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前回は今年の干支(えと)「辰(たつ)」にちなんだ鉄道スポットに注目しました。辰巳(たつみ)駅、辰野駅をはじめ、竜ヶ崎線や天竜浜名湖鉄道、「ドラゴンレール」の愛称を持つ大船渡線などを取り上げました。その後、日本以外にも"辰鉄スポット"があるのか気になり、世界の路線図などを物色。その調査結果を発表します。
中国にはやっぱり「龍」のつく駅が多くありました。国有鉄道である国家鉄路の龍家営(ロンジャイン)駅や、上海空港と市内を結ぶリニアモーターカー、マグレブの始発駅である龍陽路(ロンヤンルー)駅などたくさん。台湾MRTにも、パワースポットとして日本人にも人気のある龍山寺(ロンシャンスー)駅や迴龍(ホイロン)駅など多数あります。
ヨーロッパの辰鉄スポット代表は、「竜の岩鉄道」を意味するドイツのドラッヘンフェルス鉄道(Drachenfelsbahn)という登山電車でしょうか。同名の岩山、Drachenfelsを走る登山電車で、最大勾配200‰(パーミル)を上り下りします。
起点のドラッヘンフェルス駅に加え、「竜の砦」という意味のドラッヘンブルク駅もあり、周辺にはドラッヘンブルク城も。ドラッヘンブルクは、リヒャルト・ワーグナーの楽劇の題材にもなった中世の叙事詩『ニーベルンゲンの歌』で、英雄ジークフリートが山の洞穴にすんでいた竜を退治した場所としても知られています。
ちなみに、ドラッへンフェルス鉄道はラックレールを使用しています。2本のレールの間に設置された歯車を使って登坂する方式で、日本では静岡の大井川鐵道(てつどう)井川線で採用されています。少し(かなり)こじつけですが、この歯車レールが竜の背中に見えなくもない。
アメリカには辰鉄スポットはないのかと思ってましたが、見つけました。ユタ州にDragonという、なんともストレートなネーミングの町があります。今はゴーストタウンですが、かつては鉱業で栄えたDragon。
最寄りのドラゴン駅は、当時走っていたユインタ鉄道の一番大きい駅で、住民や鉱物の輸送以外にも、図書館の本を無償で運んで地域に配るという珍しい取り組みをしていたそう。人口増加に伴って延伸までしましたが、1938年に鉱山が閉鎖。ユインタ鉄道は39年に廃線となりました。ドラゴン駅の跡は残ってないようですが、少し離れた地域のホテルに当時の車両が保存されているとの情報がありました。
ちなみに、ユインタ鉄道にはレインボーという駅もあったそう。「ドラゴン」と「レインボー」という廃駅があるゴーストタウン、かわいいけど怖い。異世界転生ごっこにもってこいです。
世界中の辰鉄スポットを見ていると、なぜこんなにもさまざまな文化圏の神話や伝説に竜が存在するのか不思議に感じます。架空の生き物なのに、ヨーロッパ、アフリカ、アジア、メソアメリカ(メキシコ、中米北部の古代文明圏)など、古今東西の地域に空飛ぶ巨大爬虫(はちゅう)類らしき生き物の伝説が。
邪悪なモンスター寄りの中世ヨーロッパのドラゴンに対して、東アジアの竜は幸福を呼ぶ神聖な存在だったり、アステカ文明の竜は農耕の神として崇拝されたりと、とらえ方に違いはあるものの、姿形は似ている。恐竜の骨から想像したのか? いつかここで考えます!
●市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。一番強そうな"辰鉄駅名"は、福井県大野市にある「九頭竜湖駅」。公式Instagram【@sayaichikawa.official】